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第7話 神様のお茶会と、死闘の果ての戦利品

 大気圏外、高度四百キロメートルの熱圏。

 極寒と真空に支配された死の世界に音もなく浮かぶ超弩級ステルス宇宙ステーション〈サイト・アオ〉のVIPレセプションルームは、その日も完璧に調律された静寂に包まれていた。

 室温、湿度、そして微かに漂う森林の香りまで、全てが計算し尽くされた快適な空間の中央に置かれた豪奢なソファに、僕は深く身体を沈めていた。


「代表。定刻です。オブザーバー・アルファより、通信の接続リクエストを受信しました。暗号化プロトコルは正常。承認しますか?」


 傍らに控える副官のXT-378が、流体金属でコーティングされた滑らかなボディに室内の柔らかな照明を反射させながら、感情の起伏を一切感じさせないフラットな合成音声で告げた。


「ああ、繋いでくれ。せっかくのティータイムだ、彼にも少しだけ『お裾分け』をしてあげようじゃないか」


 僕が片手に持った最高級のボーンチャイナのティーカップを軽く傾けると、XT-378が寸分の狂いもない動作で操作を行い、部屋の壁面を覆う巨大なホログラフィック・ディスプレイが起動した。

 ノイズ混じりの音声波形が表示され、すぐに安定する。相手の姿は映らない。それがアメリカ合衆国の深部で活動する超法規的秘密組織"セレスティアル・ウォッチ"のトップ、オブザーバー・アルファが保つ彼なりの矜持であり、防衛線だった。


『……定刻通りの応答に感謝する、代表。我々のホットラインが今日も機能していることを喜ばしく思う』


 スピーカーから流れてきたのは、機械的に変調された、ひどく冷徹で重々しい男の声だった。

 だが、僕の耳には、その声の奥底に張り付いた隠しきれない疲労と、ギリギリのところで保たれている焦燥感が手に取るように分かった。


「挨拶は手短に済ませよう、アルファ。君たちも、今は優雅に世間話をしている余裕はないだろう? 何せ、足元の火遊びが少々騒がしくなっているようだからね」


 僕の言葉に、通信の向こう側で一瞬、微かな息を呑む気配が伝わってきた。


『……裏社会の動向のことか。確かに、現在地球上のいくつかの非合法ネットワークにおいて、未知のエネルギー兵器に関する不確かな情報が錯綜し、それに伴う散発的な事故が起きていることは把握している。だが、我々"セレスティアル・ウォッチ"の監視網と統制力をもってすれば、事態は間もなく鎮静化する。大局的な懸念には及ばんよ』


 強がりだ。

 世界各地で起きている「アポロンの矢」の模造品による爆発事故は、もはや彼らの統制力を超えつつある。不完全な知識で異星のテクノロジーを再現しようとする愚か者たちが、毎日どこかで自爆のスイッチを押しているのだ。

 僕は、ティーカップをソーサーにコトリと置き、意地悪な笑みを深めた。


「そうか。君たちが完全にコントロールできていると言うなら、僕が口を挟むことでもないか。ただ、少しばかり目に余るというか、鬱陶しくてね。あちこちで粗悪な花火を打ち上げられると、僕が楽しみにしている地球の夜景が台無しになるし、何より、僕のお気に入りのお菓子メーカーの工場に火の粉が降りかかりそうで気が気じゃないんだよ」


『……何を言いたいのだ、代表』


「簡単な話さ、アルファ。君たちの足元で起きている火遊びの元凶……連中が『アポロンの矢』と呼んで崇め奉っているあの壊れたガラクタの、オリジナルの場所を教えてあげようかと思ってね」


 沈黙。

 重く、そして濃密な沈黙が通信回線を支配した。

 アルファにとって、それは喉から手が出るほど欲しい情報のはずだ。現在、彼らが血眼になって探している世界の火種であり、同時に、手に入れればアメリカの軍事力を飛躍的に引き上げる可能性を秘めた超絶的なアーティファクト。

 それを、僕はまるで「道端に落ちている空き缶の場所を教える」程度の気軽さで切り出したのだ。


『……代表。貴殿のその情報の正確性は、過去の例からも疑うべくもない。だが、なぜ我々に? そのような戦略的価値のある情報を、無条件で提供するというのか? 我々に何を求めている?』


