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魔法学院編 第八話

 隼人たち一年生が学院に入学してからひと月が経とうとしていた。朝から晩までミッチリと組まれた講義に最初は誰しも苦労していたが、最近では慣れた様子だ。

 たった1ヶ月、されど1ヶ月。個々人の力は入学前よりも明らかに伸びていた。

 今日も今日とて学院での平穏な日常を終え、隼人は帰路に着く。

 隼人は学院生としては珍しく一軒家で一人暮らしをしている。彼の特殊な出生を鑑みればさほど不思議なことではないのだが。

 自宅の鍵を開け、玄関のドアノブに手をかけた所で隼人は違和感に気付く。

 (――誰かいる。)

 隼人は呼吸を浅くし、靴を脱ぐ。匂い、空気、配置は普段の自宅と何も変わらない。だが、形容し難い雰囲気の変化を感じ取っていた。

 鞄を置く音を殺し、踵を落とさずに歩いていく。そうするのが”最適解”だとでも言うような、身体に染み付いた動き。

 廊下の暗がりを進みながら、無意識に視線が死角となる部分へと向けられて行く。鏡面のガラス、棚の陰、カーテンの隙間。

 そこに「いる」と決めつけるのではなく、「いない」と確認していく。可能性を確かめるのではく、可能性を消す。それが()()()()()定石(セオリー)だ。

 昔――訓練施設の白い廊下で、何度も同じことを繰り返した。扉の向こうに教官がいる日も、いない日も、結局は同じ動作を求められた。確認は儀式ではなく、癖であり、命綱だった。

 居間の前で足を止める。照明のスイッチは見なくてもつけられる。居間に意識を集中しながら灯りをつける。

 そこに居たのはソファーに座りながら脚を投げ出している男。片手には缶コーヒを持ち、まるで我が家のように寛いでいた。

 その男を見て隼人は警戒を解く。

「二瓶さん。魔法まで使用して気配を消すのは如何なものかと思いますが。それと、無許可で他人の家に上がるのは不法侵入ですよ。」

 二瓶と呼ばれたその男は悪びれる様子を見せず、隼人の言葉に笑って返す。

「相変わらずお堅いねえ。ちったあ久しぶりの再会を喜んだらどうだ、隼人。」

「二瓶さんに堅いと言われるのはこれで247回目です。」

「数えてんのかよ…。」

「冗談です。」

 真顔で冗談を言われては、顔が引き攣るのも無理はない。二瓶は苦笑し、缶コーヒーに口をつける。

「しっかしなあ…一人暮らしとは思えないほど冷蔵庫がすっからかんだぜ。色々入れといたから、ちゃんと食えよ。」

「お気遣いありがとうございます。」

「ったく。それで、学院の方はどうなんだ?」

「どう、とは?」

「なんかあんだろ。友達ができたとか、彼女は…まあねえだろうが、そういうの。」

「友達…はできたと思います。」

「ハハ、そうかそうか、そりゃ何よりだ。」

 二瓶は嬉しそうに笑う。その様子を見て、隼人は困惑する。

「嬉しそうですね。」

「そりゃ、な。これでもお前の事心配してたんだぜ。俺も、()()()()も。」

「ありがとうございます。彼らは元気ですか?」

「あー…まあまあだ。お前と中々会えなくなったからな、寂しがってたぜ。」

「そうですか。とは言え、任務があれば会うことになりますから、そこまで感傷的になる必要も無いと思いますが。」

 二瓶は肩を竦める。

「任務云々じゃなく、普通にお前と過ごす時間が減ったのが辛いんだろうよ。あいつらにとってお前は兄貴みたいなもんだからな。」

「……。」

 隼人はほんの一瞬目を閉じ、彼らに思いを馳せる。隼人にとっても彼らは家族のように大切な存在だった。

 胸に浮かんだモヤついた気持ちを、精神力で握り潰す。

 隼人の心中を知ってか知らずか、二瓶は微笑む。

「ま、近いうちにこっちの()にも顔出せよ。」

「そうします。」

 隼人は頷いてキッチンへ向かう。グラスに水を注ぎ、それを飲み干した。

 「それで、今日はどのようなご要件ですか。まさか世間話をしに来たわけではないでしょう。」

 二瓶は隼人を一瞥し、缶をテーブルに置く。先程までの巫山戯た様子はなく、一気に周囲が静寂に包まれる。

 (――結界…相変わらずの展開精度だ。)

