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1話 厨二病と毒舌少女

 生徒達の雑談する声と、机が引き摺られる音が、教室内で響き渡っていた。今現在、生徒達は教室の掃除に勤しんでいる最中である。毎度の如くチリトリ係をやらされている生徒がいたり、机ばかり運んで怒られてる生徒がいたり、黒板消し係に毎回立候補している生徒がいたりと、学校での日常的な清掃風景が展開している中で、ただ一人、神妙な顔つきで担任教師である子守の元へと言い寄る男子生徒がいた。


「先生……昨日うちの叔父が、家の前で高速で回転してました……」


 突然理解不能な事を言い出したのは、ホラ吹きであり厨二病でもある高田だった。

 その顔はとても深刻であるが、如何せん言っている事が意味不明なので、子守は失笑する事しかできない。 もっとも、高田の言っている事は嘘だと最初からわかっている子守は、やれやれと半ば呆れたように答えを返す。


「そうか。お前の叔父はついにベイ○レードに進化したか。おめでとう」


 そう適当に流す子守に対し、 相手にされていない事に腹を立てた厨二病の高田が、きさまぁ……っと小さな声で呟くが、目の前にいる教師は小馬鹿にした笑い以上の反応を示さない。

 当然の反応ではあるのだが、不信感を募らせた高田の脳内では、「刹那!(必殺技)」と叫びながら子守の体を引き裂くという殺戮劇が、妄想という形で繰り広げられていた。 なんとも、色々な意味で痛々しい事この上ないのだが、本人は至って真剣な面持ちを崩していない。


 そんな高田に文句を言う様にやってきたのは、箒を手に持った黒髪の少女の山瀬だった。


「ちょっと高田。 くだらない事しかしゃべってないくせに、今先生とお取り込み中です、みたいな雰囲気を醸し出して、さり気なく掃除をサボるのやめてくれない」


 抑揚のない声でそう言うと、山瀬は手に持っていた箒を突出し、柄の部分でで高田の額を打った。本人は軽く小突いたつもりだったのだろうが、 コツンッっという地味に痛そうな音が響き、子守も思わずうわっ……という声を漏らしてしまう。 実際、額を打たれた高田は「グァァっ!」と、声を上げ、そして次に、声高らかに咆哮した。


「山瀬ェェェェェ!!きさまぁぁぁぁ!」


 高田はそう叫ぶと、山瀬を睨み付けながら体を大きく動かし、大袈裟な動作でバックステップして近くにあった箒を手に取ろうとした……が、バックステップした先に丁度置いてあった水いっぱいのバケツに足を引っ掛けてしまい、バッシャーン!と水を盛大にぶちまけながら転んでいた。

 雑巾の汚れで濁っていたバケツの水が辺りに撒き散らされる。

 近くを掃除していた女子生徒に飛沫がかかってしまったらしく、うっざマジきも……っとリアルに嫌がられている光景は、なんとも憐れである。


 だが、そんな悲惨な目に合っている高田を無視して、今度は子守へと山瀬の視線が移る。


「先生もあいつの相手しないでください」

「あ、あぁ……」

「あと、ベイ○レード馬鹿にしてますよね。 ベイ○レードを馬鹿にする奴って、決まって勢いよく回っているベイをナメて素手で止めようとして痛い目にあうんですよね。 本当に馬鹿ですよね。 初代モデルの物だったら下手したら手きれますからね。 先生もその種の人間ですか? だとしたら幼少時代からやり直して、その腐った価値観を抹消してきた方がいいですよ」

「……悪かった」


 何故かベイ○レードに固執しているこの山瀬という少女は、垂れ目に抑揚のない声が特徴であり、一見、脱力系少女に見えるが、その実態は思った事をすぐ口にしてしまう、毒舌女である。


「わかればいいです」


 言いたい事を全て吐き出した山瀬は、ちなみにクラッシュ○アは邪道ですからね、と訳の分からない事を言い残し、掃除を再開していく。


「はぁ……」


 ようやく開放された子守が、深い溜息をつく。

 個性的すぎる生徒に続けて絡まれた事で、疲労感がどっと子守を襲ったのだ。


 ちなみに、個性的すぎる生徒というのは、何も高田と山瀬だけを差すのではない。

 子守が担任を受け持つこのクラスは、他の教師からは「珍素材の宝庫」、「この世に存在してはならない闇鍋」などと称されるほど変人揃いなのである。


 そんなクラスに、子守は自ら進んで担任を受け持った。

 何故?っと他の教師達は皆首を傾げるが、その答えは簡単である。


(まぁ、面白いからいいか……)


 子守泰人。

 この男自身も、変人だからである。

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