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第84話 創作だと思っていた銀河史、あるいはジェダイ紹介予約

『――我々は、新たなアーティファクトを入手しました。


 正式名称は、アポロン・ソード。


 ……しかし皆様には、こう言った方が早いでしょう。【ライトセーバー】、とね』


 巨大な空間に浮かぶメインスクリーンから、アメリカ合衆国のキャサリン・ヘイズ大統領の、どこか吹っ切れたような、誇らしげな声が響き渡る。


 画面が切り替わり、ジェダイのローブに酷似した(意図的に似せた)軍用テストスーツを着た米軍のオペレーターが、短い筒状の装置から『ブゥン……!』という特徴的な音とともに青白い光の刃を伸ばし、分厚い戦車の装甲板を豆腐のように切り裂く映像が繰り返し再生されている。


 サイト・アオ。


 地球のあらゆる情報をリアルタイムで収集する観測室の片隅で。


 エミリー・カーターは、ホログラムで展開された大量の『地球側のネット反応』をスクロールさせながら、感嘆の息を漏らしていた。


 [ライトセーバーだ!!!]


 [アメリカ軍ジェダイ爆誕www]


 [ディズニーの法務処理済みのライトセーバーとか強すぎだろ]


 [これ本当に兵器なの怖いけどワクワクする]


「……なんか、地球、面白いことになってますねぇ……」


 エミリーは、画面の中の光る剣をぼんやりと見つめながら呟いた。


「ライトセーバーですか。……まあ、私もアメリカ人なんで、当然映画は全シリーズ何周も見たことありますけど……」


 エミリーは、アメリカ軍の公開映像を何度もリピート再生する。


「ライトセーバーかぁ。……CGや小道具じゃなくて、現実の兵器として実際に鉄板を切ってるのを見ると、やっぱり凄いなーって思いますね。どういう原理なんでしょう」


 地球人としては、極めて正常で、素直な反応である。


 空想の武器が、現実の軍事パレードに登場したのだ。

 オタクのみならず、世界中の人々が驚愕と興奮でパニックになっているのが、今の地球の現状だった。


 だが。


 この『サイト・アオ』という空間においては。


 地球の常識など、宇宙の吹けば飛ぶような埃の粒に等しい。


「……歩兵兵器ハンドウェポンとしては、まあ、結構一般的なのよねー。ライトセーバー」


 エミリーの背後で、最高級のポテトチップスをポリポリとつまみながら。


 サイト・アオの管理者たる【KAMI】が、まるで「今日の昼飯はハンバーガーだったわ」くらいの、どうしようもなく軽いノリで、とんでもない爆弾を投げ落とした。


 エミリーのスクロールする指が、ピタリと止まる。


「……はい?」


 エミリーは、首だけをカクンと後ろに向けた。


「え?」


 KAMIは、ポテトチップスを咀嚼しながら、当然のように続ける。


「だって、ただの『光刃系の近接武装』でしょ?


 プラズマとかフォトンとか、エネルギーフィールドの出力制御と、使用者を焼かないための安全装置の調整がちょっと面倒くさいだけで。……星間文明圏の技術レベルなら、別に珍しくもなんともないわよ」


 KAMIは、コーラを一口飲んでから付け加えた。


「地球で言うところの、昔の長剣ロングソードとか、アサルトライフルみたいなもんじゃない?


 ……まあ、実際に実戦でそれをメインウェポンとして使うかどうかは、その惑星の文明の好みとか、戦闘ドクトリンとか、流派によるけどね」


 エミリーは、自分の脳の処理能力が完全にオーバーフローを起こしているのを感じた。


「いっ、一般的……?」


 エミリーの声が、上ずる。


「そうじゃな」


 部屋の隅のクッションで丸くなっていた【賢者・猫】が、ピンとひげを揺らしながら、ゆったりと頷いた。


「一般的じゃな。……まあ、どこぞの歩兵が、うっかり地球の砂漠あたりに『置き忘れた』んじゃろ」


「……歩兵が、置き忘れた!?」


 エミリーは、ついに立ち上がって絶叫した。

 アメリカ政府が血眼になって拾い上げ、ディズニー法務部と血みどろの契約を交わしたあの奇跡の兵器が、ただの落とし物扱いなのか。


 賢者・猫は、尻尾をパタパタと振りながら、軽く説明する。


「もちろん、今の地球の技術力から見れば、戦車の装甲を斬り裂く『超兵器』には違いないわい。


 ……じゃが、星間文明圏の広い市場(闇市)では、あのような個人携行型の高密度エネルギー刃くらいは、ちょっとした『珍品アンティーク』扱いではあっても、決して国家を揺るがすような神話級の遺物ではない」


