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七番目の黙示録  作者: 凛月
第一章
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旅立ち

ST.932 「『聖域』」


 転生から十二年。今日でこの場所とも、師匠ともお別れだ。


「ハル。魔術師とはなんだと思う」

「なんですか藪から棒に」


 最後の朝食を食べ終わり、いつもの小休止、師匠はココアを啜りながら、俺の名前を呼び、問いかけてきた。


「魔術師って言ったら、魔術を使う人の事……じゃないんですか?」


 さも当たり前の答え。だけど、師匠の言いたいことはそこじゃない。もっと本質的な所を聞いているはずだ。まあ、しかしそれがわからないから適当な返しをしたんだけど。


「ただ魔術を使えるものなど大勢いる。だがな、それは先達が辿った道に胡坐をかいて座っている怠け者だ。魔術師とは元来探求者。未知を求め、魔術の根源に至る術を手繰る者――聖典の最後に「魔術とは世界の真理を解くすべである」と記されている。女神メリアが魔術師として、命題としていた言葉だ。真理が何なのかはさっぱりだがな」


 メリア神教の聖典。元は女神メリアの魔術研究の論文。原本はご神体として、大聖堂の地下深くに保管されているらしい。ここに在るのは偽典と呼ばれる宝具――女神メリアは片付けが大の苦手だったらしく、原本が噴出した際の保険として、天使が複製した、正真正銘の神代の代物だ。


「魔術師とはその「真理」を追い求める者。それに近づくために日々研鑽を積む者のことだ」

「俺にその、世界の真理とやらを目指せ……ってことですか?」

「そうだな……それを成したいなら自由にするといいが……私が言いたいのは、何時如何なる時も魔術師たれという事だ。ハル、聖域の外は、お前が想像している以上に脆い。だが、その分狡猾だ。慢心していると足をすくわれるから気をつけろ」


 この世界に住人は、想像を絶する年月を、積み重ねられてきた経験や知識を駆使して、自分たちより格上の存在である、界異から生まる眷属――魔獣や魔族と戦ってきた。例え俺が界異と戦えるほどの過剰な力を持っていたとしても、敵とみなされれば救世どころの話ではなくなる……。


「要するに、俺のことを心配してくれてるってことですか」

「……」


 師匠はここから出て旅をしていた間、何かと面倒ごとに巻き込まれていたそうだ。

 この場所から出た時、ちょうど知性ある魔族が国をつくってたそうで、勇者とその仲間たちと共に旅をして、討伐したらしい。その魔族は魔王と呼ばれ、国ひとつ滅ぼす魔術を使っても死なず、勇者の宝具を使って倒したそうだ。その後、王宮に招かれたと思ったら、王子と婚姻されそうになって、山一つを吹き飛ばし、話を白紙に戻した。

 他にも、魔力を完全に遮断する牢獄に閉じ込められて魔術が一切使えなくなった話。その時は餓死するかと思ったらしい。まあ、解析して力づくで脱出したそうだ。その時誤って地形を変えてしまったらしい。その時時間遡行の魔術を使い、ストーカーを生み出してしまったそうだ。

 その全てを、身振り手振り、その無表情が霞むくらいに楽しそうに話ていた。

 師匠程の魔術師であっても、面倒ごとが尽きなかった。不老不死でもない俺がこんなことに巻き込まれたが最後、あいつらの顔さえ見る事さえできない。


「力を過剰に誇示せず、現地人と仲良くして、自己研鑽に励むことを怠らないことにします」

「そうしろ」


 この十二年の間に気づいたことがある。師匠は結構回りくどい。悪く言えば、本当にめんどくさい。それでも、俺のことを思ってくれていたことに違いはない。……まあ、何度か殺されかけたけど。下半身がミンチになった時は本当に死んだと思った。


