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ゼロバレット  作者: 水猫
ーー力を持った者は、戦場を選ぶ(灰港都市)ーー
99/105

099話 引き受けるという選択 ― 空白の転換点

――ゼロバレット第二拠点・作戦室。

未明。


灰港連絡都市の立体マップが、静かに回転している。


何も壊れていない。

だが、どこかが詰まり始めている。


それは、ゆっくりと首を絞めるような不調だった。


◆◆◆


ノアは、三つの選択肢を見つめていた。


・何もしない

・一部だけを救う

・都市全体を引き受ける


答えは、まだ言っていない。


だが――

迷っている時間が、すでに答えを示していた。


◆◆◆


「……観測者は」


ノアが静かに言う。


「俺たちが“動くかどうか”を見てるんですよね」


ソフィアは頷いた。


「ええ」

「あなたが“どこまで責任を取るか”を測っている」


ネロが、低く笑う。


「何もしなきゃ、無害」

「一部だけやれば、計算屋」

「全部やれば――」


「支配者候補、か」


カサンドラが淡々と補足する。


◆◆◆


ノアは、目を閉じた。


思い出すのは、

ゼロバレットに入る前の戦場。


何も残らなかった場所。


救われたとも、

壊れたとも、

誰も記録しなかった土地。


あのときの自分は、正しいと思っていた。


何も残らない方が、平等だと。


◆◆◆


「……違う」


ノアが、小さく言う。


「何も残らないっていうのは」


ゆっくり目を開く。


「責任が、誰にも帰らないってことだ」


◆◆◆


ソフィアは、何も言わない。


ただ、視線を逸らさない。


ノアは続ける。


「潤すってことは」

「守ることじゃない」


「“俺たちが関わった”って、

 記録に残るってことですよね」


ネロが、わずかに目を細めた。


「そうだ」

「成功も失敗も、全部名前がつく」


カサンドラも言う。


「観測者は、それを待っている」


◆◆◆


沈黙。


灰港のホログラムが、ゆっくり回転している。


ノアは、ついに画面へ手を伸ばした。


三つ目の選択肢。


都市全体を引き受ける。


指が、そこに止まる。


◆◆◆


「……俺は」


声は、静かだった。


だが、揺れていない。


「三つ目を選びます」


ネロが、息を吐く。


カサンドラは一瞬だけ目を閉じた。


ソフィアは、ゆっくりと頷く。


「理由は?」


ノアは、即答しなかった。


数秒。


考える。


そして、はっきり言った。


「何も残らない方が、正しいって思ってました」


「でも、それは」

「“責任を持たない”正しさだった」


一拍。


「関わったなら」

「良くする義務がある」


◆◆◆


部屋の空気が、わずかに変わる。


それは覚悟の重さだった。


ネロが、口元を歪める。


「若いのに、重いな」


「若いからだろ」


アシュレイが、短く言った。


ノアは、振り返らない。


◆◆◆


ソフィアが、最後に確認する。


「灰港が安定すれば」

「あなたの名は、街に残る」


「もし失敗すれば?」


ノアは、迷わず答えた。


「俺の責任です」


◆◆◆


ソフィアは、そこで初めて微笑んだ。


「いい選択よ」


「これで、ゼロバレットは」

「本当に“戦場を選ぶ側”になった」


◆◆◆


同時刻。


灰港上層区・高層ビル。


世界ランキング第7位の男は、

データの変化を見ていた。


「……選んだか」


低い声。


「消えない方を」


彼は、ゆっくり立ち上がる。


「ならば、試す価値がある」


◆◆◆


第二拠点。


ノアは、都市の全域を拡大表示する。


「ダリオ、噂を整理してくれ」

「ラザロ、補給網を再設計」


ネロが笑う。


「もう指示出してるじゃねぇか」


ノアは、そこで少しだけ笑った。


「責任を取るなら」

「最後までやります」


◆◆◆


――何も残らない少年は、

初めて“残す側”を選んだ。


それは、戦闘より重い選択。


撃たずに終わらせるために、

名前を刻む決断。


灰港は、次の段階へ進む。


そして観測者も――

静かに、最後の手を準備していた。



――次回更新:3月1日17:30公開予定


ブクマ・評価・感想が励みになります。


『ゼロバレット』続編、100話「選んだ側/維持する都市」――


をお楽しみに!


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