074話 伏せられた刃 ― 作戦はすでに始まっている
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――ゼロバレット第二拠点。
出発の三十分前。
拠点中央の簡易作戦室には、最低限の照明しか入っていなかった。
壁面に投影されているのは、港湾都市外縁部の立体マップ。
ソフィアは腕を組み、無言でそれを見つめている。
「……確認するわ」
その一言で、空気が切り替わった。
◆◆◆
「今回の目的は“商談”よ」
ソフィアははっきり言った。
「交渉相手は中立商会。
武装は薄いけれど、裏に何がいるかは不明」
ネロが頷く。
「つまり、撃ち合いになる可能性は低いが、ゼロじゃない」
「ええ」
ソフィアは視線を上げ、全員を見渡した。
「だから今回は、戦わないための配置を取る」
その言葉に、ノアがわずかに目を細める。
アシュレイも、静かに耳を傾けていた。
◆◆◆
「班分けを再確認するわ」
ソフィアが端末を操作すると、マップ上に三つの色が浮かび上がる。
■ 地上車両班A
ラザロ・ダリオ班
「ラザロ、ダリオ。
あなたたちはこのルート」
幹線道路から一本外れた、少し古い工業地帯。
「商談エリア周辺の動線監視。
車両の流れ、人の出入り、異常の兆候」
ラザロが短く答える。
「了解。視界に入った時点で共有する」
ダリオが軽くハンドルを叩く仕草をした。
「追われる前に、追うってわけだな」
「ええ」
ソフィアは頷く。
「何か起きるなら、まずそこよ」
◆◆◆
■ 地上車両班B
ルアン・カリナ班
マップ上、別ルートが強調される。
「ルアン、カリナ。
あなたたちは裏道と退路の確保」
ルアンが静かに言う。
「表が詰まった場合の逃走ルートですね」
「そう」
ソフィアは即答した。
カリナが口元を歪める。
「つまり、最悪の場合は――私たちが派手にやる?」
「その場合は、躊躇しなくていい」
ソフィアの声に迷いはなかった。
「商談が壊れた時点で、こちらは引く。
勝ち負けじゃない。生存優先よ」
◆◆◆
ノアは、そのやり取りを聞きながら理解していた。
――これが、ゼロバレットのやり方。
最初から“勝つ配置”をするのではない。
“負けない配置”を重ねる。
◆◆◆
■ 上空支援班(非戦闘)
カイン・ネオン・リリス班
最後に、空が表示された。
「カイン、ネオン、リリス。
あなたたちはヘリで待機」
カインが肩をすくめる。
「今回は撃たねぇってことだな」
「撃たない」
ソフィアはきっぱり言った。
「あなたたちは救護と回収。
通信遮断、電子妨害、緊急搬送」
ネオンが指を鳴らす。
「通信は常にミュート可能。
必要なら、街一帯を“静か”にできる」
リリスは静かに言った。
「負傷者が出た場合、五分以内に収容可能です」
アシュレイが小さく息を吐く。
「……随分、分厚いな」
「ええ」
ソフィアは彼を見る。
「あなたとノアがいるから、取れる配置よ」
◆◆◆
その言葉に、ノアは何も言わなかった。
前に出ない。
引き金も引かない。
だが――
自分が“そこにいる”だけで、作戦が変わる。
それが、はっきり分かった。
◆◆◆
「今回、前に出るのは私だけ」
ソフィアが言う。
「ノア、アシュレイ。
あなたたちは同行しない」
アシュレイが一瞬だけ眉を動かしたが、すぐに頷いた。
「了解だ。守る対象が一人なら、守りやすい」
ノアも静かに言う。
「全体が見えています。問題ありません」
ソフィアは微かに笑った。
「いい判断ね」
◆◆◆
作戦室の照明が落ちる。
それぞれが、自分の持ち場へ散っていく。
車が動き出し、
ヘリが静かに浮上し、
街のどこかに、目に見えない網が張られていく。
◆◆◆
ソフィアは、最後に一人でマップを見つめた。
「……戦わないために、これだけ用意する」
それは贅沢だろうか。
いいえ。
それが、力を持った者の選ぶ戦場だ。
商談の席には、まだ誰も座っていない。
だが――
この時点で、
勝敗はもう「起きない形」で決まっていた。
ゼロバレットは、静かに動いている。
撃たず、壊さず、
それでも――
確実に、主導権を握りながら。
――次回更新:1月28日17:30公開予定
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『ゼロバレット』続編、075話「余波 ― 名前だけが残る」――
をお楽しみに!




