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七番目の黙示録  作者: 凛月
第一章
3/10

転生

ST.920 「『  』」


 意識がはっきりして最初に聞こえてきたのは鳥の囀りだ。それに水の音も聞こえる。潮の匂いがしないから、多分海じゃない。川みたいな流水の音って感じでもないし……湖かな。


「あうあうああ――ああ」


 クファ様が言うに生後二か月くらいで目が覚めるって言ってたっけ。手足は小さいし可動範囲も狭い。首はある程度動くけど座ってる感じじゃない。――今の状況は…赤子用の服を着せられて、手持ち籠に入れられている。場所は木陰だ。おそらく日光浴させてくれてるらしい。どうやら、クファ様の心配も杞憂に終わってくれた。その”彼女”はちゃんと俺の面倒を見てくれている。

 その後、数分して前方から何かが近づいてくる音が聞こえた。人間の足音じゃない。四足歩行――犬のような息使いも聞こえる。不味い不味い!何もできずに第二の人生終了とか勘弁してくれ!


「ぼふ」


 目の前に現れたのは一匹の犬型動物、もしくは魔物。見た目狼だ。だけど襲ってくる気配はない。俺の顔をじっと見ている。


「どうした、ハイン」


 ハインと呼ばれた狼が視界から消えた。どうやらご主人様が来たようだ。女性……少女の声だ。


「おや、ようやく目覚めたか」


 視界に影が差したと同時に目に映ったのは、太陽の光を吸い込み輝く奇麗な金髪に、透き通る宝石のような橙色の目をした少女だった。俺の頬にその金髪が垂れた――何かは分からないけどいい匂いがする……しかし、可愛いな。この子が俺の師匠……?なわけないか。多分他にも人がいるはずだ。

 どんな人だろうと考えていたら、籠が宙に浮いた。手持ちの部分を使わずに魔術で浮かせてる!これが本場の魔術か。しかも、これは空想魔術――起こしたい事象を想い浮かべるだけで発動する魔術体系の一つだ。

 連れてこられたのは、木製の小屋だ。入ってすぐ俺は籠から出され身一つのまま宙に浮いた。着地先は柔らかい――多分ベットかクッションの上だ。少女は近くにあった椅子に座り、俺を見下ろした。


「意識はどれくらいはっきりしている。会話は可能か」

「ああ、うああう――」


 まあ、無理だ。俺はまだ言葉も話せぬ赤子。流石に会話はできないぞ。


「声に出さなくてもいい。私に向かって話しかけるように頭に浮かべろ」


 少女は自分の頭を人差し指で二度さわった。念話か?


「”これでどうですか”」

「意思の疎通はできるな」


 新鮮だ。ゲームにはない技術が押し寄せてくる。念話は魔術か?それとも権能(スキル)か?


「”あなたがクファ様の言っていた方ですか”」

「――ああ、そうだ。貴様の面倒を見てくれと頼まれた」


 危ない。初手ため口で機嫌損ねたら、どうなってたか……にしても、この少女がクファ様が恐れていた人か……全然そうは見えないけどな。表情筋が死んでいるみたいに無表情だけど、日向ぼっこさせてくれるだけの優しさはある。


「私の事は師匠とでも呼ぶといい。――それで、貴様はどこまで強くなりたい」

「”界異と戦える程には”」

「死にたがりの身の程知らずという訳か――…全く、最後に七面倒なものを押し付けおって…」


 辛辣だな……美少女にそんな言葉言わせたくないんですけど?あと、さらっと俺の事面倒って言ったなこの子。


「貴様、プレイヤーだったな。界異がどういう存在か知っていて、それを成そうと?」

「”はい。あとから来るパーティーメンバーの為に強くなりたいんです”」

「パーティーメンバー……神器持ちか。仲が良いのか」

「”戦友です”」


 少女、もとい師匠は人中に人差し指の第二関節を当て目を瞑った。まるで考える人のポーズだ。パンチらでも期待したけど、師匠はズボン派らしい。上も長袖のワンピース。肌という肌が見えない。少しして師匠は目を開けた。


「十二年だ。その間で死ななければ、大型魔獣を素手で殴り殺せるだけの力は手に入るだろう」


 とんでもないこと言ってるこの人。大型魔獣でもピンキリだけど、素手で殴り殺すなんて聞いたことないぞ!?……俺はどんな化け物にされるんだろう。……待てよ、今この人死ななければって言った?死ぬ気で頑張るとは言ったけど、毛頭死ぬ気はないぞ?


「”どんな修行をするんでしょうか……”」

「そう、怯えるな。少なくとも二年間は死なない」


 二年後はどうなんですか!?――なるほど、クファ様の言う通りかもしれない。厳しい……がそこに優しさを見いだせ……。そうでもしないと、精神が持たないってことですね!?さらに、師匠の機嫌を損ねないように――これは精神が鍛えられそうだ。


「首が座るまでは身体強化の修行だ。座ったら座学をしながら身体強化の維持。歩けるようになったら身体強化を維持しながら魔術の修行。まずはそこからだ」

「”身体強化は確定事項なんですね”」

「身体強化は戦闘における基礎であり、戦場に出る最低条件だ。それを基とし、魔力の無かった貴様らの世界に浸ったその脳をこの世界に適応させる。魔力を知覚し、それを身体に馴染ませることで、初めて、この世界に産まれたと言っていいだろう」


 なるほど、理にかなってる。そうしないといけないまでに、記憶の持ち越しは厄介らしい。固定概念の払拭が最初の課題になりそうだ。


「手始めに魔力の知覚だ。この二か月で貴様の魔力総量は成人よりかは上にまで成長させてある。あとはそれを自覚するだけだ」

「”その自覚とはどのように?”」

「魔力が込められたモノを体内に取り込む。貴様の場合はこれだ」


 そういって俺の視界外から持ってこられたのは、赤黒い液体の入った哺乳瓶だ。中身はザクロジュースのような見た目だけど、目の前のそれは少しばかり粘度がありそうな、かなり気味の悪い液体のように見える。


「”あの……それは一体――”」

「龍の血だ。常人が摂取すれば拒絶反応を起こし死に至るだろうが、この場所で産まれた貴様には問題ない」


 呪われたアイテムじゃん……。


「”それ飲んだら、化け物に成ったりしませんよね?こう……人外って言うか、魔獣みたいに……”」

「その肉体は、疑似世界の個体情報を以って構築されている。治せぬ外傷ができるか、あるいは直接的な肉体改造でもしない限り、身体的変化をきすることは無い。外見は貴様の設定した個体に寄せて成長するだろう」

「”そうですか。安心しました”」


 師匠の口ぶりからするに、青年期には俺の設定したアバターに成長するはず。あいつらと再会するとき、知らない顔「俺だよ俺俺」って声をかけたら、絶対変な顔される――これは好都合だ。………肉体改造されないように闇医者とか謎の博士とかに気をつけよう。


「とやかく考えず、いつも通りに飲め」

「”んおあdふvhbbひb;いら!!!??”」


 俺の口に流されたそれは、酷く刺激的で、非常に臭く、残酷な拷問具に値するもので――取り込むころには眩暈と吐き気を催し、そのまま気が遠のいた――…

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