「珍品、ですか……」


 エミリーが、力なく呟く。


「うむ。古い銀河の戦場跡や、傭兵団の放棄された倉庫、没落した騎士団の遺品、あるいは宇宙海賊のコレクションの横流し。


 ……そういう裏ルートから、未開の惑星にポロッと流れてくることは、よくあることじゃ」


 賢者・猫は、ふぁあと欠伸をした。


「今回の物も、太古の昔に地球に立ち寄った誰かが忘れたか、落としたか、あるいは趣味で飾っていたか。……そんなところじゃろうな」


 エミリーの頭の中で。


 アメリカ政府が「アポロン・ソード」と名付けた威風堂々たる超兵器が、急に『近所の公園の砂場に落ちていた、忘れ物のプラスチックの剣』にしか見えなくなってきた。


「そうですねー」


 その時。


 部屋の奥で、別のアーティファクトのメンテナンスを行っていた【工藤創一】が、ドライバーを持ったまま、何でもないことのように会話に混ざってきた。


「俺も、前に作ったことありますよ。ライトセーバー」


 エミリーは、首の骨が折れそうな勢いで、今度は工藤の方を振り向いた。


「……作ったんですか!?」


 エミリーの目が、これ以上ないほど見開かれる。


「あ、いや」


 工藤は、エミリーの異常な食いつきに少し気まずそうに頭を掻いた。


「正確には、武器として作ったんじゃなくて、『光刃式近接切断工具』の試作ですね。解体作業用とかに便利かなーと思って。


 ……で、実験で作ってみたら、見た目と起動音が、完全に『それっぽく』なっちゃいまして」


 工藤は、少しだけオタクっぽいロマンを思い出したように笑う。


「俺としては、完全にロマン武器(工具)だったんで、テンション上がって振り回してたんですけど。


 ……日下部さんに、即座に取り上げられました」


「日下部さんが?」


 エミリーが聞く。


「はい」


 工藤は、当時の日下部の【顔】を思い出して、ブルッと身震いした。


「『工藤さん。それは技術的には大変興味深いですが、地球側(表)で出すには極めて危険です。……性能ではなく、権利的にです。国家安全保障案件のリストに、世界最大級のエンタメ企業法務部を【敵】として追加しないでください』って、物凄い真顔で説教されましたからね」


「あははっ!」


 KAMIが、お腹を抱えて笑い出した。


「そこでストップ(開発中止)をかけるの、いかにも地球の国家管理(官僚)っぽくて好きよ」


「実際、異星の超技術よりも、ディズニーの著作権(法務部)の方を恐れるとはのう」


 賢者・猫も、喉の奥を鳴らして愉快そうに笑う。


「地球文明のその独特な『法の支配』の概念も、なかなか面白いものじゃ」


「いや、マジで怖いですよ、地球の著作権」


 工藤は、本気で怯えた顔で言う。


「場合によっては、宇宙のバイター(捕食生物)より質が悪いというか、逃げ場がないですからね」


「でも、工藤さん」


 エミリーが、モニターのアメリカのニュース映像を指差す。


「アメリカは、堂々と大統領会見で『ライトセーバー』って名乗って、お披露目しちゃいましたよ?」


「だから、俺も驚いてるんですよ!」


 工藤が、目を丸くして画面を見る。


「よくあのアメリカ政府が、ディズニーの首根っこを押さえて(あるいは泣きついて)通したなぁって。……たぶん裏で、とんでもなく血みどろの、めちゃくちゃ大変なライセンス契約(取引)をしたんでしょうね。アメリカの税金がいくら消し飛んだのか、想像するだけで恐ろしいです」


