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七番目の黙示録  作者: 凛月
第二章
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初めての町

ST.952 「シャンデラ大陸・メリア神聖国パライン」


 聖域から転移して歩くこと半日、丘の上からパラインの町が見えるところまで来られた。季節がらか、少しの肌寒さを感じたけど、師匠に貰ったコートのおかげで快適な移動だった。パラインは、魔物避けの結界魔術で守られているようで、石壁のような物理的な守りが存在しない。魔獣の襲撃を阻止できる結界ではないけど、ここは界異のテリトリーじゃないし、神聖国は女神の加護によって守られているから、この辺境にやってくることは無い――はずだ。ゲームの通りならば神聖国より南西部に魔獣は存在しない。


「もうじき夜か……町に着くころには深夜だし。今日はこの辺で野宿するか」


 師匠と離れてまだ半日だというのに、寂しさからか独り言が絶えない。……師匠とじゃなくてハインの存在の方が大きいか?

 野宿と言っても、薪をするわけでもなく、ただ布を敷きそこに寝ころぶだけだ。地面の固さは鍛錬で慣れてるし、コートのおかげで体温が下がることも無い。コートが無くては生活できない体になってしまいそうだ。

 夜が明けてすぐ、再びパラインへ足を向ける。思った通りに凝り固まった体をほぐしながら、四時間ほど歩き、パラインの町の外周に到達した。町の入り口と言ってもいのかわからないけど、辺り一面俺の背丈以上ある作物の畑が俺を出迎えてくれている。丘の上から見えてはいたけど、いざ近くで見ると中々に壮大だ。道は土を整備しているだけで、石畳やコンクリートじゃない。整備が甘めなのか、タイヤの轍が薄く見えている。


「こんにちはー」

「こんにちは。子供一人でどうした?親とはぐれでもしたか」


 町に入ってすぐ、一人で見回りをする壮年男性に声をかけた。不揃いの装備に腰にロングソード、使い古されたナイフ……見た目からして、傭兵だ。


「いえ、一人旅です」

「マジか。……まあ、身なりからして普通の子供じゃねえとは思ったが、一人で旅とはまた大層な。この町には何しに来たんだ?」


 彼は「一応仕事だから」といい、オベルクと名乗る男は、俺のことを根掘り葉掘り聞いてきた。子供だからといって、こんななりをしている俺は十分に不審者だ。コートの膨らみに気づいて、魔術書をみたり、トランクケースの中身を開くだけで軽く見るだけで審査は終わった。その間ずっと、話す言葉は優しくて、子供に甘い印象だ。しかし、町の警備を任されているってことはそこそこ腕が立つ傭兵ってこと……誤って敵対しないように注意しよう。


「よし!終わりだ。にしてもその若さで魔術師とは、おったまげた。それにその魔術書、相当値が張るだろ」

「師匠がとんでもない御仁で……心配だからと、貴重な宝物庫から分け与えていただきました」

「宝物庫って……ハルのお師匠様は、さぞ名のある魔術師なんだろうな」

「名は伏せます。ただ……まあ、予測不能な行動をとられる方です」


 師匠の名前を伏せるってのは、魔術師では当たり前――と師匠は言っていた。けどそれは建前で、弟子にしてくれと懇願されるのが面倒だからというのが本音だろう。


「なんにせよ、町に滞在するなら宿は必須だな。紹介してやるよ。路銀はいくらぐらいある?」

「……全くありません。底を尽きました」


 底を尽いたというのは嘘だ。何しろ、師匠が最後に外を旅したのは二百年前……現代の貨幣なんて持っているはずがない。


「ので、質屋に物を入れたいと思っています。ありますか?」

「おう、あるぞ。まさか、魔術書を質に入れるってわけじゃないだろうな……」

「んなわけないじゃないですか……魔術師の生命線ですよ」

「だな。んま、路銀がねえんじゃ話にならねえ。ついてこい案内してやる」


 宿の案内は質に行って換金してからという事になり、この町に入った足のままオベルクさんの背を追う。町の中は特に活気で満ちているという風ではない。穏やかな日常をみなで過ごしているといった印象だ。ここは辺境も辺境――人の入れ替わりが激しいわけでもなく、ほとんど地産地消で生活している。外からくるとすれば、一日に一本のバスか、作物の回収に来る業者、あとは俺みたいにふらっと立ち寄って、数日で消えていく人間だけだ。