 隼人読み通り、二瓶は缶をテーブルに置いた瞬間に隼人の家全体を覆う複合結界を展開していた。その速度、規模、性能はおよそ一介の魔法士とは思えないものだ。

 

「特務曹長。忠告だ。」

 二瓶の口調が変わった。隼人は瞬時にグラスを置き、傾聴の姿勢をとる。

「先日、軍データベースにアクセスを試みた痕跡が確認された。手法から推察するに、恐らく日本統合防衛軍、特殊魔法士中隊に属する何れかの特務小隊出身の者だ。」

 二瓶は一泊おいて話を続ける。

「そして検索されたのは特務曹長、君だ。」

 そこまで聞いて隼人は小さく目を見開く。

「当然、曹長に関する情報は極秘中の極秘扱い。相手方が情報を入手した可能性は極めて低いが……。」

「警戒するに越したことはありません。」

「そういう事だ。とは言え検討はついているんだがな。」

「と、言いますと?」

「曹長が学院に通い始めてから関わりを持った人物は限られる――特に軍出身ともなればな。可能性として有り得るのは今のところ二人。」

「中条貢と篠宮真之ですか。」

「その通りだ。しかし管轄が違うため、中条貢の線は薄い。そうなると…。」

「篠宮真之、或いは中条貢の両名。」

「だろうな。」

「……大尉、ご命令とあらば――」

「いや、お前が動く必要はない。それに本件は未だ推測の域を出ていない。必要になればこちらで対処しよう。」

「畏まりました。」

「お前が気取ったことを気取られるなよ。」

「問題ございません。しかし、明確な悪意を感知した時は…」

「その時は好きにしろ。だが、篠宮真之は色んな意味で信用出来る男だ。お前が思うようにはならないと思っている。」

「ご存知なのですか?」

「昔、少しだけな。――取り敢えず本件に関する話はここまでだ。それで、ここからが本題なんだが…。」

 二瓶は立ち上がり、窓際へ向かう。カーテンに触れず、外を“見るふり”をする。…実際は、音も気配も拾っているのだが。

「最近、また()が騒がしくなってきている。」

「少しは静かになったかと思っていましたが。」

 二瓶は溜息をつく。

「AEGISが主体となって行った昨年の大規模掃討作戦(オーダー・エクミデニシ)でかなり大人しくなっていたんだがな。最近再び活発化してきている。」

「新たな勢力の台頭ですか?」

「いや。首頭飛怪(ペナンガラン)の残存勢力が小規模勢力を吸収・合併して大きくなったようだ。」

首頭飛怪(ペナンガラン)…確か東南アジア由来の魔法犯罪組織ですね。しかし妙ではありませんか?」

「ああ。現在本国であるマレーシアは魔法犯罪組織と軍部が大規模な衝突を繰り返す内紛状態。それに日本では軍による対外的な検問が強化されている。支援を受けるのはかなり厳しいはずだ。」

「となると…。」

「何れかの国が介入している可能性がある。注意した方が良いだろうな。」

 二瓶はそう言ってソファーに座り直す。

「大尉、その話を私の所へ持ってきたということは――」

「お前達を動かすつもりではない。なんでも奴らに関して不穏な噂を聞きつけてな。」

「不穏な噂、ですか。」

 二瓶は頷く。

「もう少しで合同演習が実施されるのは知っているか?」

「ええ。とは言え噂を聞いた程度で、正式に告知はされておりませんが。」

「その合同演習、もしかすると奴らが乱入するかもしれん。」

 隼人はピクリと眉を動かす。

「有り得ません。学院のセキュリティは兎も角、多数の教員と保安委員会の監視を掻い潜って外部の人間が介入することは不可能では?」

「曹長ならできるだろう?」 

 二瓶は隼人の方を真っ直ぐ見る。

「それは…そうかもしれませんが。」

 隼人に対する視線を外さないまま、二瓶はゆっくりと立ち上がる。

「気をつけておけ。何があるか分からないからな。」

「ご忠告ありがとうございます。」

「隼人。大丈夫だとは思うが、何があっても許可なく動くなよ。お前だけじゃなく、あいつらの事も危険に晒すことになっちまう。」

「心得ています。」

 隼人は軽く頭を下げる。視線を戻すと、二瓶の姿は結界と共に消えていた。

 

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