 サイト・アオのメンバーたちは、アメリカ政府が裏でどんな『敗北契約』を結んだのか、詳細な経緯までは知らない。

 だが、彼らのその推測は、ほぼ完璧に事実を突いていた。


「……えっと」


 エミリーは、笑っている彼らを前にして。


 どうしても、自分の中の『地球人の常識』が折り合いをつけられずに、再び根本的な疑問を口にした。


「皆さん、さっきから、ものすごくナチュラルに『ライトセーバー』って単語を使ってますけど。


 ……本当に、宇宙では珍しくないんですか? あの光る剣が?」


 ずっと部屋の奥で、膨大な宇宙史の記録データと睨み合っていた【ティアナ】が。


 そのエミリーの悲痛な叫びを聞いて、ようやくモニターから顔を上げ、こちらを振り向いた。


「珍しくないね」


 ティアナは、あっさりと、無慈悲に肯定した。


「ていうかさ。……エミリー」


 ティアナは、ペンを回しながら、とんでもないことを、まるで雑談のように口にした。


「『スター・ウォーズ』って、過去の銀河大戦(宇宙戦争)の【史実】が元ネタだろ? 多分だけど」


「…………」


 エミリーの表情が、完全に、物理的に固まった。


 呼吸が止まり、瞬きすら忘れている。


「……え?」


 エミリーの声が、蚊の鳴くような音になった。


「え?」


 とティアナも首を傾げる。


「……あの、ティアナさん」


 エミリーは、震える両手で自分の顔を包み込み、そして。


 サイト・アオの防音の壁を突き破るような、大絶叫を上げた。


「……スター・ウォーズって、史実ドキュメンタリーなんですかぁぁっ!?」


 ティアナは、エミリーのその異常なパニックぶりに少し驚きながらも、軽いノリで頷いた。


「うん。……わりと、宇宙の広い範囲で知られている、有名な【史実】だよ」


「嘘だ! だって、あれはジョージ・ルーカスが書いた脚本で……!」


 エミリーは、自らの人生の一部を構成する偉大な映画の前提が崩れ去り、頭を抱えてパニック状態に陥った。


「待ってください! 情報量が! 情報量が多すぎます!」


「まあまあ、エミリー。落ち着いて」


 ティアナは、エミリーの肩をポンポンと叩いて宥めながら、説明を始めた。


「もちろん、地球の映画館で流通している『あの作品(映画)そのもの』が、一から十まで正確な歴史書(完全な事実)だという意味ではないよ」


 ティアナは、宇宙史担当としての正確な知見を述べる。


「登場人物の名前や、惑星の順番、ドラマチックな演出なんかは、おそらく地球のクリエイターが創作としてアレンジしている部分が大きい。……というか、各惑星文明ごとに、伝わっているディテールはかなり違うからね」


 ティアナは、一つ指を立てる。


「でも。……あのお話の【大本コア】になっている、『銀河大戦』は、本当にあった」


 エミリーが息を呑む。


「『共和国』も、あった」


「『騎士団』も、あった」


「『光刃武器ライトセーバー』も、主兵装として使われた」


「……そして、『フォース』に近い、宇宙の万物と繋がる精神感応系の能力を操る【流派】も、実在する」


「……う、うそ」


 エミリーの膝から力が抜け、その場にへたり込んだ。


「これだから、地球人は面白いわよねー」


 KAMIが、コーラを啜りながらクスクスと笑う。


「『自分たちが完全な創作フィクションだと思っていた宇宙叙事詩』が、実は……。


 ……星間文明のネットワークに接続したばかりの、若い種族の観測者には、非常によくある【感動イベント】なのよ、これ」


「昔話(おとぎ話)じゃと思うておったら、実は【歴史】じゃった、というやつじゃな」


 賢者・猫も、ひげを揺らして同意する。


「え、じゃあ俺たち地球人が映画館でポップコーン食べながら見てた映画って……」


 工藤も、さすがに少し驚いた顔をしている。


「宇宙史の『壮大な二次創作』みたいなものだったってことですか?」


「そう言えなくもないね」


 ティアナは、笑って頷いた。


「でも、ティアナさん」


 エミリーが、混乱した頭を必死に回転させて質問する。


「どうして、地球みたいな『未接触文明(まだ宇宙に出ていない星)』にまで、そんな他の銀河の歴史の話が、都合よく『映画の創作(脚本)』としてピンポイントで流通してるんですか? おかしくないですか?」