「ほら、ここだ」

「お、おおう……」


 案内された質屋は、なんとも怪しい雰囲気を漂わせている、いかにも老齢の偏屈な御仁が経営していそうなところだった。


「ホントに大丈夫ですか……?」

「ここは一応、聖都に本店を構えてる商会の下請けになってる店だ。買いたたかれることはねえよ」


 なら大丈夫……とまでいかないけど、しかし、金が無いと旅どころの話ではない。ここは心を決めていくしかない。


「おじゃましまーす……」


 開いた扉は鈴の音を鳴らし、そしてすぐ、扉前カウンターに座った男性が「いらっしゃい」と声をかけてきた。さて、見た目の印象だけど……一言でいうとチャラい。サングラスかけてて、ピアスは大量に空いてるし……ちょっと怖い。


「よう、シャンズ。お客連れてきてやったぜ」


 どうやら、結構親しい間柄の様で、オベルクさんはニヤ付いた顔でシャンズと呼ばれる青年に話しかけた。対してシャンズは「げえ」とふてぶてしい態度で迎える。


「おん?ばあさんはどっか行ったのか?」

「知ってんだろ?老人会だよ、老人会。ったく、平和に店番してたってのに……」

「貴重な客連れてきてやったんだ。感謝くらいしやがれ」


 

 そんな掛け合いを他所に、店の商品を見回す。以外にも店内はしっかりと整頓されていて、お客様にも優しい仕様になっていた。ゲームで見たことのあるアイテムも適正な価格で売られている。店員はチャラいけど、これなら任せても大丈夫ではなかろうか。


「んで?買取か?」

「おう、この坊主一文無しの旅人でな。ちょっくら色付けてやってくれ」

「馬鹿言ってんじゃねえ。んなことしたら本店から目つけられんだよ。とりあえず品見せてみろ。適正価格で買い取ってやる」


 お客に向ける態度ではないけど、ここは我慢だ。


「それじゃ、これを」


 俺が買取に出すのは、師匠に貰った二百年前の銀貨だ。金貨は流石に高値が付き過ぎて、怪しまれる可能性があるから、銀貨にすることになった。それを見たシャンズは「ほおん」と言いながら、白い手袋をつけ、銀貨を観察し始めた。


「二百年くらい前に東側諸国で使われてた銀貨だな。保存状態は最悪と、コレクションしてたってわけじゃなさそうだ。んで、銀は――八…九割。上物だな。二十万。ちょいと色目つけて二十五万だ」


 ただ見ただけで、そこまでの情報得られるなんて……チャラいけどかなり有能なのでは?


「ほーちゃんと色目つけてくれるじゃねえか」

「うるせえ。こういうのは時価で変わってくんだ。これくらい普通だ!普通!」

「あはは、それで買取よろしくお願いします」


 シャンズは「まってな」といい店の奥に向かった。二十万は大金だ。カウンターに置いているはずがない。金庫に入れてあるものを取りに行ったんだろう。彼は口はあんまり良くないけど、親切ではある。いい店を紹介してくれたオベルクさんに感謝だ。


「しかし、銀がどれだけ使われてるかって、見ただけでわかるもんなんですかね?」

「あいつは魔眼持ちなんだ。見るだけでそれが何で出来てるかってのがわかるらしい。それに加えて、婆さんに叩き込まれた知識量……鑑定屋としては上々だろ?」


 まさかの魔眼持ちだったか……なるほど、サングラスをかけてる理由がわかった。魔眼持ちは使えば目に文様が浮かびあがる。だけど制御ができないと、その文様が出っぱなしになって周りに晒し続けることになる。魔眼持ちは希少だと師匠は言っていた。それを隠すためのサングラスなんだ。


「はい。いい人を紹介してくれてありがとうございました。これで、何とか聖都までは持ちそうです」

「つっても、そこから金はどうすんだ?」

「ああ、傭兵になって働くつもりです。これでも、腕は立つ方なんですよ」


 と胸を張っても、完全には信じてもらえなかった。そりゃそうだ、俺くらいの年頃の男子なら、ようやっと手に職をつけようと動き出す頃……傭兵になるにしても、どこかのギルドに入って、見習いから始める。


「目的が旅ってんなら、見習いとし雇ってくれるギルドなんて、そうそうねえぞ?」

「最初からギルドに入るつもりはないですよ。組合で登録だけして、活動は独りでしますから」


 すると今度は「ありえねえ」と言いながら、傭兵の大変さを語り始めた。


「傭兵の仕事を舐めすぎだ。ごっこ遊びじゃねえんだぞ。魔物や魔獣の討伐には怪我は付き物、死者だって出る。そんで、若い奴から死んでいく……お前みたいな一人で活動しようとする子供はたくさん見てきたが、そいつらは大抵、依頼を受けたら戻ってこねえ……悪いことは言わねえ。やめとけ、普通の仕事なら紹介してやるから」


