08話 硝煙の朝
『ゼロバレット』の世界観やキャラ画像はこちら ↓
作者X(Twitter)で公開中!
https://x.com/MizunekoZeroB
――ブォォォォン……。
夜明け前の拠点。
格納庫の奥で、ヘリのエンジンが重く唸りを上げていた。
冷たい空気を切り裂くようにローターが回転し、巻き上がった砂が金属床を叩く。
焼けた油と鉄の匂いが混ざり、空気の味がざらついている。
ソフィアは、結い上げた髪を風に揺らしながら淡々と指示を出していた。
「戦場情報、すべて更新済み?」
モニター越しにネオンの声が響く。
透き通るような少女の声――だが、冷たく精密。
『うん、完璧。第1班は旧南戦線跡地。武装勢力の残党、およそ70人。
第2班は工業区の補給路奪還戦。』
指先で数枚のデータをスライドしながら、ネオンが小さく笑う。
『現地の気温は摂氏43度、湿度18%。火薬の燃えがいい環境だね。』
ソフィアは頷き、冷たい声で命じた。
「第一班――ノア、カリナ。
第二班――ネロ、カサンドラ。」
『了解っ!』
通信が切れた瞬間、拠点全体が戦場の音に変わる。
ガチャリ。カチャッ。ドン……!
銃器の装填音が連鎖し、床を叩くブーツの音が共鳴する。
空気の緊張が一点に集中した。
ソフィアは全体マイクに手を伸ばし、静かに告げる。
「――ゼロバレット、作戦開始。」
――
ローターの轟音が、夜明けの空を切り裂く。
薄い靄の向こうに、焦げた街の輪郭が浮かび上がる。
ヘリの内部には、わずかな油の匂いと鉄粉の味。
ノアは無言で銃を握り、視線を下へと落とした。
隣で、カリナがガムを噛みながら弾倉を確認している。
「緊張してる? ノア」
「……いや、別に。」
「そっか、ならいいわ。お手並み拝見。」
ヘリが旋回し、砂漠の町が見えた。
黒煙が空を裂き、銃声が遠くで反響する。
「地上、敵70確認!」
パイロットの報告に、カリナが笑う。
「70か……退屈しなさそうね。」
ノアは立ち上がり、ドアを開けた。
ゴォォォ……!
熱風が吹き込み、砂が頬を叩く。
風の流れ。砂の軌跡。崩れた壁の呼吸。
――敵の動線が、立体的に浮かび上がる。
「降下、準備!」
ロープが投下されると、ノアは一切の迷いなく身を投げた。
――ドスッ。
乾いた砂煙が舞い上がり、足元に熱が広がる。
瓦礫の匂い、焦げた鉄と血の匂い。
焼けた風が頬を撫で、呼吸のたびに喉が焼ける。
ノアは数秒で周囲を“把握”した。
屋根に二、路地に三、崩れた壁の裏に二。
すべての呼吸、振動、空気の渦を記録する。
70という“数”が、瞬時に位置と速度を持った図に変わる。
カリナが指先で「始めろ」と合図する。
――その瞬間、ノアの身体が動いた。
バシュッ!
跳弾が壁を撥ね、敵のこめかみを貫く。
バン! バンッ!
二発目、三発目。反撃の隙すら与えず沈黙させる。
息を吸う。吐く。撃つ。
その連続の中で時間の感覚が崩壊していく。
視界の隅で砂が舞い上がり、太陽光が鉄片に反射する。
敵は恐怖で動きを乱し、仲間の声を遮断して逃げ惑う。
だが、その“乱れ”こそがノアの弾道の導線だった。
ガガガガガッ!
一瞬、乾いた連射音。
崩れた壁の向こうで、また一人が沈む。
ノアの射撃は、機械ではない。
音を聴き、呼吸を読み、鼓動を数える――それは“人の命の波”を読む技術だ。
「なにこれ、私いらなくない?」
カリナの冗談めいた声が無線に混じる。
ノアは瓦礫の上に立ち、淡々と答えた。
「済んだ。残党は半分以下。残りも逃げ場はない。」
彼は確実に、生き残りを追い詰める。
足跡の深さ、瓦礫の落ち方、銃の金属臭。
それらが指し示す先に、恐怖に震える影。
カチャン。バンッ。
反応する前に、終わる。
一時間。二時間。
太陽が頭上に昇る頃、最後の銃声が遠くに消えた。
廃墟は静まり返り、風が乾いた瓦礫を転がすだけ。
「第1班、完全制圧確認。残党ゼロ。」
無線の報告が響き、ネオンの声が嬉しそうに震えた。
『さすがだね、ノア! 完璧!』
ノアは応答せず、ただ風の中に立つ。
銃を下ろし、空を仰ぐ。
砂が頬にあたり、焼けた匂いが漂う。
その中で、ようやく“生きている”実感がわずかに戻る。
カリナが隣で小さく呟いた。
「……終わったな。いや、ほんと……次元が違うわ、こいつ。
味方で良かった……敵なら即死してる。」
ノアは軽く顎を上げ、遠くの地平線を見つめる。
ヘリの影が再び落ち、熱風が頬を打つ。
「……次だ。」
その一言だけを残して、ノアは立ち上がった。
――空は高く、砂煙が夕陽に赤く染まる。
ヘリのプロペラが再び唸り、彼の影を飲み込む。
その眼差しは、既に次の戦場を見ていた。
(つづく)
――次回更新:明日17:30公開予定
ブクマ・評価・感想が励みになります。
『ゼロバレット』続編、09話「援護の風」――
をお楽しみに。




