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足元注意(タイムパラドクス)

〈鋭利なり冬の三日月ふと見上ぐ 涙次〉



【ⅰ】


「おは、エヴリバディ」尾崎一蝶齋が* ELEMOsスーパーカーゴに乘つて、カンテラ一燈齋事務所に出所して來た。カンテラ、(なぬ、** 尾崎は俺が殺つた。何故皆そ知らぬ顔をしてゐる???)



* 前シリーズ第132話參照。

** 當該シリーズ第1話參照。



【ⅱ】


「尾崎か、ルシフェルか。どちらを取る?」と俺に二者択一を迫つたじろさんも、尾崎と普通に會話してゐる... これは、タイムパラドクスぢやないか!? 確かに俺は、パラドクス覺悟で孟悟仁を斬つた(前回參照)。何の因果かそれが尾崎の生死を左右してしまつたのか。尾崎の地上に殘つた存念が、事態をその方向へ向かはせたのか。カンテラはそんな尾崎を一體だう扱つたらいゝか、さつぱり分からない。で、(俺も皆と變はらず、何事もなかつたかのやうに接するべきなのか。)この現象に氣付いてゐるのは、カンテラ一人つきりなのだ。



【ⅲ】


カンテラ(俺が* 水晶玉で観た、5・6年後の一味の様子からすると、尾崎はまだ生きてゐて然るべきだつた。)あれは昂太の一件だつた...(俺が尾崎を殺めたのは、その事實に叛してゐたらしい。)



* 前シリーズ第74話參照。



【ⅳ】


「時」の事なら時軸に訊いてみやう。彼には* 魔界の時計番だつた前歴がある。カンテラ、秩父の「猫nekoふれ愛ハウス」(時軸の勤務先)に連絡を取つた。

「麻、きみ知つてるかい? タイムパラドクスの大元つて誰だ?」-「僕の魔界での上司に、『時神』つてのがをりました。カンさん仰つてるのは、多分その【魔】でせう。何でも時の神クロノス(古代ギリシアの原初神。カオスから生まれたと云ふ)を殺害して、その地位を簒奪したとかで... ** ギリシアの神々とは複雜な利害関係があつたさうです。それが何か?」-「いやちよつと氣になる事があつてね」



* 前シリーズ第34話參照。

** 前シリーズ第195話參照。



【ⅴ】


カンテラはじろさんも伴はずに、一人で魔界に降りた。すつかりカンテラに恐怖心を植ゑ付けられた「親ルシフェル派」の殘党が云ふに、「時神」なら彼の執務室にゐる筈だ、との事。カンテラ、無遠慮に「時神」の許に押し入つた。「カンテラか、來る頃だとは思つてゐた」-「『時神』さんとやら、タイムパラドクスを解除して貰ひたい」



※※※※


〈餅食べて咽喉に詰まらせお陀佛と云ふをジョークの種にするかな 平手みき〉



【ⅵ】


「お言葉だが、俺を斬つてもタイムパラドクスは修正不能だ。一度起こつてしまつたものは、止めやうがないのだ。さて、カンテラよ、それでも俺を斬るか?」-



【ⅶ】


「惡いが俺はあんたを斬る。さもばくば俺の差し料、傳・鉄燦が夜泣きするのでな」-「時神」は身構へたが、身構へてだうなると云ふものでもない。「しええええええいつ!!」



【ⅷ】


確かにパラドクスは、一度起きたら収まらないやうだつた。「時神」を斬つても、尾崎は變はらず每日元氣に出所して來る。それでも事務所の皆、カンテラが尾崎を斬つた事は知らぬ氣に働いてゐるのだ。全く、一度は自分が斬つた相手と、每日顔を突き合はせねばならないとは。後日、ゼウスの使ひ魔がカンテラ宛に付け届けをして來た。「時神」を斬つた褒美だと云ふ。ギリシアの神々と「時神」の確執については、カンテラの関知するところではない。山と積まれた金銀財寶を前に、カンテラたゞ呆然とするだけであつた。



【ⅸ】


カンテラ、ルシフェルの墓前に以上のあらましを報告した。ルシフェル「お主の八卦にはだう出てゐる?」-「運氣の乱れに注意せよ、と」-「それなら儂の付け足す事は何もない。ま、たまに狀況に抗ふ事も、お主の稼業には必要だらうが」。全く、狐に詰まゝれたやうな心地がするカンテラだつた。「時」が俺を追い越した、さうとしか云ひやうのない世界が、其処に廣がつてゐた。お仕舞ひ。



※※※※


〈年明けは障害者手帳取りに行く 涙次〉



PS: 八卦の云ふ「運氣の乱れ」を突いて來る【魔】は必ずゐる筈だ。【魔】はほゞ潰滅狀態の魔界にばかり巢喰つてゐるのではないからだ。足元注意、のシグナルが點灯してゐた。それは今のカンテラの氣分を反映したものばかりとは云へなかつた。現實の問題なのである。擱筆。


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