 オベルクさんは必死だ。今まで何人見送ってきたのかわからないけど、相当参っている。

 傭兵は組合に登録しさえすれば、依頼を受けられる。しかし、組合も馬鹿じゃない。不相応な依頼を受けさせるなんて、命を軽んじた行為は、禁止しているはずだ。その死んでいった子たちは、どこか抜け穴を使って依頼を受けたんだろう。


「傭兵が命の軽い仕事だってくらいわかってます。でも、俺の目的のためには、傭兵になることが一番の近道なので、譲歩するつもりも、やめるつもりもありません」

「おいおい。熱く何なら店の外でやってくれ。ほらよ、二十万リアンだ。さっさとそのデカいの連れて出てけ」


 奥から戻ってきたシャンズは、しっしと俺たちをめんどくさそうにあしらった。

 店を出てすぐ、オベルクさんは宿の紹介より先に確かめたいことがあると言って、近くの開けた場所へ俺を連れて行く。この展開はよくあるやつだ。トランクケースを置き、ローブを重ねて準備完了。さて、どこまでやろうか。


「小さな町で警備の仕事やってるが、俺はこれでも二級の傭兵だ。力の見定めをしてやれるくらいには強い。いいか、俺が無理だと感じたら、大人しく普通の仕事に就いて、その稼ぎで少しづつ旅行でもしろ」

「では、魔術なしの近接戦闘でやりましょう」


 少し挑発しすぎたか、オベルクさんは「その鼻っ柱へし折ってやる」と俺を見る目が鋭くなった。そりゃそうだ。魔術師の俺が剣士のオベルクさんに徒手でやり合おうってんだから。俺だって魔術で手合わせしろって言う挑発受けたらそうなる。


「いつでもこい」

「はい!いきます」


 師匠以外との対人戦闘はこれが初めてだ。少しずつ、ギアを上げていく感じで……。


「――!!」

「甘すぎる。お前じゃ傭兵にはなれん諦めろ……!?」


 少し気を抜き過ぎたか、横腹に蹴りを諸にくらってしまった。だけど、そんなものじゃ倒れない、というか痛くもない。こちとら地獄の特訓をしたおかげで、条件反射の一点集中身体強化が出来るようになっているのだよ。


「少し上げます」


 五十センチ以上はある体格差。だけど、この世界には身体強化という技があるから、簡単にカバーできる。体重なんて以ての外だ。それに、師匠に比べれば隙だらけ……これが「この世界」の二級傭兵か。ごっこ遊びと言うならば、あんたのその舐め切った態度を改めさせるまで。


「大口たたいてこの程度ですか!その腰の飾り物抜いてみたらいかがです?俺に無理だと言わせるんでしょっ!」


 この感触からして、オベルクさんも身体強化を使える人だ。壮年で、そこそこ戦闘経験もある傭兵なら出来るのも納得だけど……それでも甘すぎる。この人は完全に剣士だ。魔術の心得なんてほとんどないはずだから、魔力回路のイロハもわかっていない。身体強化は戦いの中で自然と身についたものか?。


「っは!だったらやってやろうじゃねえか。傭兵どうこうじゃねえ……こっからは俺の誇りをかけた戦いよお!」


 ロングソードを抜き、鞘を投げ捨てて独特な構えを取る。もはや、俺のことを魔物か何かだとしか思っていない目つきだ。もはや、言葉はない。ただ、呼吸を整え距離を詰めてきた。


「――……!」

「剣って言うのは剣士の誇り……なんですよね。へし折るのは止めておきます」


 結局、勝負でもなんでもない一方的な実験は、オベルクさんが汗を垂れ流し、しりもちをついて呆気なく終わった。


「そもそも、力試しに対人戦はないですよ。傭兵の主な役割は魔獣の討伐なんですから……」


 オベルクさんは何も言わない。子供相手に手も足も出なかった――それに加え、真剣を抜き、斬りかかった挙句、剣取りされて誇りも取られたのだから。宿の場所を聞くのも憚れる。住人の誰かに聞くとしよう。

 傭兵には、見習い、三級、準二級、二級、準一級、一級、特級と格付けされている。三級で一人前。二級は猛者。一級で達人。特級は規格外だから、実質一級が傭兵としては一番上の等級だ。準とついているのは、その等級に上がる資格を持っているという傭兵を指す。試験をクリアすれば晴れて等級が上がる。