 アルファの声は、変調器を通してもなお、深い猜疑心と警戒心に満ちていた。当然だろう。国家間の情報戦において、無償の善意など存在しない。彼は僕の言葉の裏に、何か致命的な罠や、屈辱的な対価が隠されていると警戒しているのだ。


「見返り? 条件? いやいや、そんな面倒なものは何もないよ。言っただろう、単なる『お掃除』のヒントさ。僕が自分で拾いに行ってもいいんだけど、生憎と僕は今、新作ゲームの攻略で忙しくてね。君たちが地球の治安維持を自負しているのなら、その厄介なゴミの処理くらい、率先してやってくれるだろうと期待してのことだよ」


 僕はホログラムの波形に向かって、ひどくあっさりと告げた。

 それは、彼らの国家的なプライドと威信を根底からへし折る言葉だった。彼らが国家の命運を賭けて追い求めているものが、僕にとっては「面倒なゴミ拾い」に等しく、その処理を「暇だから代わりにやっておいて」と押し付けているのだから。


『……ゴミの、処理、だと……』


 アルファの絞り出すような声には、明らかな怒りと、そしてそれ以上に、抗うことのできない絶対的な力の差への屈辱が滲んでいた。

 だが、彼は"セレスティアル・ウォッチ"の長だ。個人の感情で国家の利益を天秤にかけるような愚か者ではない。


「場所は地中海、エーゲ海に浮かぶ名もなき私設島だ。所有者はヴィクトル・ゾルマン。地球の裏社会では名の知れた武器ブローカーらしいね。彼の施設の地下深く、最も厳重に警備された保管庫に、それはある。詳しい座標と施設の構造データは、XT-378からそちらのメインフレームに送信させておいた。あとは君たちの自由にしてくれて構わないよ」


 ピピッ、という電子音と共に、エリア・デルタのサーバーに膨大なデータが転送されたことを示すログが、僕の視界の端で確認できた。


『……データ、確かに受領した。……代表、この情報提供の真意がどこにあるにせよ、我々は我々のやり方で事態を収拾する。この星の安全は、我々自身の手で守り抜いてみせる』


「期待しているよ、アルファ。せいぜい、怪我をしないように気をつけてね。それじゃ、良い夜を」


 僕は一方的に通信を切断した。

 ホロディスプレイの波形が消え、部屋に再び静寂が戻る。


「代表。オブザーバー・アルファの心拍数及び音声パターンの解析結果から、極度の屈辱感と、対象物確保への強烈な野心の増大が確認されました。彼は直ちに実働部隊を動かすでしょう」


 XT-378が、紅茶のおかわりを注ぎながら淡々と報告する。


「だろうね。誇り高いアメリカの秘密組織のトップが、見ず知らずの宇宙人にアゴで使われるんだから。でも、背に腹は代えられない。あの『アポロンの矢』を放置すれば、遅かれ早かれ地球のどこかの都市が消し飛ぶ。彼らもそれは理解しているはずだ」


 僕は、芳醇なアールグレイの香りを楽しみながら、小さく笑った。

 これで、面倒なデバッグ作業は彼らが勝手にやってくれる。僕は、特等席からその活劇を鑑賞するだけでいいのだ。


 ***


 地中海、エーゲ海。

 月明かりが波間を鈍く照らす深夜、ヴィクトル・ゾルマンが所有する私設島の遥か上空を、漆黒のステルスVTOL輸送機が音もなく滑空していた。

 レーダー波を完全に吸収し、赤外線シグネチャを極限まで抑え込んだその機体は、地球上のいかなる防空網にも捕捉されることなく、獲物の上空へと到達した。


 機内には、赤いフットライトに照らされた十数名の兵士たちが、微動だにせず座席に固定されていた。

 "セレスティアル・ウォッチ"が誇る最精鋭特殊作戦部隊、チーム「キメラ」。

 彼らは全員、最新鋭の光学迷彩機能と環境適応装甲を備えた漆黒のタクティカルスーツに身を包み、その顔はフルフェイスのタクティカルヘルメットで完全に覆われている。


「キメラ・リーダーより全隊へ。これよりポイント・ナイチンゲールへのサイレント・エントリーを開始する。目標は地下施設の最深部、コードネーム『ヴォールト・ゼロ』に保管されているアーティファクトの確保、及び対象ヴィクトル・ゾルマンの拘束だ。交戦規定はアルファ。障害となる敵対勢力は迅速かつ無力化せよ。作戦開始エクスキュート


