080話 余波 ― 偽の名が動いた日
――灰港連絡都市・外縁区。
昼。
港は、昨日までと変わらず動いている。
だが、
街の裏側では、別の動きが始まっていた。
◆◆◆
雑居ビルの一室。
若い仲介屋が、端末を机に叩きつけた。
「……ゼロバレットの意向だと?」
向かいに座る男が、平然と答える。
「そう言っただけだ」
「何の権限があって――」
「権限なんて言葉、
この街でまだ信じてるのか?」
男は、肩をすくめる。
「名前を出しただけだ」
「それで、相手が止まった」
若い仲介屋は、言葉を失う。
◆◆◆
数時間後。
港湾区の倉庫で、別の噂が流れ始める。
――ゼロバレットが、
――この区画を“危険”と判断したらしい。
根拠はない。
正式な通達もない。
だが、
武装請負の一団が、拠点を畳み始めた。
「……おい、本当か?」
「知らねぇ」
「でも、触らねぇ方がいい」
理由は、それで十分だった。
◆◆◆
第二拠点・情報区画。
ダリオが、ログを確認して眉を寄せる。
「……これは違う」
ネオンが、すぐに理解する。
「便乗ね」
「ええ」
「ゼロバレットの名前を、
都合よく使ってる」
ラザロが、端末を操作する。
「放置すれば、
“俺たちがやったこと”になる」
◆◆◆
ソフィアは、短く指示を出した。
「潰すわ」
ネロが確認する。
「撃つか?」
「いいえ」
ソフィアは首を振る。
「“名前が嘘になる”状況を作る」
◆◆◆
数時間後。
問題の倉庫に届くはずだった燃料が、止まった。
理由は単純だ。
・書類不備
・再確認
・手続きの行き違い
どれも合法。
どれも一時的。
だが――
その仲介屋の取引だけが、正確に止まった。
◆◆◆
翌朝。
同じ噂を流していた仲介屋が、姿を消した。
殺されていない。
捕まってもいない。
ただ――
誰も、連絡を取らなくなった。
◆◆◆
第二拠点。
アシュレイが、腕を組んで言う。
「……派手じゃねぇな」
ノアが答える。
「派手だと、
本物と勘違いされる」
ソフィアは、静かに締めくくった。
「“ゼロバレットの名を使うと、
割に合わない”」
「それが、
今日の結論よ」
余波は、
血ではなく、信用を削った。
――次回更新:2月4日17:30公開予定
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『ゼロバレット』続編、081話「観測者 ― 灰港を見下ろす眼」――
をお楽しみに!