 ティアナは、肩をすくめた。


「そこが、宇宙の不思議なところなんだよね」


 ティアナは、ホログラムのモニターに、様々な異星の文明の記録(絵画、石版、映像データ)を次々と映し出した。


「でも、わりと多いんだよ。こういうケース」


 ティアナは、映像を指差す。


「大体の惑星文明において、『スター・ウォーズ系』の叙事詩は……神話、映画、小説、ゲーム、伝承、宗教劇、あるいは英雄譚みたいな形で、広く流通しているんだ」


 エミリーが見ると、確かに、姿形は地球人とは違う異星人たちのアートの中に。


 光る剣を掲げる者、黒い兜を被った帝国兵のような者、星を壊す丸い兵器の絵が、あちこちに見受けられる。


「文明ごとに、名称や細かい設定は違う。でも、【物語の構造】が驚くほど似ているんだよ」


 ティアナは指を折って数え上げる。


「光の剣」


「古い共和国の崩壊」


「暗黒面に堕ちた騎士」


「強大な帝国」


「親子の因縁」


「反乱軍の戦い」


「星を壊す超兵器」


「……こういう要素プロットが、なぜか、宇宙のあちこちの星で、時期を問わず『創作エンタメ』としてポコッと自然発生するんだ」


「なんで……?」


 エミリーが、不思議そうに呟く。


「多分、宇宙史の【残響エコー】みたいなものね」


 KAMIが、神視点のメタな考察を口にする。


「銀河規模であまりにも巨大な感情のエネルギー(戦争と悲劇)が動いたから、宇宙の集合的無意識みたいな領域にその情報が漏れ出しているのか。


 過去の『観測者』が、未開の各文明に文化の種としてミームをばら撒いたのか。


 ……あるいは、どこかの高次存在(私みたいなやつ)が、面白がって全宇宙のクリエイターの脳内を『同期』させているのか。


 まあ、宇宙考古学の界隈でも諸説あるわ」


「なぜか、どの種族にも刺さるんじゃよ。光の剣と、裏切りと、親子の因縁。……物語の骨格として、これほど普遍的なものはないんじゃな」


 賢者・猫がひげを揺らす。


「宇宙規模で売れる(バズる)んですか、スター・ウォーズ……」


 エミリーは、もはや感心を通り越して呆れたように言った。


「売れるよ。めちゃくちゃバズる」


 ティアナは笑う。


「だって、完全な作り話じゃなくて、【史実(事実)】がベースになっているからね。物語としての『骨格の強さ』が違うんだよ」


 ティアナは、エミリーの顔を覗き込み、楽しそうに語る。


「惑星文明が、ついに星間文明のネットワークに仲間入りして。


 ……そこで、一番最初に【感動する瞬間】って、何だと思う?」


「宇宙に出られた瞬間、とかですか?」


 エミリーが答える。


「他の知的生命体(異星人)に、初めて会った時とか?」


 工藤も予想する。


「もちろん、それもある」


 ティアナは頷く。


「でも、文明の文化担当者たちが、かなり上位に挙げる感動の瞬間が、これなんだ」


 ティアナは、エミリーを指差した。


「『自分たちが空想(創作)だと思っていた物語が、実は宇宙の歴史(史実)だった』と、知る瞬間」


「それは……」


 エミリーは、自分の胸の高鳴りを自覚しながら言った。


「……確かに、感動しますね。鳥肌が立ちます」


「そしてね」


 KAMIが、ニヤニヤしながらエミリーを見る。


「それを知った若い種族の観測者は、だいたいみんな、同じことを叫ぶのよ」


「え?」


「……『ジェダイって、実在したの!?』ってね」


 KAMIが言い終わるか終わらないかのタイミングで。


「ジェダイって、実在するんですかっ!?」


 エミリーは、全く同じセリフを、これ以上ないほどの声量で絶叫していた。


 ティアナは、お腹を抱えて笑った。


「いるよ」


「いるんですか!?」


 エミリーが、バンッと机に両手をついて、ティアナに詰め寄る。


「今も!? 現在進行形で!?」


「いるいる」


 ティアナは、あっさりと頷いた。


「もちろん、地球の映画に出てくる『そのままの組織名』や『そのままの教義』ってわけじゃないよ。


 ……あの大戦から途方もない時間が経っているから、時代によって分派もあるし、流派も全然違う」


 ティアナは、宇宙の騎士たちの現状をざっくりと解説する。


「昔からの教義を守る『古典派』、新しい力を探求する『改革派』、辺境の星を守る『辺境騎士団』、戦いから離れた『瞑想修道会』、武闘派の『戦闘僧院』、過去の遺物を集める『共和国史研究派』。……本当に、色んな連中がいるよ」


