090話 選ばせる者 ― 戦場は、もうこちらにある
――灰港連絡都市・全域。
朝。
この街は、いつも通り目を覚ました。
銃声はない。
爆発もない。
だが――判断だけが、確実に動いていた。
◆◆◆
第二拠点・作戦室。
夜明けの光が、遮光スクリーン越しに滲む。
ソフィアは、ホログラムに映る都市指標を一つずつ確認していた。
・通関優先順位:変更
・港湾荷役スケジュール:前倒し
・武装請負団体の活動申請:三件、保留
どれも些細だ。
だが、積み重なれば――流れは変わる。
「……街が、自分で答えを出し始めたわね」
ネロが、静かに笑った。
「誘導じゃない」
「押してもいない」
「ただ、“楽な道”を一本、用意しただけだ」
カサンドラが補足する。
「しかも、その道は“誰の味方でもない”」
「都市管理側にとっても、商会にとっても、
一番、説明がしやすい選択肢」
◆◆◆
ノアとアシュレイは、壁際で黙っていた。
アシュレイが、小さく肩を鳴らす。
「……やっぱり、
戦うより面倒だな」
ノアは何も言わない。
ただ、街のデータが“整っていく”様子を見ていた。
無理がない。
矛盾がない。
だから――誰も疑わない。
◆◆◆
ソフィアは、ゆっくりと振り返る。
「これで、
灰港は“衝突を避ける判断”を選び続ける」
「一度選んだ道は、
人はなかなか変えられない」
ネロが頷く。
「次に何か起きても、
街は“同じ判断”をする」
「それが、一番怖い」
◆◆◆
その頃。
灰港上層区・高層ビル。
世界ランキング7位の男は、
静かに端末を閉じた。
「……見事だ」
彼は、誰にともなく呟く。
「こちらは“揺らす側”だったはずなのに」
「気づけば、
“揺れない構造”を作られていた」
敗北感はない。
むしろ――評価だ。
「力を誇示しない」
「敵を作らない」
「それでいて、結果だけは奪う」
彼は、窓の外に広がる街を見下ろした。
「銀の女帝……」
「そして、“空白”」
その名を、心の中で繰り返す。
◆◆◆
第二拠点。
最後の確認が終わる。
「今回、撃った弾は?」
ソフィアが問いかける。
ネロが即答する。
「ゼロ」
「壊したものは?」
「なし」
カサンドラが答える。
「失ったものは?」
沈黙。
誰も、何も言わない。
ソフィアは、満足そうに頷いた。
「なら――成功よ」
◆◆◆
ノアが、ふと口を開く。
「……戦場って」
「もう、“場所”じゃないんですね」
ソフィアは、彼を見る。
「ええ」
「選択よ」
「誰が、
どの未来を“選ばされるか”」
一拍。
「それを決める場所が、
今の戦場」
◆◆◆
灰港連絡都市は、今日も回り続ける。
人は死ぬ。
取引は行われる。
だが――無駄な衝突だけが、確実に減っていく。
ゼロバレットは、
街を支配したわけじゃない。
ただ――
“選ばせる側”に回っただけだ。
第四章は、ここで一つの区切りを迎える。
力を持った者は、
もう、戦場を探さない。
――戦場を、選ばせる。
――次回更新:2月16日17:30公開予定
ブクマ・評価・感想が励みになります。
『ゼロバレット』続編、091話「余波 ― 選ばれなかった戦争」――
をお楽しみに!




