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心の在処  作者: Jemko
本編
10/10

黒猫と黒紳士

ナイフに塗りつけてあった毒が体に回り倒れてしまうレオン。それを見たジークの怒りが爆発し、タタルを殴り飛ばしてから槍でトドメを刺そうとするも既の所でジムに止められてしまい、二人は一触即発の事態になっていた。

―村長の家―


ジーク「俺とやろうってのか?」

ジム「それも面白そうだけど、今回はやめておくよ。子供が見てるからね」


そう言ってナイフを懐にしまうと家の中へ戻るジム。

そんな彼の後姿を目で追っていると、視界の隅に映るマリンの姿に気づく。

その顔は今にも泣き出しそうにクシュっとしていて、それを見たジークが~ふぅ・・・~と溜め息をつくと、持っていた槍と怒りを収めて家の中へと戻る。


ジーク「マリン、怖がらせて悪かったな」


頭を撫でながらそう述べると、マリンは少し照れながらも安心した様子で小さく頷いた。


ジーク「ジムにも迷惑かけたな」

ジム「構わないよ。それよりもレオン君の容態が悪化しているようだ」


レオンは見るからに辛そうにしていたが、仲間達にはどうする事もできず、猫三郎先生の到着をただ待つのみ。

数分の時が流れると、猫三郎先生を呼びに行っていたミラが首根っ子を掴んで戻ってくる。


ミラ「みんな、先生連れてきたで」

猫三郎「今度はどうしたのにゃ?」

リリィ「レオンが毒に犯されてしまって」

猫三郎「にゃんと!早速治療しないとにゃ」


持っていた箱から液体の入った瓶を取り出すと、少しづつ慎重に飲ませていく。

次第にレオンの顔色は良くなり、落ち着きを取り戻して静かに眠りについた。


リリィ「大分落ち着いたようですわね」

猫三郎「この薬は一時的なものにゃ。完全に治したいなら【レンビョウ】の病院に行った方がいいにゃ」

ジーク「それは何処にあるんだ?」

ジム「ミュジカに行く際に通るから、僕が案内するよ」

リリィ「お願いしますわ」

猫三郎「これを持って行くといいにゃ」


ネコの肉球マークが入った手形を渡される。


リリィ「これは?」

猫三郎「レンビョウにいる【猫太郎】兄さんに見せるといいにゃ。きっと力になってくれるのにゃ!」

ミラ「先生、おおきにな」


話がまとまった所でジークが"よいしょ"とレオンを背負い、ミラが村長に挨拶を済ませると、ジムを先頭にして歩き始める。



―動物の森―



村を出た一行は長らく森の中を歩き、ようやく出口に辿り着こうとする最中。

不意に"おーい!"と呼ぶ声が聞こえたので振り返ってみると、全速力で向かって来るタタルの姿があった。


タタル「ぜぇ・・・はぁ・・・、やっと追いついた」

ミラ「どないしたん?」

タタル「あの、これ・・・」


手に持っていた小瓶をミラに渡すと、足早にその場を去っていく。


ジーク「なんだその瓶?」

ジム「毒の様だね。それがあれば処方もしやすいだろう」

ミラ「あの子なりに考えた罪滅ぼしの仕方なんやろね」


毒の原液を受け取ると再び歩き出し、森を抜けた先には一本の街道が見える。

向かって左側の道に沿う様にして街道に戻ると、急いで町を目指した。



―レンビョウ―



長い事街道を進むと医療の町レンビョウへと辿り着く。

町には真っ白に塗装された建造物が数多く立ち並び、時折、消毒液の"ツン"とした臭いが漂ってくる。


ミラ「う~、くっさいわ~」

ジム「フフッ。それじゃ手分けして探そうか」

ミラ「うちは単独で探すで」

ジム「僕も一人で探すから、君達はレオン君の傍にいてあげてくれ」

ジーク「あぁ、二人共頼んだぜ」


ジムは颯爽と走り出し、ミラは屋根に飛び乗り高い場所からの捜索を始める。


ジーク「ヒュー、二人共やるな」

リリィ「わたくし達も探しましょう」


ジーク達は町の中を歩き回って人々に聞き込みをしてみるが、一向に猫太郎の情報は出てこない。

そんな状況が長らく続くと、薬の効果が切れたのかレオンが苦しみ始める。


レオン「ぐっ!うぅ・・・うああ!!」

ジーク「おいおい、やばいぞ!」

リリィ「また熱が出てますわ!」

ジーク「こりゃ猫探してる場合じゃねぇな、近くの病院に行くぞ」


急いで近くの病院に駆け込み受付の看護婦に事情を説明する。

頭の硬い看護婦はまともに取り合ってくれず、それでも根気良く説得を試みる。


ジーク「早く治療してやってくれよ!」

看護婦「だから、当病院は予約制でして」

リリィ「急患ですのよ!」

看護婦「ルールはルールです」


つい先程のジークなら槍を突きつけて脅していただろうが、今回は一味違う。

怒りを抑える為にゆっくりと深呼吸すると一言、こう述べた。


ジーク「直談判するぞ!」

リリィ「えぇ、行きましょう!」

看護婦「あんた達!待ちなさい!」

マリン「ベー、っだ」


看護婦の制止を振り切って通路を進み、先の階段を上ってうろちょろしていると、院長と書かれたドアを見つける。

仲間達は互いに顔を合わせて軽く頷くと、ドアを勢い良く開けて部屋に踏み込んだ。


ジーク「どりゃー!」

???「ヌワーオ!!」


突然開いたドアに驚いた男性がひっくり返る。


ジーク「なにやってんだおっさん?」

???「君達、驚かさないでシルヴプレ」


