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七番目の黙示録  作者: 凛月
第一章
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魔力

 師匠との文字通り刺激的な出会いから一週間ほど経ち、かの拷問にも慣れてきたところで、ようやく魔力を知覚した。


「魔力とは生命エネルギーだ。体力同様消耗すれば疲れ、行き過ぎれば死ぬ――肝に銘じておけ」

「”はい”」


 首がまだ座り掛けの俺は、本を読むことが出来ないため、師匠から直接話を聞き、それを頭に叩きこんでいる。と言っても、基礎中の基礎。歩き方を教わっているようなものだ。今は暖かな青空の下で美少女の顔を拝みながら、話を聞いている。


「魔力は、第二の神経回路である「魔力回路」を通じて全身に行き渡る――貴様が今感じている魔力は、身体に無規則に漂うものの一部だ」

「”血液みたいなもの――ではないんですか?”」

「そういう理論も存在した。実際にそれを基礎とする時代もあったが、後に非効率であると結論付けられ、最終的に今話した「魔力神経理論」に落ち着いた――魔力は外部への干渉は有っても、外部からの干渉は無い。血流は酸素を循環させるためにあるが、魔力にはその役割がない。全身に魔力を巡らせるという点では、目を見張るものがあったが、流動的である必然性が魔力には存在しない」


 師匠は指で円を描くように回しながら語る。魔力は循環させるものではない――。


「こういう理論は、戦場に出る者ではなく、研究者が考えるものだ。だが奴らは、戦場をかけながら、常に魔力を循環させ立ち回るという事がどれだけ難しいかを知らなかった。”魔術を使うなら魔力を常に循環させねばならない”という固定概念は脳の処理を一段落とさせる。その時代に一番多く死んだのは魔術を使う戦士だ」


 マルチタスクにも限度がある。それと同じことだ。一つ狂えば、瓦解する――でも、魔術を使うのは単に強力な戦力だったからだろう。「オリオン」もぽっぴんさんという優秀な魔術師がいたから、戦術の幅が広げられた。


「それを良しとしない研究者は、異端と罵られながら、現代の「魔力神経理論」の元となった「魔力増減の法則」に辿り着いた。魔力は使えば減るが、使わなければ自然消滅することは無い――法則が定着した疑似世界に生きた貴様にはわからないだろうが、可視化できない魔力の増減を理論化するのは、魔術史の根底を覆すほどに至難の業だ。当時の研究者たちの荒れ用は愉快痛快だった」


 と、師匠は無表情で語る。饒舌かつ、情熱的に話してるけど、初めからここまでずっと無表情だ。まあ、勉強に支障はないからいいんだけど……。


「その後、魔力を体内の一部に収束させる理論、魔力を初めから全身に定着させる理論――数世紀にわたって議論、研究された結果、魔力の通り道である「魔力回路」を作り、瞬発的に魔力を流すことで、最高効率で魔力の使用を可能にした――」

「”魔力回路というのはどういう風に作るのですか?”」

「魔力の知覚と同じだ。最も、効率的に全身に魔力を巡らせられる道を自身で見つける必要がある。身体強化は魔力回路が無いと安定しない――逆を言えば、魔力回路が無ければ身体強化は使い物にならないという事だ」


 だから、身体強化は基礎だって言ってたのか。それに、身体強化がいかに大切か今の話で知ることが出来た。魔術王が恐れる人物――魔術を教わるには適任だ。


「”でも、身体強化が安定してるかどうやって見極めるんですか?”」

「簡単だ。見ていろ」


 そういって、師匠は湖の方を指さした。何があるんだろうと湖を見ていると、変化があった。ただ、それは湖にではなく、師匠の指先にだ――そこには、周囲から何かを吸い込み大きくなっていく、紫色の球体がある。


「”こ、これは――…”」


 そして、紫の球体は銃弾のように変形していく。――刹那、その紫の銃弾は射出とほぼ同時に湖へと着弾した。着弾地点では水しぶきが高く上がり、虹が出来るほどの大量の水が宙に舞う。降り注ぐ水を目の前に、俺はただ唖然とする他なかった。


