表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゼロバレット  作者: 水猫
ーー力を持った者は、戦場を選ぶ(灰港都市)ーー
83/105

083話 静かすぎる前線 ― 名前を口にすると止まる街

――灰港連絡都市・中層区。

昼。


この街にしては、異様なほど穏やかな時間だった。


銃声は聞こえない。

怒号も、罵声もない。

クレーンの駆動音と、荷役の合図だけが、規則正しく続いている。


それが――

かえって不気味だった。


◆◆◆


港湾荷役ギルド・臨時詰所。


簡素な会議室の中央に地図が広げられ、

数人の男たちが、立ったままそれを囲んでいる。


誰も椅子に座らない。

座れる空気ではなかった。


「……レッドバンクは、どうなっている」


ギルド代表が、低く問いかける。


若い部下が、端末を確認しながら答えた。


「車両、出ていません」

「人の動きも、ほぼ停止です」


「補給は?」


「……滞ってはいません」

「ですが、“動かしていない”感じです」


代表は、眉をひそめる。


それが、一番おかしい。


灰港では、

動けるなら動く。

撃てるなら撃つ。


それが、常識だった。


◆◆◆


「撃ち合いになる兆候は?」


「……ありません」


「威嚇は?」


「それも、なしです」


短い沈黙。


代表は、地図から目を離さずに言った。


「理由がないまま静かになるのは、

 一番信用できん」


誰も反論しなかった。


◆◆◆


しばらくして、

詰所の隅で控えていた男が、ぽつりと口を開いた。


「……ゼロバレット、じゃないですか」


その瞬間。


空気が、はっきりと変わった。


◆◆◆


「名前を出すな」


代表の声は低かったが、鋭かった。


「ここでは、まだ早い」


「ですが……」

男は言葉を探す。


「分かっている」


代表は、額を押さえた。


「だが、

 あの連中は“説明がつかない”」


「説明がつかない存在に、

 理屈を当てはめようとするな」


部屋の誰もが、黙り込んだ。


ゼロバレット。

その名は、すでに“武装組織”を意味していない。


交渉は壊れなかった


流通は止められた


それでも、死体は出ていない


この三つが同時に起きる理由を、

灰港の人間は一つしか知らない。


◆◆◆


同時刻。

中層区の別の建物。


小規模な武装団体の幹部たちが、

同じように地図を見下ろしていた。


「……静かすぎるな」


「撃てば、流れは変わるだろ」


若い男が、苛立ったように言う。


だが――

誰も、それに乗らない。


「撃って、その先は?」


誰かが、静かに問い返す。


答えは出ない。


撃った瞬間、

何が起きるのか。

誰が動くのか。


分からないことが、最大の抑止だった。


◆◆◆


夜。


第二拠点。


統合ログを確認していたソフィアは、

短く息を吐いた。


「……前線が、固まったわね」


ネロが、苦笑する。


「俺たち、

 何もしてねぇぞ?」


「ええ」

ソフィアは頷く。

「だからよ」


カサンドラが補足する。


「こちらが沈黙しているから、

 街が勝手に判断している」


「“触れない方がいい”と」


◆◆◆


ノアは、モニターに映る街を見つめていた。


人は動いている。

物流も、回っている。


だが、

衝突だけが、意図的に避けられている。


「……戦場が、

 場所じゃなくなってます」


アシュレイが、横で小さく笑った。


「名前だな」


ノアは、静かに頷く。


「ええ」

「名前が出た瞬間、

 全員が一度、考える」


「その“間”が、

 もう前線なんですね」


◆◆◆


灰港連絡都市。


その日も、銃声は鳴らなかった。

命令も、脅迫も、介入もない。


ただ――

一つの名前が、会話と行動を止めていた。


それが、今の前線だった。


誰も、引き金に指を掛けない。

だが、

誰もがその重さを、はっきりと感じている。


ゼロバレット。


この街で、

その名はもう――

撃つ理由を消す言葉になっていた。



翌朝、灰港の“存在しない窓口”が、久しぶりに動いた。




『ゼロバレット』の世界観やキャラ画像はこちら ↓


作者X(Twitter)で公開中!


https://x.com/MizunekoZeroB

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