表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゼロバレット  作者: 水猫
ーー力を持った者は、戦場を選ぶ(灰港都市)ーー
95/106

095話 選ぶ権利 ― 銀の女帝が肯定するもの

――灰港連絡都市・中層区。

夜。


雨は降っていない。

だが、街は濡れていた。


港の灯りがアスファルトに反射し、

人の影がゆっくりと伸びては消える。


ノアは、拠点のバルコニーに立っていた。

昼よりも静かで、

夜よりも生々しい時間。


◆◆◆


「……考え込んでる顔ね」


背後から、ソフィアの声。


ノアは振り返らない。

ただ、街を見たまま答えた。


「はい」


否定もしない。

誤魔化しもしない。


ソフィアは隣に立つ。

距離は近いが、干渉しない。


「灰港はどう?」

彼女は軽く聞いた。


ノアは少し考える。


「……前に見てきた戦場とは、違います」


「そう」

ソフィアは短く答えた。


◆◆◆


しばらく、二人とも黙っていた。


遠くで、

トラックが通り、

誰かが笑い、

シャッターが閉まる音がする。


ノアは、静かに口を開いた。


「俺は、何も残らないほうが正しいと思ってました」


ソフィアは、驚かない。

もう、分かっていたからだ。


「記録も、意味も、名前も」

「全部消えれば、

 次に使われない」


それは、

彼が“生き残るために選び続けてきた答え”。


「でも……」


ノアは街を見る。


「ここは、

 残ってるから、

 壊しにくくなってる」


◆◆◆


ソフィアは、ゆっくり息を吐いた。


「それに気づいたなら」


視線を前に向けたまま、言う。


「あなたは、もう《空白》だけじゃない」


ノアが、わずかに目を見開く。


「……それは、否定ですか?」


ソフィアは、首を振った。


「肯定よ」


はっきりと。


◆◆◆


「ノア」

ソフィアは、初めて彼の名を呼ぶ。


「戦場を消す力は、確かに必要だった」

「あなたが関わった戦場が、

 記録も残さず終わったからこそ、

 救われた場所もある」


ノアは黙って聞く。


「でもね」

ソフィアは続ける。


「それは“選択肢の一つ”でしかない」


◆◆◆


ソフィアは、街の明かりを指差す。


「都市を潤すこと」

「流れを作ること」

「人が“守りたい”と思う状態を残すこと」


「それもまた、

 戦争を防ぐやり方よ」


ノアは、静かに言う。


「……俺が、変わったと思いますか?」


ソフィアは、少しだけ微笑んだ。


「いいえ」


即答だった。


「あなたは変わってない」

「“選べるようになった”だけ」


◆◆◆


ノアは、その言葉を反芻する。


選ぶ――

ということは、

正解が一つじゃない世界に立つということ。


「前は、

 終わらせるしかなかった」


ノアが言う。


「今は?」


ソフィアは、彼を見る。


ノアは、少し間を置いて答えた。


「……終わらせるか、

 続かせるか、

 決められる」


◆◆◆


ソフィアは、その答えに満足した。


「それが、ゼロバレットにいる意味よ」


彼女の声は、静かだが揺るがない。


「私たちは、

 戦争を売ってきた」


「だからこそ、

 戦場を選ぶ責任がある」


ノアは、初めてソフィアの方を見る。


「……俺が、

 この先も、

 街を潤す選択をしたら」


少し、躊躇いながら。


「それでも、

 ゼロバレットにいていいですか?」


◆◆◆


ソフィアは、即答した。


「もちろんよ」


そして、少しだけ声を低くする。


「むしろ――」


「それが出来る人間が、

 ここには必要」


◆◆◆


街の灯りが、また一つ増える。


ノアは、ゆっくりと頷いた。


「……じゃあ」


小さく、しかし確かに。


「俺は、

 もう“何も残さない”だけの人間じゃありませんね」


ソフィアは、穏やかに笑った。


「ええ」


「あなたは、

 “残すかどうかを選べる人間”よ」


◆◆◆


その夜。


灰港は、まだ危険な街だ。

明日も、争いは起きるだろう。


だが――


この街は、

今日より少しだけ、

“壊しにくい街”になった。


それを選んだのは、

誰かを撃った者ではない。


何も撃たず、

何も奪わず、

それでも“残す”ことを選び始めた少年だった。


そして、

その選択は――

銀の女帝によって、確かに肯定された。



――次回更新:2月23日17:30公開予定


ブクマ・評価・感想が励みになります。


『ゼロバレット』続編、096話「歪む静寂 ― 選ばれなかった者たち」――


をお楽しみに!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