「これは、ただ魔素を収束させて放つ「魔弾」と呼ばれる技だ。貴様が身体強化を疎かにした時、これが体を貫くと思え」


 簡単……?音速超える爆弾が簡単な魔術?いや、それよりあんなの喰らったら即死じゃないか。


「”で、でも疎かにしてるかどうかはどうやって判断を?まさか抜き打ちとかじゃないですよね!?”」

「案ずるな。私の目は魔眼でな。色々とみることが出来る。魔力の流れも例外ではない」

「”身体強化が疎か……つまり魔力回路に乱れがあったら魔弾が飛んでくると……”」

「その通り。恐れるな、初めからあの威力で撃つ気はない」


 最後はああなるってこと!?……俺の身体持つかな…。治せない傷とかできたら、しゃれにならないぞ。


「ちょうどいい。魔素の話も出たことだ、魔術の話をしてやろう」

「”え、あ、はい”」


 混乱冷めやらぬ中、この程度で動揺するなと言わんばかりに話を進める無表情な少女は、おおよそ人間には思えない。


「魔術は魔術師が十色の思考を持ち、研鑽を続けた結果、様々な体系が出来上がった。――原初の魔術である「空想魔術」を軸に「詠唱魔術」「呪文」「刻印魔術」「魔術陣」「錬成術」――。その中にも当然独自の進化を遂げた魔術が存在するが本質は同じだ。「三原理」魔力の量・魔力の制御・魔素の変換――それらを以って、起こる現象を総じて魔術と呼ぶ」


 魔術体系はゲームと同じだ。けど、「三原理」の魔素の変換だけ違う。ゲームでは想像だった。


「”想像じゃなくて魔素の変換ですか?”」

「疑似世界ではそうだったか、まあ根本的な部分は変わらん。貴様の世界には魔素という物質は存在しないだろう。魔術史と同じだ。余計な考えで戦闘に支障をきたすくらいなら、言葉を変えて解釈しやすいようにすればいいという考えだろう……おそらくだが」

「”なんだか煮え切らないですね……”」

「疑似世界の創造に私は加わっていないのだから、仕方がないだろう」


 こういう時はぷんすか怒りながら、可愛らしく駄々を捏ねる――のが俺の常識だけど、師匠は椅子に座ったまま相も変わらず無表情だ。声の抑揚も態度も変わらない。

 でも、そうか。言葉は違えど、本質が一緒なら、魔術師のぽっぴんさんが来ても支障をきたすことはなさそうだ。皆も少なからず魔術は使うし、ゲームと違わないなら上々だ。


「続けよう。――魔素とはこの世界の原子の一つだ。人体に害はない。そもそも、魔素は体内に到達しないからな。しかし、安定しないため扱いが非常に難しい。学者がこぞって研究しているが、無駄と言う奴だ」

「”危険性については俺にも覚えがあります。ゲームで散々な目に遭った人を多く見ましたから”」


 現代科学を用いても、十五年間で得られた成果は強力な兵器になるという事。一つ扱いを違えば、地形が変わるほどの爆発が起こるほどに危険な物質だ。物理演算が機能しない完全なブラックボックス――多くのギルドがその解明に熾烈な競争と内部分裂を起こしながら研究し、どれだけの資源が消し去られたか……。


「”師匠は解析しなかったんですか?”」

「したさ。どれだけの時間を費やしたかわからないが、無駄骨という奴だった。魔素がこの世界の外側から来た物質としかわからない。研究を続けるにはその世界、その次元に行く必要がある――と結論が出た時点で諦めた」


