表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゼロバレット  作者: 水猫
ーー力を持った者は、戦場を選ぶ(灰港都市)ーー
85/106

085話 同じ空気 ― 椅子に座る前の戦場

――灰港連絡都市・中層区。

非公開会議施設セクター・ノード


この建物は、

所有者が存在しない。


正確には、

誰のものでもあり、誰のものでもない。


都市管理層、調停商会、複数の武装組織。

全員が「使ったことがある」と言い、

全員が「管理していない」と言う場所だった。


だからこそ――

ここは、撃ち合いが起きない。


◆◆◆


最初に到着したのは、港湾荷役ギルドだった。


黒塗りの車両が二台。

降りてきたのは代表と幹部三名。


全員が武装を解除している。

だが、動きは明らかに“戦場のそれ”だった。


「……静かすぎる」


代表が呟く。


建物の周囲には警備がいない。

見張りも、検問もない。


「いない、んじゃない」

幹部の一人が低く言う。

「見せてないだけだ」


◆◆◆


十分後。


別の車列が到着する。


《レッドバンク》。


装甲車ではない。

だが、窓は厚く、動線は洗練されている。


指揮官が車から降りた瞬間、

ギルド側の空気がわずかに硬直した。


「……久しぶりだな」


「生きていたようだな」


挨拶は、最低限。

敵意も、友好もない。


ただ――

同じ空間にいること自体が異常だった。


◆◆◆


両陣営が、同時に気づく。


「……中央席が空いている」


円卓形式の会議室。

左右にそれぞれの席。


そして、

どちらの側にも属さない位置。


そこが、空いている。


「都市の代表は?」


「来ないらしい」


「……主催者は誰だ?」


誰も答えない。


答えが分かっているからだ。


◆◆◆


扉が開いた。


音は、ほとんどしない。


入ってきたのは、五人。


先頭にソフィア。

その一歩後ろに、ネロとカサンドラ。


そして――

少し距離を置いて、ノアとアシュレイ。


武装はない。

だが、空気が変わった。


誰かが、無意識に息を止める。


(……こいつらか)


(護衛じゃない)


(立ち位置が、違う)


ノアは、視線を合わせない。

アシュレイも、周囲を見ない。


それなのに――

全員が“見られている”と感じる。


◆◆◆


ソフィアが、中央席に座る。


それを合図に、

他の全員も、無言で席についた。


誰も指示していない。

だが、順序は崩れない。


「では」


ソフィアが、静かに口を開く。


「今日は、“話すための席”よ」


「勝ち負けは決めない」

「正義も決めない」


「ただ――」


視線が、円卓を一周する。


「ここで撃てば、

 この街が困るという事実だけを共有する」


◆◆◆


沈黙。


レッドバンクの指揮官が、口を開く。


「……ゼロバレットは、

 都市の代理か?」


ソフィアは、首を横に振る。


「違うわ」


「私たちは、

 “撃たない方が得だ”という状況を作っただけ」


ギルド代表が、低く笑う。


「随分と、高い位置から言う」


その瞬間。


ノアが、初めて視線を上げた。


「高い、低いの話ではありません」


静かな声。

だが、はっきりしている。


「ここで誰かが死ねば、

 全員が損をする」


「それだけです」


代表は、言葉を失った。


理屈は単純だ。

だが、それを断言できる立場が異常だった。


◆◆◆


アシュレイが、軽く肩を回す。


「俺たちは、

 撃たない前提でここにいる」


「だが――」


視線だけで、両陣営をなぞる。


「撃つ気があるなら、

 今すぐ分かる」


誰も動かない。


◆◆◆


ソフィアが、結論を急がない。


「今日は、条件は出さない」


「要求もしない」


「まずは――」


「同じ空気で、

 最後まで座れるかどうかを確認しましょう」


それは、脅しではない。


試験だった。


◆◆◆


外では、街が動いている。


荷が流れ、

人が歩き、

噂が広がる。


この部屋で起きていることを、

誰も知らない。


だが――

この空気が保たれている限り、

灰港は今日も“静か”だ。


戦場は、もう始まっている。


引き金は、まだ――

誰も触っていない。



――次回更新:2月9日17:30公開予定


ブクマ・評価・感想が励みになります。


『ゼロバレット』続編、086話「条件という名の本音 ― 誰が何を失うのか」――


をお楽しみに!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