仲間 遠見 / なかま とおみ ①
頬が痛い。
あ、ビンタされてる。
目を開けると、女がいる。
寝ている俺の上にまたがっていて、片手でビンタしている。
女は少し怒っていて、少し高揚している。
昨日、こんな女と寝たのだろうか。
いや、俺童貞だし。
「あ、起きた? 早く服を脱ぎなさい」
女は、裸である。
◇
「もう早く服脱いで!」
状況を理解できるようになったのは、1分。
まず、扉が無い。
コンクリのような、冷たい壁に覆われている6畳半。
壁も床も時計も、ベッドも机も白。
ついでに、俺の服もあの女の服も(今は裸)白だ。
「ねーえーいつまで隅っこにいるの、早くセックスしようよ」
女の黒髪やピンクな部分が、部屋にある唯一の色彩だ。
いや、もう一つあった。
机に漆黒の手紙がある。
『セックスしないと出られない部屋』
と、明朝体で書かれている。
「え、まじなの?」
「まじまじ」
女は、裸のままベッドに横たわっている。
どうやらこの女は初めてではないらしい。
または、ドッキリの演者で売れてないAV女優。
「AVで見た気もするなぁ…」
「失礼ね、立派な学生だよ」
「え、これマジでなに」
「オヨバレ」
「オヨバレ…?」
「そう。急に部屋に閉じ込められて、試練を課される」
女は、「今回はセックスのようだねー」と、裸のまま椅子に座る。
そろそろ落ち着きだして、目のやり場に困る。
「『今回も』って、あんたは何回も閉じ込められてんのか?」
「あ、私は遠見。あと、この界隈で回数を聞くのはマナー違反よ」
「そう、なんだ」
「それとね、この空間はアッチの世界の5倍のスピードで進んでるの。秒針を見てみなさい」
白い時計を見ると、秒針が、秒針音が、メトロノームのように早く時を刻んでいる。
「あんまり時間ないんだよねぇ… 今日テストだから、欠席したらまずいのに」
「遠見さんは何歳?」
「あんたそれ聞いて、まだ成人してなかったら青少年保護法に引っ掛かるけど大丈夫?」
「じゃ、じゃあ聞かないでおく」
「ま、普段はもっと簡単な難易度なんだけどね」
「普段はどんなものなの?」
「前回は、鉄棒があって『逆上がりをしないと出られない部屋』だったわね」
「なるほど。お題は誰がどうやって決めているんだ?」
「なにもわかっていない。ただ、嫌なとこを突いてくる題が大半」
遠見さんは、服を再び着る。
もうテストはあきらめたらしい。
俺は、、、できるだけ戻りたくない。
「あなた、名前は?」
「綾乃」
「女の子っぽい名前だね。
綾乃君、重要なことが一つだけ」
「なんだ?」
「絶対に寝てはいけない」
その言葉には、警告や注意なんてものではない何かが含まれていた。
まるで、遠見さん自身に話しているような。
「ここで寝たらね、死んじゃうの」
「死ぬ、え?」
「パートナーのどちらかが死んだらその部屋はアウト。戻れるの」
「じゃあ、どうしても無理なお題の時は殺すんですか?」
沈黙。
遠見さんは、一息唾を飲みこみ、また笑顔になる。
「そんな難しい状況にはならない。大体は、ペットボルフリップ3回連続とか、テーブルクロス引きとか、簡単なものだわ」
セックスは、簡単なものらしい。
「さ、大体わかったでしょ?急に迫って悪かったわね。じゃあ、始めましょ」
遠見さんは、また服を脱ぎはじめ、ベッドに寝転ぶ。
俺は吸い寄せられるように、ヨボヨボと歩き始め、服を脱ぐ。
ボタンを外し、チャックを下げ、パンツを脱ぐ。
全裸になった体を押し付けられ、耳に吐息がかかる。
「す、すみません遠見さん」
「遠見でいい」
「遠見…さん、俺、勃たないんです」
セックスをしないと出られない部屋だかなんだか知らないけど、勃起薬の一つでも用意しとけ。そう思ったね。




