077話 依頼という名の確認 ― 値段のつけられない力
――灰港連絡都市・中層区。
翌日、午前。
灰港の朝は遅い。
夜の取引が終わってから、人々がようやく動き出す。
そして――
“情報”も、動き出す。
◆◆◆
「……来たわね」
第二拠点・通信室。
ソフィアは端末に映る暗号通信を見て、静かに言った。
発信元は、灰港調停商会とは別系統。
だが、昨日の“交渉区域”と、はっきり繋がっている。
「商会じゃない」
カサンドラが分析を進めながら言う。
「もっと奥。
都市管理層の一部……正式には“存在しない窓口”ね」
ネロが苦笑する。
「便利な言い回しだな」
ネオンが割り込む。
「翻訳完了。
内容は単純よ」
ソフィアは頷いた。
「“依頼”ね」
◆◆◆
簡易作戦室。
全員が揃っていた。
ノアとアシュレイは、壁際に立つ。
「今回の話は、護衛でも排除でもない」
ソフィアは、そう切り出した。
「灰港中層区で起きている“摩擦”の調停」
アシュレイが眉を上げる。
「揉め事の仲裁か?」
「ええ。
ただし、武装組織同士よ」
ネロが口を挟む。
「つまり、普通にやれば血が出る」
「出続けてるわ」
ソフィアは淡々と言った。
「だから、都市側が困っている」
◆◆◆
ホログラムに、二つの勢力が映る。
・港湾荷役ギルド
・外縁武装請負団体
「どちらも灰港に必要な存在」
「だが、どちらも引かない」
カサンドラが補足する。
「放置すれば、街の流通が止まる」
「下手に介入すれば、都市側が敵になる」
ネロが腕を組んだ。
「面倒なやつだな」
「ええ」
ソフィアは頷く。
「だから――」
一拍置く。
「ゼロバレットに話が来た」
◆◆◆
アシュレイが、低く笑った。
「俺たち、
いつの間に“使える存在”になったんだ?」
「昨日からよ」
ソフィアは即答する。
「撃たずに止めた」
「触れずに退かせた」
「それが、
一番“都市が欲しがる力”だった」
ノアは静かに言う。
「……条件は?」
「報酬は、情報と通行権」
「金は、向こうも出す気がない」
ネオンが肩をすくめる。
「つまり、“試験運用”ね」
◆◆◆
沈黙。
誰もすぐに答えない。
ノアは、ゆっくり口を開いた。
「その調停……」
「戦わずに済むんですか」
ソフィアは、まっすぐに答えた。
「分からない」
「でも、
戦わずに終わらせられる可能性が一番高いのは、
今のゼロバレットよ」
その言葉は、
評価でも称賛でもなかった。
現実的な判断だった。
◆◆◆
アシュレイが、ノアを横目で見る。
「どうする?」
ノアは、少し考えてから言った。
「……戦場を選べるなら」
一拍。
「選ばない理由は、ありません」
ネロが、ニヤリと笑う。
「決まりだな」
◆◆◆
ソフィアは、通信端末を操作した。
『ゼロバレットは、
調停の“場”に立つ』
『ただし、
条件が一つ』
返答は早かった。
『聞きましょう』
ソフィアは、静かに言った。
『私たちは、
どちらの味方にもならない』
『街のためでもない』
『――“戦わずに終わらせるため”だけに立つ』
数秒の沈黙。
やがて、短い返答。
『……理解しました』
◆◆◆
通信が切れる。
アシュレイが、肩を鳴らした。
「交渉の交渉か。
ややこしい」
「いいえ」
ソフィアは微笑む。
「これが、力を持った者の立ち位置よ」
ノアは、窓の外を見た。
港が動いている。
人が流れている。
「……戦わずに、
守れるものがあるなら」
小さく、しかし確かに言った。
「俺は、そっちを選びたい」
◆◆◆
その日。
灰港に、ひとつの噂が流れ始めた。
ゼロバレットは、
もうここら一帯では“頭一つ抜けている”
場を選ぶ側になった
ゼロバレットは、
確実に次の段階へ進んだ。
戦場は、もう“撃つ場所”だけじゃない。
選ばれた場所で、
選ばれた終わらせ方をする――
――次回更新:2月1日17:30公開予定
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『ゼロバレット』続編、078話「調停前夜 ― 静かな配置」――
をお楽しみに!




