09話 援護の風
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――ドゥオォォォォンッ!!
ヘリのローターが灼けた空を切り裂く。
熱風が吹き荒れ、地平線の砂を巻き上げていく。
ノアは無言で機内の床に片膝をつき、戦場の座標を確認した。
『第2班、交戦中。敵の増援多数。装備は中規模兵装――
歩兵70、車両4、対空機関銃2。制圧率30%。』
ネオンの声が通信に乗って届く。
『風向き南西、湿度15%。視界2キロ未満、砂煙濃い。』
「了解」
ノアの声は低く、無機質だった。
風の音が機体を震わせる。
ヘリの機体の隙間から、戦場の閃光が見える。
――爆煙。弾道。閃光。
それらすべてがノアの網膜に映り、無音の情報として脳に刻まれた。
「ノア、もうすぐ現地だ。高度100。降下準備!」
パイロットの声と同時に、後部ドアが開く。
ゴォォォォッ!
乾いた風と砂が一気に流れ込み、熱気が頬を打つ。
ノアはロープを握り、迷いなく飛び降りた。
――ドスッ。
着地と同時に、足元の砂が焼けた匂いを立てた。
耳を劈くような銃声。
ダダダダダッ!!
機関銃の連射が空を削り、金属片が雨のように降る。
視界の先では、ネロとカサンドラが交戦していた。
瓦礫を盾に、冷静に撃ち返す二人。
ネロの白いリネンシャツはすでに灰と血で染まり、
カサンドラの刀が光を反射して一閃するたび、敵が沈む。
「増援か?」
ネロが無線に呟く。
『いや……違う。こっちに“嵐”が来る。』
通信のノイズ混じりに、ネオンの声。
次の瞬間、カサンドラが叫んだ。
「――頭上ッ!!」
爆発。
ドゴォォォォォン!!
地面が揺れ、瓦礫が宙を舞う。
熱風と砂煙が一瞬で世界を灰色に変えた。
視界ゼロ。
だが――ノアには“全て”が見えていた。
空気の流れ。足音の震え。火薬の燃焼速度。
敵が動く“前”の呼吸を感じ取り、身体が勝手に動く。
バシュッ! バンッ! バンッ!
三発の弾丸が、砂煙の向こうにいる敵兵の喉元を正確に撃ち抜いた。
――呼吸の乱れで位置を読んだ、たった一瞬の反応。
カサンドラが振り向く。
「……来たのね」
ノアは無言で頷くと、素早く状況を整理した。
「敵戦力、残りおよそ五十。右側高所に四、車両が二。
前方の廃墟の二階に狙撃。カサンドラ、右へ展開。
ネロ、正面の機銃座を潰す。」
ネロがニヤリと笑い、銃を構えた。
「命令すんなよ。……だが、乗った。」
ドドドドドドッ!
ネロの弾丸が機銃の砲手を貫き、爆炎が上がる。
同時に、カサンドラの白刃が跳ねた。
シュパッ! ギャッ……!
鮮血が舞い、白いスーツの裾を赤く染める。
ノアは地面を滑るように移動し、敵の背後に回り込む。
手榴弾のピンを抜き、静かに転がす。
カチ……カチ……ボンッ!!
爆炎が一瞬で敵陣を包み、砂が宙に舞う。
『第2班、北側陣地の圧力低下確認! ノアの侵入成功!』
ネオンの声が高揚を含む。
『敵、指揮系統乱壊。完全に崩れてる!』
「よし、押し込む!」
ネロが叫び、再び撃つ。
ダン、ダン、ダン――ッ!
ノアは廃墟の上へ跳び上がり、銃を構えた。
見下ろした戦場は、炎と煙の海。
金属臭と焦げた布の匂い、熱風が頬を刺す。
その中で、ノアは静かに呟いた。
「……もう、終わらせる。」
パンッ! パンパンッ!
三発。
正確に、敵の残ったリーダー格の頭部を撃ち抜いた。
爆炎の音が遠ざかり、世界がゆっくりと静まり返る。
風が通り抜け、灰と砂が空へ吸い込まれていく。
「――第2班、敵勢力殲滅確認。被害軽微。」
カサンドラが通信に報告する。
『了解。……ナイスチームワーク、みんな。』
ソフィアの穏やかな声が本部から届く。
ネロが銃を肩にかけ、煙草を口に咥える。
「はぁ、疲れた。」
カサンドラは血のついた刀を拭いながら、微笑んだ。
「ノア――可愛いくて強いのね。」
ノアは空を見上げる。
濃い灰色の雲の間から、一筋の光が差し込んでいた。
風が頬を撫で、乾いた血の匂いが薄れていく。
――沈黙。
戦いの終わった世界に、ようやく“音”が戻ってくる。
風の音、瓦礫の崩れる音、遠くで猫が鳴くような微かな声。
ノアは拳銃をホルスターに戻し、呟いた。
「……援護、完了。」
そして、静かに立ち去った。
その背中を見送りながら、カサンドラは小さく笑った。
「――ゼロバレットに、“新しい風”が吹いたわね。」
――夕陽が差し込み、赤い砂が黄金色に染まった。
その日、戦場を吹き抜けた風は、確かに“空白”の名を持っていた。
(つづく)
――次回更新:明日17:30公開予定
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『ゼロバレット』続編、010話「弾丸の値札」――
をお楽しみに。