「昔の銀河大戦の時は完全にOP(ぶっ壊れ性能)だったけど、今はメタが回って、だいぶナーフ(弱体化調整)されたわねー」


 KAMIが、ゲーマー目線でのバランス調整を語る。


「それでも、強い者は未だに恐ろしく強いわい」


 賢者・猫が言う。


「何せ、あらゆる装甲を断ち切る『光刃武器』を持った、未来予知すら可能な『精神感応系の戦闘修道者』じゃからな。並の傭兵部隊では、手も足も出ん」


「うわぁ……」


 工藤が思わず引いた顔をする。


「設定だけ聞いてても、戦場で絶対に会いたくない。強すぎる」


 だが、エミリーの反応は違った。


 彼女の目は、今この瞬間、宇宙の無数の星々よりもキラキラと輝いていた。


「……あの、ティアナさん」


 エミリーは、両手を胸の前で組み、上目遣いで、祈るようにティアナを見た。


「……会えたり、します?」


「ジェダイ(っぽい人たち)に」


 ティアナは、その純粋すぎるエミリーの「オタクの瞳」を見て、思わず吹き出した。


「いいよー」


 ティアナは、まるで「今度、美味しいカフェ教えるよ」くらいの軽いノリで答えた。


「今度、うちのサイトの近くに寄るヤツがいたら、紹介するよ。サインでも貰う?」


「やったぁぁぁぁぁっ!!!」


 エミリーは、サイト・アオの観測室の天井を突き破らんばかりに飛び跳ね、両手を突き上げて歓喜の叫びを上げた。


「生ジェダイ! リアル・ライトセーバー! 宇宙最高!!」


「あはははっ」


 KAMIが、エミリーの狂乱ぶりを見て大爆笑する。


「『スター・ウォーズ』という史実は、全宇宙で本当に広く親しまれてるからねー。……地球人と気が合う星間文明人、意外と多いと思うわよ」


「ファーストコンタクトの話題が、映画の感想でいいんですか?」


 工藤が、呆れたように言う。


「むしろ、強い(最強のコミュニケーションツール)わよ」


 KAMIが請け負う。


「『あなたの惑星にも、光の剣の物語ってある?』って聞けば、大体の種族と盛り上がるから。共通の話題があるって、外交において何よりのアドバンテージよ」


「だから、地球人は……そこまで『孤独』じゃないんだよ」


 ティアナは、はしゃぎ疲れて息を切らしているエミリーに向かって、優しく微笑みかけた。


「君たちが、地球の映画館の中で『完全な創作だ』と思って楽しんでいたものの中に。……実は、広い宇宙と繋がるための【鍵】が、けっこう混ざっているんだ」


「宇宙って……」


 エミリーは、モニターに映る地球の青い星を見つめながら、しみじみと呟いた。


「思ったより、オタクに優しい世界なんですね……」


 その言葉に、観測室の全員がドッと笑った。


 だが。


 笑いが一段落した後。


 工藤が、ふと真顔に戻って、先ほどの『地球の現実』を思い出したように言った。


「……でも、やっぱり【著作権】は怖いですよ」


「え?」


 エミリーが振り返る。


 工藤は、当時の日下部管理官の顔マネをしながら、重々しく言った。


「『工藤さん。国家安全保障案件に、世界最大級のエンタメ企業法務部を敵として追加しないでください』。……あの時の日下部さんの顔、マジで殺気立ってましたからね。


 ……アメリカ政府も、あのお披露目の裏で、どれだけ血を吐くような権利交渉をしたことか。あの『ライトセーバー』って呼称一つに、いくらの税金(ライセンス料)が飛んだのかと思うと、他人事ながら胃が痛くなりますよ」