 等級の壁は高い。二級とだけ聞くと軽んじられるだろうけど、大抵の傭兵は二級どまり。一級に臨む資格は得られても、試験に合格できるほどの実力を持つ者は少ない。見習い一割、三級七割、二級二割、そして一級はそのひと握りだ。これはあくまでゲームの話だけど、残機が一のこの世界で試験を受けるのは、名の通り命がけだ。


「しかし、十二年ぶりの対人戦だったから熱くなり過ぎたな。ゲームじゃ対人戦なんて、ほとんどプロレスみたいなもんだったから、挑発もしちゃったし……次に会う時気まずいなあ……」


 まあ、この町とは明日のバスでサヨナラだ。もう会うことも無いだろうし気にせず行こう。



――――――――



 夢を見ている気分だった。それもとびっきりの悪夢だ。

 最初の一手で、あしらったつもりになり、横腹に一発入れた――しかし、何だ。あの重さ。まるで巨岩を蹴ったような気分だった。

 そして、強さは増していった。力の加減を試すように、俺を弄ぶその姿は、小さい魔獣だ。

 怖くなった。誇りと言い訳と言う逃げ道を作り、真剣で斬りかかった――手に有ったはずの剣は、いつの間にか俺の首に向けられていた。そして、俺を見るその眼は、血が凍り付きそうなほどに冷徹だった。

 小さな背中が広場を遠退いていくにつれ、身体は暖かさを取り戻すように血が巡り始めた。


「いい年こいて子供の前でしりもちついてんじゃねえよ」


 気づけば、すぐ近くにあきれ顔のシャンズが救急箱を以て立っていた。


「お前、どうしてここに」

「何って、お前らの会話丸聞こえだったんだぞ?どうせ、返り討ちに合うと思って、婆ちゃんが帰ってきた後追っかけてきたんだよ」

「返り討ち?どうしてわかった」

「見りゃわかるよ見りゃ」


 そういってシャンズはサングラスをとった。能力の強さのせいで御しきれない目には文様が浮かんでいる。「識別の魔眼」というそうだ。


「ありゃバケモンだぜ。おっかねえ」

「お前には何が見えてたんだ」

「魔力の本流だよ。魔術師はなんつーか……体内に魔力の核?みたいなのを持ってるわけよ。んで、それを制御してんだか何だか知らねえけど揺らめいてんの。だけどな、普通じゃねえのがたまにいんだ。聖都でみたエルフも普通じゃなかったが、ありゃ長く生きてるから出来る所業だろうな。んで、あいつは身体全身、余すことなく魔力の核だった」


 シャンズは若い頃、親父さんに会いに聖都へ向かった際、数千年生きるというエルフを見たらしい。そいつは心臓付近に物凄い魔力を持っていた――とはしゃいで俺に報告しに来たことがあった。その時は、魔力に飲まれそうになり気を失ったらしいが……。


「そのエルフと何が違ったんだ」

「全部だよ。全部。拳一つがエルフだとしたら、あれは人の形をした馬鹿”デカい”魔力の塊だ。正直お前があの子供を店に連れて生きた時、ちびりそうになってさっさと逃げたかった。朝にくった飯全部吐きそうだったしな」

「お前がそこまで言うなら、マジだな……」


 俺はどうやら、少年の皮を被った化物に喧嘩を売ってしまったらしい。


「あいつは、明日の朝にはバスでここを出るっつってた。正直もう会いたくないから助かるぜ」

「そりゃよかった。俺も飯中に会ったら全部吐き出しちまうだろうし。んで、一日この町に居るってことは宿に泊まるのか?」

「ああ、場所を聞いてきた。教えないまま消えちまったけど」

「そっか。まあ、この町の奴らに聞くんだったら間違いなく、アンリちゃんの宿だな」

「だな。俺もそこに行こうとしてた。魔術師なんて言ったらなおさらな」


 案内するなら、あの宿が一番いい。だが、あれを案内してしまうくらいなら他所を言っとけばよかったか。


「まあ、万一に備えてりゃ大丈夫だろ。……生前葬でもやっとくか?」

「馬鹿言ってんじゃねえ……死なずに逃げる方法を考える」


 話すかぎりだと、特に変わり映えの無い十歳あたりの子供だ。少し大人びているが、それはあの強さからくるものだろう。刺激しなければ、向こうから敵対するきもなさそうだし……その意思があったら、あそこで俺は死んでた。


「――…なあ。あれの師匠ってどんなだろうな」

「あ?んなのあれ以上の化け物に決まってんだろ」


 命乞いの言葉でも考えておくか。

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