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ゼロバレット  作者: 水猫
ーー力を持った者は、戦場を選ぶ(灰港都市)ーー
76/105

076話 試す者たち ― 触れてはいけない線

――灰港連絡都市・裏層区。

日没後。


昼の喧騒が嘘のように、

この時間の裏層区は静かだった。


静かすぎる、と言ったほうが正しい。


◆◆◆


「……妙だな」


瓦礫を再利用した三階建ての建物。

その最上階で、男は双眼鏡を下ろした。


灰港では名の通った情報屋――

通称ブローカー・ミルズ


「銃も出てない。

 人も倒れてない。

 なのに、商会側が折れた」


背後で、若い部下が言う。


「噂じゃ、ゼロバレットが“強い”って話ですけど」


ミルズは鼻で笑った。


「強い?

 それだけで、あそこまで綺麗に決まるか?」


彼は、ノアとアシュレイの存在を知らない。

だが、直感は正しかった。


「力を見せてないのに、

 力を“確信させる”やり方だ」


「……じゃあ、どうします?」


ミルズは少し考え、口角を上げた。


「軽く触る」

「壊す気はない。

 反応を見るだけだ」


◆◆◆


同時刻。

第二拠点・監視区画。


「……来た」


ネオンが、端末を操作しながら言った。


「灰港裏層区、非武装の小規模接触。

 人数三。

 武装なし。

 ただし、全員“様子見”の動き」


ネロが腕を組む。


「試しだな」


ソフィアは即答した。


「ええ。

 “どこまで踏み込めるか”を測ってる」


アシュレイが、壁にもたれたまま言う。


「どうする?

 追い返す?」


「いいえ」

ソフィアは首を振る。


「今回は、こちらから何もしない」


ノアが視線を上げた。


「……それでも、相手は何か仕掛けてきます」


「分かってるわ」


ソフィアは静かに言う。


「だから、“起きなかった事実”を残す」


◆◆◆


灰港裏層区・旧倉庫街。


三人の男が歩いていた。

服装は地味。

だが、周囲の気配を読む動きが揃っている。


「……ここで合ってるはずなんだが」


一人が小声で言う。


「ゼロバレットの動線が、

 この辺りで一度“消える”」


次の瞬間だった。


――音もなく、足元の影がずれた。


「……?」


男が振り返る。


誰もいない。


だが、

背中に、はっきりとした違和感。


「なあ……」


声を出そうとした瞬間、

肩に、軽く“置かれる感触”があった。


重くない。

掴まれてもいない。


だが――


動けない。


「……」


喉が鳴る。

だが、声が出ない。


耳元で、低い声がした。


「そこまでだ」


ノアの声だった。


姿は、見えない。

気配だけが、真後ろにある。


「これ以上は、

 街にとっても、あなたたちにとっても得がない」


別方向から、アシュレイの声。


「試すのはいい。

 だが――」


一歩、音もなく近づく気配。


「線は超えるなよ」


◆◆◆


数秒後。


三人は、何事もなかったかのように立っていた。


触れられていない。

殴られてもいない。

拘束もされていない。


だが、

足が、わずかに震えていた。


「……撤退だ」


リーダー格の男が、絞り出すように言う。


「確認は済んだ」


「何が……?」


「――触れちゃいけない類だ」


◆◆◆


少し離れた屋上。


アシュレイが、ため息をついた。


「本当に、何もしなかったな」


ノアは静かに答える。


「触れただけだ」


「十分だろ」


二人は、すでに引き上げる準備をしていた。


◆◆◆


第二拠点・作戦室。


報告を聞いたミルズは、

しばらく黙り込んでいた。


「……なるほどな」


部下が恐る恐る聞く。


「ボス、どうします?」


ミルズは、静かに言った。


「ゼロバレットには、

 “交渉”以外で近づくな」


「敵ですか?」


「いや」


彼は、苦く笑った。


「敵に回すもんじゃない」


◆◆◆


その夜。


ソフィアは、拠点の通路でノアとアシュレイに言った。


「今日で、はっきりしたわね」


「何がだ?」


アシュレイが聞く。


「あなたたちが加わったことで、

 ゼロバレットは“撃たなくても止められる組織”になった」


ノアは少し考えてから言った。


「……それは、いいことですか?」


ソフィアは即答しなかった。


だが、やがて言う。


「少なくとも、

 選択肢は増えた」


ゼロバレットは、静かに進んでいる。


戦わない戦場。

撃たない勝利。



――次回更新:1月31日17:30公開予定


ブクマ・評価・感想が励みになります。


『ゼロバレット』続編、077話「依頼という名の確認 ― 値段のつけられない力」――


をお楽しみに!


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