男性は髭を生やし、黒いマントに黒いスーツ、黒いシルクハットを被り片眼鏡を掛けた、黒尽くめの紳士だった。


リリィ「突然失礼致しましたわ。院長さんにお願いがあって参りました」

黒紳士「マドモアゼル、それは人違いですよ」

ジーク「じゃあおっさん誰だ?」

黒紳士「ただの客人です」

ジーク「それにしては変な格好してるな」

黒紳士「ギクッ!」

マリン「ねーねー、床にお金が散らばってるよ」

黒紳士「ギクギクッ!!」


そんな怪しい紳士の相手をしていると、先程振り払った看護婦が息を切らせてやってくる。


看護婦「ぜぇ・・・ぜぇ・・・、あ、あんた達、何やってんの!」

ジーク「院長に直談判しにだな」


そんな言葉を聞きもせず、荒らされた金庫。

床に散らばった札束に黒紳士という異様な光景を見た看護婦が一言。


看護婦「泥棒ー!!」

ジーク「いやいや俺たちは違うって」

黒紳士「フフフ、それでは皆さん御機嫌よう」


笑みを浮かべながら一礼すると、背中から二枚の黒い翼が飛び出し、窓ガラスを突き破って飛び去っていく。


マリン「すごーい!」

ジーク「あのおっさんナニモンだよ!?」

看護婦「だれかー!早くきて-!」


相変わらず叫び続ける看護婦。

これはマズいと、急いでその場を離れて病院を抜け出す。

急な事態にどうしようかと悩んでいると、一人の黒猫が話しかけてくる。


猫「君達、こっちにきなさい」

ジーク「なんだあんたは?」

猫「我輩は医者である、免許はまだ無い」

ジーク「ヤブ医者じゃねーかー!!」

猫「いいから早くするみゃ」

ジーク「・・・そうだな、そうだな!」


行くあても無く、このまま逃げ回るのは辛いと考えたジークは猫に案内されて歩き出す。

途中で狭い路地に入り、クネクネとした細道を進んでいくと、そこには黒い外壁の建物が並ぶ異様な光景が広がっていた。


ジーク「なんだここは?」

猫「スラムってヤツだみゃ」

リリィ「さっきまで白い建物ばかりでしたから、余計に変な感じですわね」

猫「おみゃ~ら、こっちこいや」


猫が案内するのは小さな病院。

誘われるままに中に入ると、そこにはミラとジムの姿があった。



―黒猫病院―



ジム「おやっ?皆、どうしてここが?」

猫「おみゃ~ら誰だ?」

男性「俺が説明しよう!」

ジーク「誰だお前!」


ジムとミラはそれぞれ独自のルートでこの場所を見つけたが、猫がおらず、仲間と名乗る男性に事情を話して伝言を頼んでいた。

猫はその仲間からの伝言を受け、ジーク達を探して病院前へ差し掛かった所、ちょうど報告通りの金髪青年を背負った連中を見つける。


男性「ってな具合ですな」

ジーク「なーるほど。するとあんたが猫太郎か?」

猫「いかにも!我輩は猫太郎である」


彼は猫太郎と言い、猫三郎の兄である。

黒衣と額帯鏡を身に着けた、医者っぽい格好をしていた。


リリィ「早速レオンの容態を見てください!」

猫太郎「わかったわかった、とりあえず奥のベットに寝かせなさい」


言われた通りにベットに寝かせると、猫太郎先生が容態を調べ始める。


猫太郎「むむむ!!」

ジーク「わかったのか!?」

猫太郎「いや全然」

ジーク「あのなぁ・・・」

ジム「毒瓶を見せてあげたらどうかな?」

ミラ「あぁ、せやったな」


懐から毒の入った瓶を取り出すと、猫太郎先生に手渡した。


猫太郎「ほっほう~、こりゃおみゃ~、あれだ、苦し虫の毒だな」

ミラ「なんやそれ?」

猫太郎「え~ゴホン。苦し虫の毒とは、三日三晩苦しみ悶えてから死ぬという、それはそれは恐ろしい猛毒だみゃ」

男性「別名、苦しむ死とも書きます」


ジーク「ふぇ~・・・、ってやばいじゃねーか!!治るのかよ!?」

猫太郎「治る!治るが、うちには薬がにゃい」

リリィ「どんな薬が必要ですの?」

猫太郎「オルナ草だみゃ」

ジム「懐かしい名前だな」

ミラ「自分、知っとるん?」

ジム「五年前に仲間と共に探したからね」


リリィ「それで、薬草は何処にありますの?」

猫太郎「この辺りだと【妖精の花園】かみゃ~」

ジーク「花園?何処にあるんだ?」

猫太郎「場所はなんとも説明し難い、お前達地図持ってないのみゃ?」

ジーク「城に戻ればあるだろうが、持ってこなかったな」

ジム「地図ならあるよ」


背負っていたリュックからゴソゴソと地図を取り出すと、近くにあったテーブルの上に広げる。

猫太郎先生はペンを使って地図上を指しながら説明した後、目的地の場所に魚印を描いた。


ジーク「なるほど、わからん」

ジム「僕が案内するよ」

猫太郎「花園には結界が張られているから、妖精を見つけて説得するみゃ」

ジーク「オーライ、早速行くとしようぜ」


善は急げと、一行は花園目指して歩き出す。

されど、リリィだけはその場から動こうとはしなかった。


ジーク「ん?リリィ来ないのか?」

リリィ「わたくしはレオンの傍にいます・・・」

ミラ「ようゆうた!こういう時こそ支えたるのが女ってもんや!」

ジーク「うむ!わからんが、後は任せたぞ」


かくして、リリィとレオンを病院に残した四人は、オルナ草を摘みに妖精の花園へと向かうのであった。


第九話 完

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