 チームリーダーであるコードネーム「ストレイカー」の、低く冷静な声が部隊内通信に響く。

 輸送機の後部ハッチが音もなく開き、冷たい海風が機内に吹き込んだ。

 ストレイカーを先頭に、キメラの隊員たちは次々と夜の闇へと身を躍らせた。

 特殊なパラシュートと降下制御スラスターを駆使し、彼らはまるで夜空から舞い降りる影のように、島の切り立った断崖の死角へと、水音一つ立てずに着地した。


「アルファ・チーム、降下完了。これよりフェーズ2に移行する」


 島は、表向きはのどかな漁業関連施設を装っていたが、その実態は難攻不落の要塞だった。海岸線には熱源センサーと自動追尾式の対空機銃が隠され、施設周辺には重武装の傭兵たちが二十四時間体制で巡回している。

 だが、キメラ部隊にとって、そのような地球レベルの警備網は、単なる通過儀礼に過ぎなかった。


 ストレイカーのハンドサインに従い、隊員たちは音もなく散開する。

 彼らのヘルメットのHUDには、〈サイト・アオ〉から提供された施設内の詳細な三次元構造マップと、敵の配置、センサーの可視化データがリアルタイムで共有されていた。


「ポイント・ブラボー、敵歩哨二名。処理する」


 通信と共に、暗闇の中でわずかな風切り音が鳴る。

 キメラの隊員が放った電磁加速式の特殊テーザー弾が、巡回中の傭兵たちの首筋に正確に命中した。

 傭兵たちは声を上げる間もなく、強力な電流によって神経系を麻痺させられ、糸が切れた操り人形のようにその場に崩れ落ちた。


 赤外線グリッドは特殊なプリズムデバイスで光路を歪めて通過し、生体認証ロックの掛かった分厚い防爆扉は、携行型のナノ・サーマイト・カッターで瞬時にヒンジを焼き切って突破する。

 彼らは、一度も警報を鳴らすことなく、施設の上層部を蹂躙し、地下へと続くメインシャフトへと到達した。


「ここから先は、連中も本気のようだ。熱源反応多数。重火器の兆候あり。各員、ウェポン・フリー」


 地下施設「タルタロス」。

 そこは、コンクリートと鋼鉄で固められた、迷宮のような空間だった。

 ゾルマンが世界中から高額で雇い入れた精鋭の私兵部隊が、侵入者の気配を察知し、重武装で通路を封鎖していた。


接触コンタクト!」


 静寂は、突如として破られた。

 けたたましい銃声と、マズルフラッシュの閃光が薄暗い地下通路を照らし出す。傭兵たちの放つ5.56ミリ弾の雨が、キメラ部隊に襲い掛かる。

 だが、キメラの隊員たちは一切怯むことなく、タクティカルスーツの防弾性能を信頼して前進を続けた。彼らの手にする特殊電磁加速ライフルから放たれる非致死性のショック弾と、壁を貫通して炸裂するマイクロ・フラググレネードが、敵の防衛ラインを次々と崩壊させていく。


