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ゼロバレット  作者: 水猫
ーー灰の街とゼロバレットーー
8/74

08話 硝煙の朝

『ゼロバレット』の世界観やキャラ画像はこちら ↓


作者X(Twitter)で公開中!


https://x.com/MizunekoZeroB

――ブォォォォン……。


夜明け前の拠点。

格納庫の奥で、ヘリのエンジンが重く唸りを上げていた。

冷たい空気を切り裂くようにローターが回転し、巻き上がった砂が金属床を叩く。

焼けた油と鉄の匂いが混ざり、空気の味がざらついている。


ソフィアは、結い上げた髪を風に揺らしながら淡々と指示を出していた。

「戦場情報、すべて更新済み?」


モニター越しにネオンの声が響く。

透き通るような少女の声――だが、冷たく精密。

『うん、完璧。第1班は旧南戦線跡地。武装勢力デイバンの残党、およそ70人。

 第2班は工業区の補給路奪還戦。』


指先で数枚のデータをスライドしながら、ネオンが小さく笑う。

『現地の気温は摂氏43度、湿度18%。火薬の燃えがいい環境だね。』


ソフィアは頷き、冷たい声で命じた。

「第一班――ノア、カリナ。

 第二班――ネロ、カサンドラ。」


『了解っ!』


通信が切れた瞬間、拠点全体が戦場の音に変わる。

ガチャリ。カチャッ。ドン……!

銃器の装填音が連鎖し、床を叩くブーツの音が共鳴する。

空気の緊張が一点に集中した。


ソフィアは全体マイクに手を伸ばし、静かに告げる。

「――ゼロバレット、作戦開始。」


――


ローターの轟音が、夜明けの空を切り裂く。

薄い靄の向こうに、焦げた街の輪郭が浮かび上がる。

ヘリの内部には、わずかな油の匂いと鉄粉の味。

ノアは無言で銃を握り、視線を下へと落とした。


隣で、カリナがガムを噛みながら弾倉を確認している。

「緊張してる? ノア」

「……いや、別に。」

「そっか、ならいいわ。お手並み拝見。」


ヘリが旋回し、砂漠の町が見えた。

黒煙が空を裂き、銃声が遠くで反響する。


「地上、敵70確認!」

パイロットの報告に、カリナが笑う。

「70か……退屈しなさそうね。」


ノアは立ち上がり、ドアを開けた。

ゴォォォ……!

熱風が吹き込み、砂が頬を叩く。


風の流れ。砂の軌跡。崩れた壁の呼吸。

――敵の動線が、立体的に浮かび上がる。


「降下、準備!」

ロープが投下されると、ノアは一切の迷いなく身を投げた。


――ドスッ。


乾いた砂煙が舞い上がり、足元に熱が広がる。

瓦礫の匂い、焦げた鉄と血の匂い。

焼けた風が頬を撫で、呼吸のたびに喉が焼ける。


ノアは数秒で周囲を“把握”した。

屋根に二、路地に三、崩れた壁の裏に二。

すべての呼吸、振動、空気の渦を記録する。

70という“数”が、瞬時に位置と速度を持った図に変わる。


カリナが指先で「始めろ」と合図する。

――その瞬間、ノアの身体が動いた。


バシュッ! 

跳弾が壁を撥ね、敵のこめかみを貫く。


バン! バンッ!

二発目、三発目。反撃の隙すら与えず沈黙させる。


息を吸う。吐く。撃つ。

その連続の中で時間の感覚が崩壊していく。

視界の隅で砂が舞い上がり、太陽光が鉄片に反射する。


敵は恐怖で動きを乱し、仲間の声を遮断して逃げ惑う。

だが、その“乱れ”こそがノアの弾道の導線だった。


ガガガガガッ!

一瞬、乾いた連射音。

崩れた壁の向こうで、また一人が沈む。


ノアの射撃は、機械ではない。

音を聴き、呼吸を読み、鼓動を数える――それは“人の命の波”を読む技術だ。


「なにこれ、私いらなくない?」

カリナの冗談めいた声が無線に混じる。

ノアは瓦礫の上に立ち、淡々と答えた。

「済んだ。残党は半分以下。残りも逃げ場はない。」


彼は確実に、生き残りを追い詰める。

足跡の深さ、瓦礫の落ち方、銃の金属臭。

それらが指し示す先に、恐怖に震える影。


カチャン。バンッ。

反応する前に、終わる。


一時間。二時間。

太陽が頭上に昇る頃、最後の銃声が遠くに消えた。

廃墟は静まり返り、風が乾いた瓦礫を転がすだけ。


「第1班、完全制圧確認。残党ゼロ。」

無線の報告が響き、ネオンの声が嬉しそうに震えた。

『さすがだね、ノア! 完璧!』


ノアは応答せず、ただ風の中に立つ。

銃を下ろし、空を仰ぐ。

砂が頬にあたり、焼けた匂いが漂う。

その中で、ようやく“生きている”実感がわずかに戻る。


カリナが隣で小さく呟いた。

「……終わったな。いや、ほんと……次元が違うわ、こいつ。

 味方で良かった……敵なら即死してる。」


ノアは軽く顎を上げ、遠くの地平線を見つめる。

ヘリの影が再び落ち、熱風が頬を打つ。


「……次だ。」

その一言だけを残して、ノアは立ち上がった。


――空は高く、砂煙が夕陽に赤く染まる。

ヘリのプロペラが再び唸り、彼の影を飲み込む。


その眼差しは、既に次の戦場を見ていた。


(つづく)





――次回更新:明日17:30公開予定


ブクマ・評価・感想が励みになります。


『ゼロバレット』続編、09話「援護の風」――


をお楽しみに。


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