「日下部、完全に正しい判断じゃない」


 KAMIが、大笑いしながら言う。


「実際、アメリカ政府も、今回ばかりは相当な代償を払ったじゃろうな」


 賢者・猫も、哀れむように目を細める。


「まあ、いかにも『地球文明』らしいエピソードで、面白いよ」


 ティアナは、モニターに映るヘイズ大統領の誇らしげな顔を見てクスクスと笑う。


「異星の超技術の兵器を拾ったら、まず最初にやることが『法務処理(ライセンス契約)』だなんて。……宇宙広しといえど、地球人くらいのもんだよ」


「それ、すごく地球人っぽい(世知辛い)ですね……」


 エミリーも、先ほどの興奮が少し冷めて、苦笑いした。


 和やかな空気が流れる中。


 ティアナが、モニターの映像から目を離し。


 少しだけ真面目な、歴史家としての静かな瞳になって、エミリーたちに向かって口を開いた。


「……ただ。一つだけ、忘れない方がいい」


 ティアナの声に、部屋の空気が少しだけ引き締まる。


「スター・ウォーズ系の史実は、ポップコーンを食べながら見る『楽しい英雄の物語』だけじゃない」


 ティアナは、過去の膨大な宇宙史のデータバンクを見つめるように言った。


「実際には……銀河規模の、血みどろの【大戦争】だったんだ」


 エミリーは、息を呑んだ。


「無数の惑星が焼かれ、何十億もの命が失われ、高度な文明が滅び、騎士団が内部から壊れ、そして……巨大な共和国が崩壊した、絶望の時代でもある。


 ……地球人が映画として『エンタメ』で消費してきたものの奥には。……本当に血を流して死んでいった、無数の文明の傷跡があるんだよ」


 場の空気が、スッと締まる。


「……そっか」


 エミリーは、自分の軽薄なはしゃぎぶりを少し恥じるように、小さく頷いた。


「史実(歴史)って……そういうこと、ですよね」


「まあね」


 KAMIが、少しだけ優しい声でフォローを入れる。


「だからこそ、物語は面白くて、そして重いのよ」


「物語というものは、巨大な傷跡が、癒えずに長く残ったものでもあるからのう」


 賢者・猫が、達観したように言う。


「じゃあ……アメリカが『ライトセーバー』を現実に持ってしまったのも」


 工藤が、深刻な顔で言う。


「単なる『映画の武器が現実に!』っていう、笑い話やプロパガンダだけでは終わらない、ということですね」


「うん」


 ティアナは頷いた。


「地球は……少しずつだけど、確実に。『宇宙史の続き』を、自分たちの足で歩き始めているんだよ」


 モニターの中では。


 まだ、地球のネット世界が、かつてないほどの狂乱と興奮の渦に包まれていた。


 [ライトセーバーだ!!!]


 [アメリカ軍ジェダイ爆誕www]


 [これは夢なのか現実なのか]


 [ロシアのサイボーグ兵への完璧なカウンターじゃん!]


 エミリーは、その狂騒の映像を見つめながら、小さく、優しく笑った。


「地球の人たちは今、ライトセーバーが現実になったって、大騒ぎしてますけど。


 ……宇宙では、それが『過去の歴史』へと繋がっているんですね」


「そういうこと」


 ティアナは、エミリーの横顔を見て微笑んだ。


創作フィクションは、ときどき、宇宙の記憶を正確に拾い上げるんだ」


「まあ、地球人は、今はまず喜んでおけばいいんじゃない?」


 KAMIが、ポテトチップスの最後の一枚を口に放り込みながら言った。


「自分たちの好きだった物語が、宇宙共通のバズり話題だったってことなんだから。……誇っていいことよ」


 エミリーは、再び大きく深呼吸をして、ティアナに向き直った。


「ジェダイの紹介。……本当に、楽しみにしてますからね!」


「うん」


 ティアナは、笑って頷いた。


「今度、予定合わせておくよ」


 エミリーの顔に、今日一番の、満面の笑みが広がった。


 地球では、映画の小道具だった『ライトセーバー』が現実に現れたと、世界中が熱狂とパニックに包まれていた。


 けれど。

 サイト・アオの静かな観測室では、その青白く光る剣が……ただの新兵器としてではなく、地球人がまだ知らない『途方もなく広大な銀河史への入り口』として、温かく見つめられていた。



最後までお付き合いいただき感謝します。


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今もジェダイが健在と言うことはいわゆる456までなんだなヨシ!
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