 どうりで全く研究が進まなかったわけだ。魔素の無い世界の科学者が集まったところで、科学で説明のつかない物質を解析などできる者か。


「安定するのは魔力による制御時だけだ。魔術師にしか扱えないことだけ覚えておけばいい。研究者には話すな怒り心頭で融通が利かなくなる」

「”心に銘じます”」


 ゲームでもそうだったな……あの人たちには極力関わらないようにしてた。……研究者って恐ろしい。


「次は魔術の扱い方だ。魔術の三原理――それは一切覆ることのないものだ。それに加え、魔術を扱うにはもう一つ、魔術師の「三原則」を覚えておく必要がある。

 一つ――魔術を扱う際、自身の魔力を体外に排出する必要がある。

 二つ――体外魔力を制御下に置くためには、触媒となる物体、それ相応の術具が必要である。

 三つ――触媒に込められた魔力で魔素を変換し、それを制御するには術者の明確な想像が必要である。

 以上、三つを以って三原則とする。これに違いはあるか?」

「”すみません。そもそも三原則という存在がありませんでした。術具が必要ということしか”」


 そもそも魔力回路とか、魔力制御事体存在しなかったからな……魔力という値は知っても、それがどうやって作用して使われてるかとか考えたことも無かった。


「そうか。魔素の変換という原理が書き換えられていたのなら、なくとも魔術の使用に問題は無い――いい加減なことしおって……次に会った時に杖で殴ってやる」


 師匠の眉間に一瞬だけどしわがよった。ずっと無表情だった師匠の顔に変化が……ゲームの創造者と深い間柄みたいだな。師匠って何者なんだ?魔術王が恐れる存在で、ゲームの創造者と知り合いで――やめよう。怖くなってきた。


「十二年の間に体が勝手に覚え込むはずだが、非常時のために原則は頭に入れておけ」

「”はい”」

「触媒と術具に関しては知っているようだが……どこまで理解している」

「”そういうものがあるとしか。ゲームでは魔術が使用可能かどうかと、効率と倍率しか気にしてませんでしたので”」


 「オリオン」はプレイヤースキル重視のパーティーだったからな……あいつらの装備も外見くらいしか見てないし、俺に至ってはほとんど魔術を使わないから、装備は専門ギルドに丸投げ状態だった。最高品質ではあったんだろうけど……。


「触媒の定義は魔力保存可能量と魔素変換効率が一定以上に達していること。術具は、その触媒を用いて作られた装備の総称だ。例外として、それその物が触媒となる物もある」

「”宝具――ですね”」

「それは知っていたか。しかし、それだけではない。長く良質な魔力に晒されていた物も触媒に成りうる。クファが貴様に与えた魔術書。今では宝具と化しているが、装飾が施される前、これはただ大きいだけの本だった」


 師匠は俺の隣に置いてあった魔術書を手に取り、適当なページを開いく。指でページをなぞる彼女はさながら文学少女と言ったところか――少しくらい笑みを浮かべてくれれば絵になるのに……。


「”クファ様の魔力が無ければ、触媒にすらならなかったってことですね”」


 この魔術書がどうやって生み出されたのか、想像もつかないけど、相当すごい本だったんだろう。


「まさか、ただの旅行記が宝具になっているとはな。想像もしなかった」

「”え……旅行記!?”」

「なんだ、教えてもらわなかったのか。これはクファが王になる前に、自身の足で世界の果てまで足を運び、その目で見たモノを書き込んだ旅の日誌だ。今では情報が時代に沿い書き換えられ、念じただけで望んだ情報の書かれたページが開かれるように変質しておる。この本に書かれているのはどれも有益は情報だ。冒頭から全て読みつくしておけ」


 脳の処理が情報に追いつかない……え?は?元はクファ様の旅行記?旅の日誌?


「そうだな――私が名を与えてやろう。茶化しも込めて、今日からお前は賢王の書――…真名は『             』だ。宝具の使い方は、追々教えてやる」

「”ええ……はい、お願いします”」


 俺は考えるのを諦めた。この魔術書はすごいほんだ。なまえは、賢王の書。あとなんかしんめい?がついた。


「さて、昼食の時間だ」

「”はい”」


 今の俺には拷問が効果的面だったようで、飲み終えてすぐ気絶した。

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