 ストレイカーは、飛び出してきた敵兵の胸板に的確にダブルタップを叩き込みながら、冷静に戦況を分析していた。

 敵の数は多いが、連携が取れていない。所詮は金で雇われた烏合の衆だ。

 彼らは、プロフェッショナルな戦術的機動をもって、通路を一つ一つ確実にクリアし、最深部へと肉薄していった。


「セクター・デルタを制圧。目標地点『ヴォールト・ゼロ』の隔壁前に到達」


 激しい銃撃戦の末、ストレイカーたちはついに目的の部屋の前に辿り着いた。

 そこは、厚さ一メートルを超えるチタン合金製の巨大な防爆扉で塞がれていた。


「ブリーチング準備。C4セットしろ」


 隊員の一人が、扉の接合部に沿って指向性爆薬を迅速に貼り付けていく。

 だが、その時だった。

 扉の向こう側から、マイク越しでもはっきりと分かるほどの、狂気に満ちた怒声が響いてきた。


『ふざけるなッ! どこの国の犬かは知らんが、俺の宝を奪わせるものか! この「神の雷」の力を思い知れッ!』


 ヴィクトル・ゾルマンだ。

 彼は追い詰められ、自暴自棄になっていた。


「ブリーチ! 突入しろ!」


 ストレイカーの叫びと共に、強烈な爆発音が響き、分厚いチタンの扉が内側に吹き飛んだ。

 粉塵と煙が立ち込める中、キメラの隊員たちが一斉にフラッシュライトを点灯させ、部屋の中へと雪崩れ込む。


 そこは、広大な地下金庫だった。

 そして、部屋の中央。

 黒いベルベットの台座の上に置かれた、全長五十センチほどの鈍く光る金属と水晶の塊。

 悪趣味な金の装飾が施された、銀河帝国の旧式兵器「G7-Vブラスター」――地球の裏社会で「アポロンの矢」と呼ばれるアーティファクト。

 その銃口の横に立ち、血走った目でこちらを睨みつけている初老の男が、ヴィクトル・ゾルマンだった。


 だが、ストレイカーの視線は、ゾルマンよりも、その「アポロンの矢」に繋がれた異様な光景に釘付けになった。

 本来エネルギーセルが装填されるべきポートが物理的に破壊され、そこに極太の銅線ケーブルがハンダ付けで無理やり接続されている。そのケーブルの先には、無数の車のバッテリーを直列に繋いだような、巨大で不格好な手製の電源装置が稼働していた。


「やめろ! スイッチから手を離せ!」


 ストレイカーが銃口を向けながら叫ぶ。

 しかし、ゾルマンは狂ったように笑いながら、手元の起爆装置のようなスイッチを力任せに押し込んだ。


「死ねェッ!!」


 ガコンッ、という重い物理スイッチの音が響く。

 次の瞬間。


 ブゥゥゥゥン……!!


 耳の奥を直接引っ掻くような、聞いたことのない高周波の共鳴音が、地下金庫全体を激しく震わせた。

 粗悪な銅線ケーブルが限界を超えた熱を持ち、被膜がドロドロに溶けて異臭を放ち始める。

 そして、「アポロンの矢」の透明な発振クリスタルが、本来の青白い光ではなく、禍々しい赤黒い輝きを放ち始めた。


「な、なんだこれは……ッ!?」


 ゾルマンの顔から、狂笑が消え、純粋な恐怖の色が浮かんだ。彼自身も、自分が何を起動させたのか理解していなかったのだ。

 安全装置セーフティが物理的に破壊された銃身の中で、制御を失ったエネルギーが逆流し、臨界点に向かって指数関数的に膨れ上がっていく。

 銃口から、赤黒いプラズマの光芒が、まるで呼吸するように明滅しながら漏れ出し、周囲の空間が陽炎のように激しく歪み始めた。


「まずい! エネルギー暴走だ! 全員、退避ィィッ!」


 ストレイカーが絶叫する。

 ヘルメットのHUDに表示された環境センサーの数値が、狂ったように跳ね上がり、レッドゾーンを容易く突破していく。

 このままでは、暴発したエネルギーが地下施設はおろか、この島そのものを文字通り地図から消し飛ばす。

 部隊の全滅。作戦の失敗。

 絶望的な未来が、ストレイカーの脳裏をよぎった。


「くそッ……間に合うか!?」


 ストレイカーは退避するのではなく、逆に暴走するアポロンの矢に向かって踏み込んだ。

 彼は腰の特殊コンテナから、円筒形のデバイス――「高エネルギー制御フィールドジェネレーター」を引き抜き、アポロンの矢を取り囲むように、三基のプロジェクターを床に叩きつけた。


「制御フィールド、最大出力で展開ッ!!」


 三つのプロジェクターから、青白い半透明のエネルギーの壁が立ち上がり、三角錐の形となって暴走するアポロンの矢を囲い込んだ。

 それは、セレスティアル・ウォッチの科学技術の粋を集めた、高密度エネルギー封じ込め装置だった。


 ズガガガガァァァンッ!!