「さて、そろそろ準備しますか」


 思い出話もほどほどに、昨日のうちに支度を整えた旅の仲間たちを最終確認する。全部師匠が見繕ってくれたものだ。

 一つ目はトランクケース。見た目は普通だけど、刻印魔術で超強化された優れモノだ。強度、防水性はもちろんの事、何を詰めても重さが一切変わらない。中途半端に重いのは、これが普通のトランクケースじゃないことを隠すため。

 二つ目はフード付きのオーバーコート。魔物の素材で出来た強力な繊維で作られている。マグマに浸けても蒸発しない程に強固だ。なにより、雪山や、昼の砂漠を歩くことを想定して、適度な温度に調節してくれる刻印魔術が付与されている。

 三つ目に、魔術書を手放さないためのベルトだ。腰のあたりに装備出来て、両手が自由に使えるという俺にとって最高の一品だ。正直これが一番助かる。

 どれも師匠が直々に刻印してくれた。信頼性抜群だ。


「これも持って行くか?」


 そういって師匠が手に持ったのは、あの忌まわしき呪われたアイテムだ。


「け、結構です」

「そうか。だがせっかく用意したんだ。最後に一杯飲んでいけ」


 朝食の後に飲んだばかり――とは言わずに黙って飲んだ。もう慣れたものだけど、やっぱり苦手なものは苦手だ。正直言って、これから口にしなくてもいいと思うと、それだけで心が躍る。

 トランクケースの中身を最終確認し、閉じる。ベルトをつけ魔術書を装着、上からオーバーコートを羽織、トランクケースを手に持って、旅立ちの準備は完了した。


「師匠。十二年間お世話になりました」


 深々と頭を下げて、一礼する。これだけじゃ師匠に貰ったものには見合わないけど、それでも俺からの精一杯の感謝の印だ。


「ハル。お前の旅は過酷なものになるだろう。面倒なこともあるだろう。だがな、この十二年間、弱音を吐きながらも鍛錬を続けたお前の強さは私が保証する。困難もその力で切り開け」

「ありがとうございます」

「よし、仲間と共に世界を救ってこい――ああ、そうだ、これを持って行け」


 師匠は、自分の首にかけていたペンダントを首袖から取り出し、俺に渡した。銀色に光る謎の素材を円形に加工したものに、紫の宝石を抱きかかえる龍のレリーフが刻まれている。


「ちょっ、ちょっと待ってください。師匠……これって……」

「魔術関連で困ったときはこれを見せろ。相手にもよるが、大抵のことは解決できるはずだ」


 師匠は無表情でそう言う。おそらく縛りが無かったとしても、そんな感じだろう。

 この世界において、色はかなり重要な役割を果たしている。天使の色もそうだ。だからこそ、このペンダントがどれほど恐ろしいものかが良くわかる。銀は女神の髪の色――紫は女神の瞳――つまり、この組み合わせは、”世界で何よりも優先されるもの”だ。


「大抵のって……そもそもこれどうやって作ったんですか!?基本さし色はあっても、この二色だけの組み合わせになった時点で「神の嫉妬」によって消滅しますよね……!?」

「うるさいし、近い……はあ、その概念が適用されない。つまり、それは神が作ったか、天使が作ったかのどちらかだ」


 そういえば、この人神様と近しい間柄何だった……。ここ最近で人間味が溢れてきてたから忘れてた。


「外の世界にも数枚存在していることは、実際に見て知っている。喚くほど大層なものではない。私もそれのおかげで何度か助かり、何度も面倒なことになった」

「面倒なことになった……?はあ……という事は使いどころに気をつけろってことですね?」

「最近のお前は話が早いな」


 慣れっこですよ。もう……。


「では、ありがたく頂戴します。もう、何もないですよね?」

「ああ、それで終いだ」


 ペンダントを首にかけ、念のために服の下に隠した。大っぴらにしていると絶対に不幸を呼び寄せる……。


「では、行ってきま――って、ここからどうやったら、外に出られるんですか?」


 聖域はこの世界には存在しているけど、外とは一切のかかわりを持っていない。出る方法を知っているのは師匠だけだ。


「普通に歩いて出ればいい――のだが、それでは面白みに欠けるな」


 これはマズイ。師匠のその言葉は、四千年の経験からくるものだ。つまり、並大抵のものじゃ満足しない――。


「ハル。前面に全力で防御魔術を展開しろ」

「な、何する気ですか……?」

「私が魔術で吹き飛ばす」

「ワンチャン死にますって!それ!ハイン!師匠の事抑えて!俺全力で逃げるから!」


 しかし、ハインはお座りのまま、師匠の後ろから動くことは無かった。師匠は虚空から杖を取り出し、二度地面を叩く。


「――蒼炎、水平、嵐、砂漠」


 詠唱!?まずい。師匠の魔術に詠唱の縛りはマズイ…!!


「開典!!」


 腰に付けた魔術書を手に、俺も詠唱を始める。

 展開しろ、速く、強固に、何重に!!


「其れは赤、其れは青、其れは緑、其れは黄――」

「これは数多なる旅の記憶。その目は遠くを望み――」


 間に合え間に合え間に合え!!


「原初の魔は今ここに――……」

「その足は――……」


 回路に魔力を流せ!身体強化を最大に――……


「なんちって」

「へ?」

「では、達者でな」


 杖と地面に描かれた魔術陣が合わさる、カツンという音と同時に、俺の視界には見たことのない景色が広がっていた。足元には手放したトランクケースが転がっている。一瞬何が起こったかわからなかったけど、感づいた瞬間に俺の腰は砕けた。


「し、死ぬかと思った――…なんちってってなんだよ……」


 結局のところ、師匠のあれはただのはったり……詠唱に見せかけて、ただ意味のない言葉をそれっぽく並べていただけだったという事だ。杖で地面を二回叩く――一回目で術式の構築を、二回目で座標の設定をした。そして三回目で術式の起動……言葉通り、術中に嵌ったという奴だ。


「冷静になってみれば、詠唱魔術で吹き飛ばすなんてありえないよな……異常な魔素のうねりもなかったし……」


 師匠には、あらゆる魔術を叩き込まれた。詠唱魔術もその一つだ。詠唱という、長ければ長い程、威力が上がる縛りは、国ひとつ滅ぼすまでに魔術を強化できる。師匠が見本に、と本気で使った時は、普通は見えない魔素が空間の歪みとして可視化されていた……。

 今回師匠がやったのは簡易的(簡易と言っても人類には無理)な転移魔術だ。


「師匠らしいっちゃ師匠らしいか」


 とにもかくにも、俺はあの場所を出た――ここからが本番だ。

 最優先は現状の把握。俺が立っているのは高原。敵性生物は見受けられない。ひとまず安心だ。


「地図と現在地」


 魔術書を手に取り、ページを開く。本当に便利だ。当てもなく彷徨うなんて時間の無駄だからな。


「神聖国からかなり離れた南西部――…いきなり未開放エリアかよ」


 ゲームで未開放だったエリア。たぶんそのどこかに聖域がある。だから実装もされていなかった――ってわけだ。地図を見る限り、聖域のはっきりとした場所は分からない。師匠の魔術による隠蔽ってとこか……。いずれにせよ、もう師匠を頼れなくなったという訳だ。


「今の位置から一番近い町は……ここから歩いて一週間ってとこか」


 小さめだけど町がある。まずはそこで今後の予定を決めよう。食料は十分。しかし無一文。一応換金できるものは持たせて貰っているけど、二百年前の物だから現在の価値がわからない……。魔術書は金勘定に対応していない。多分クファ様の時代に貨幣が存在しなかったからだ。

 行き当たりばったりな旅になるだろうけど、とにかく足を進めよう。少しでもいい、この世界の情報を手に入れて、あいつらが来た時の為の土台を作り上げるんだ。

 立ち上がって、砂ぼこりを掃い、トランケースを片手に最初の町に足を向ける。目指すはパライン。冒険の始まりだ。

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