 赤黒いプラズマが暴発し、青白い制御フィールドの内壁に激突する。

 凄まじい衝撃波と熱量が金庫内を吹き荒れ、制御フィールドが悲鳴のようなノイズを上げて明滅した。空間そのものが軋むような、物理法則を超越した激突。


「出力維持しろ! ジェネレーターに補助バッテリーを直結だ!」


 ストレイカーの怒号に、部下たちが這いつくばりながら補助電源をジェネレーターに接続する。

 制御フィールドの青白い光と、暴れ狂う赤黒い破壊の光芒が、ギリギリの拮抗状態を保つ。

 フィールドの表面には、プラズマの激突による火花が散り、強烈な熱放射がキメラの隊員たちのタクティカルスーツの耐熱限界を削っていく。


「もってくれ……ッ!」


 ストレイカーは、歯を食いしばり、眼前の死闘を睨みつけた。

 エネルギーの逆流で溶け落ちていく銅線ケーブル。発振クリスタルの不気味な明滅。

 数秒が、永遠のように感じられた。

 彼らは文字通り、死力と技術の限りを尽くして、この「神の雷」の暴走をねじ伏せようとしていた。


 ピキィィィン……ッ!


 やがて、限界を超えた粗悪な外部電源装置がショートし、激しい火花を吹いて完全に沈黙した。

 エネルギーの供給を絶たれたアポロンの矢は、最後に一際大きく赤黒い光を放った後、急速にその輝きを失っていった。

 高周波の共鳴音が鳴り止み、後には、溶けたケーブルの焦げた臭いと、制御フィールドが発する低い駆動音だけが残された。


「……エネルギーレベル、低下。臨界点から脱しました」


 部下の一人が、荒い息を吐きながら報告する。

 ストレイカーは、全身にどっと押し寄せる疲労感を感じながら、ゆっくりと立ち上がった。

 制御フィールドの中で、ただの黒い金属と水晶の塊に戻ったアポロンの矢が、静かに横たわっている。


「……終わったか」


 彼は、床にへたり込み、恐怖で失禁しているヴィクトル・ゾルマンを一瞥した。


「対象の確保に成功した。ゾルマンを拘束しろ。……これより、帰還する」


 ***


 ワシントンD.C.、エリア・デルタ。

 オブザーバー・アルファの執務室のホログラム・ディスプレイに、帰還途中の輸送機に乗るストレイカーの姿が映し出されていた。


『……司令部、こちらストレイカー。対象物の暴走は鎮圧。高エネルギー制御フィールド内で安定しています。ヴィクトル・ゾルマン及び技術者数名の拘束も完了。負傷者は……熱傷による軽傷者が数名のみ。作戦は成功です、長官』


 ストレイカーの報告を聞き、アルファは、変調された音声の奥で、静かに、そして長く息を吐き出した。


「ご苦労だった、ストレイカー。よくやってくれた。帰投後、ただちに医療チェックを受けろ」


 通信を切断し、アルファは薄暗い執務室の天井を仰いだ。

 成功した。

 犠牲を払い、ギリギリの死闘を演じた末に、アメリカは、そして"セレスティアル・ウォッチ"は、他国に先んじて、この恐るべき「力」のオリジナルを手に入れたのだ。

 これを解析し、制御することができれば、地球上のいかなる国家も、いかなる組織も、彼らに逆らうことはできなくなる。軍事的な覇権は、完全に彼らのものとなる。


 彼の胸の奥で、強大な戦利品を手にしたことへの野心が、黒い炎のように燃え上がっていた。

 しかし、その炎を冷や水を浴びせるように、彼の脳裏に一つの疑念が浮かび上がった。


 あの〈サイト・アオ〉の代表、ティアナ・レグリア。


 彼は、この計り知れない価値を持つ兵器の場所を、なぜ無条件で提供したのか。

「お掃除のヒント」だと彼は言った。

 まるで、彼にとっては、この兵器が本当にただの「ゴミ」であるかのように。


(我々が死に物狂いで手に入れたこの力が……奴らにとっては、取るに足らないガラクタだというのか?)


 アルファは、無意識のうちに拳を強く握りしめていた。

 もしそうだとしたら、彼らの真の技術力、そしてその背後にある力は、どれほどのものなのか。

 我々は、この強大な力を手に入れたと喜んでいるが、実際には、彼らが用意した盤の上で、彼らの思い通りに踊らされているだけなのではないか。


 あの男は、遥か高みから、我々のこの必死の死闘を、圧倒的な余裕をもって見下ろしていたに違いない。


(……我々は、決して貴様らの操り人形ではない)


 アルファの瞳の奥に、野心と同時に、底知れぬ警戒心と、そして決して拭い去ることのできない恐怖が、冷たく渦巻いていた。

 彼らの孤独な戦いは、真の脅威の影に怯えながら、さらに深い闇へと足を踏み入れていく。

最後までお付き合いいただき感謝します。


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