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ゼロバレット  作者: 水猫
ーー力を持った者は、戦場を選ぶーー
73/75

073話 交渉区域 ― 武器を持たない戦場

『ゼロバレット』の世界観やキャラ画像はこちら ↓


作者X(Twitter)で公開中!


https://x.com/MizunekoZeroB

灰港連絡都市。


この街では、争いが止むことはない。


だが――

それを「問題」だと考える者はいない。


銃撃は騒ぎになる。

爆発は迷惑とされる。


しかし、交渉の席で人が死ぬことは、

ただの結果だ。


条件が合わなかった。

値段が折り合わなかった。

それだけの話として処理される。


死体は運ばれ、

名前は帳簿から消え、

次の交渉が始まる。


人口、およそ三十万。


国には属さず、

法は断片的で、

正義は存在しない。


ここにあるのは、

利益と、取引と、

「誰が次に消えるか」という現実だけだ。


灰港連絡都市。


この街は、

人が死なないことの方が、

よほど珍しい。




――灰港連絡都市・外縁区。

午前。


港に近いこの区域は、常に薄い煤と潮の匂いが混じっている。

戦場ではない。

だが、決して安全とも言えない場所だった。


「……相変わらず、落ち着かない街ね」


ソフィアが、車窓越しに外を見ながら言った。

瓦礫と修復を繰り返した建物。

武装を解いているはずの警備員たちの、視線だけが異様に鋭い。


「灰港は“誰のものでもない”のが売りだからな」


ネロが短く答える。

ハンドルを握る手は軽いが、意識は完全に外に向いている。


「だからこそ、値踏みされる」


助手席のカサンドラが、端末を閉じながら言った。

「ここに来る連中は全員、“どこまで踏み込めるか”を測ってくる」


ソフィアは頷いた。


「だから今日は、こちらから何も奪わない」

「ただ、“奪えない”と思わせるだけ」


後部座席。

ノアとアシュレイは並んで座っていた。


二人とも銃は携行していない。

だが、それは丸腰という意味ではなかった。


「……静かだな」


アシュレイが、ぼそりと呟く。


「港町にしては、音が少ない」


ノアも同意するように視線を動かした。


「意図的だな」

「商談区域は、余計なトラブルを嫌う」


「なるほど。だから“交渉区域”か」


アシュレイは小さく笑った。

だが、その目は笑っていない。


――見られている。

それも、一人や二人じゃない。


◆◆◆


車が止まったのは、港湾施設を改装した商会ビルだった。

正面玄関に立つ警備員は二人。

武装は軽いが、数は明らかに“控えめ”すぎる。


「……これは」


ネロが、エンジンを切りながら言う。


「歓迎か、牽制か」


「両方よ」


ソフィアはドアを開けた。

ヒールが、コンクリートに小さく音を立てる。


その瞬間だった。


周囲の視線が、一斉に集まる。


ノアとアシュレイが車から降りただけで、

空気が一段、重くなった。


「あれが……」


「護衛か?」


「いや、違う。あの歩き方……」


誰かが小声で呟くのが聞こえる。


アシュレイは気づいていたが、あえて無視した。

ノアも同じだ。


二人は、何も見ていないように歩く。

だが、それこそが一番の圧だった。


◆◆◆


商談室は、無駄に広かった。


長いテーブル。

向かいに座るのは、灰港調停商会の代表――

中年の男。柔らかい笑顔。


「ようこそ。ゼロバレットの皆さん」


男は立ち上がり、丁寧に頭を下げた。


「この度は、我々の提案に応じていただき、感謝します」


「こちらこそ」


ソフィアは淡々と応じる。

席に着くが、背筋は一切崩さない。


「まずは、確認を」

商会代表は言った。

「御社は、武装組織……いえ、独立部隊という認識でよろしいですか?」


「“組織”ね」


ソフィアは微笑む。


「私たちは、必要な場所にだけ現れる集団よ」


代表は一瞬、目を細めた。


「なるほど……選ぶ側、というわけですね」


その言葉に、

ノアが初めて、視線を上げた。


代表と、目が合う。


たったそれだけだった。

だが、代表は言葉を詰まらせた。


(……この男)


理由は分からない。

だが本能が告げていた。


――下手な言葉を使うな。


◆◆◆


「本題に入りましょう」


代表は咳払いをして続ける。


「我々は、今後の航路と物資流通について、

 ゼロバレットに“優先権”を提供したい」


「条件は?」


ソフィアが即座に返す。


「護衛です」

「最低限の抑止力を」


アシュレイが、ほんのわずかに口角を上げた。


(来たな)


ソフィアは首を横に振る。


「お断りするわ」

「私たちは、誰かの盾にはならない」


室内の空気が、一瞬で張り詰めた。


代表は困ったように笑う。


「それでは……」


その時だった。


「ひとつ、いいですか」


ノアが口を開いた。


全員の視線が集まる。


「“抑止力”という言葉を使いましたね」

ノアは静かに言った。

「あなたは、それが何か分かっていますか」


代表は言葉に詰まる。


「それは――」


「力を見せることじゃない」


ノアは続けた。


「力を使う必要がない状態を作ることです」


沈黙。


アシュレイが、何気ない調子で付け足す。


「俺たちがここに座ってる時点で、

 この区域は今日一日、静かだろ?」


代表は、はっとしたように気づく。


外が――異様なほど静かだ。


「……なるほど」


代表は、深く息を吐いた。


「失礼しました」

「条件を、改めさせていただきます」


◆◆◆


商談は、戦わずに終わった。


ゼロバレットは何も約束しない。

だが、何も奪われない。


それだけで、十分だった。


建物を出た瞬間、

港の喧騒が少しずつ戻ってくる。


「……成功ね」


ソフィアが言った。


「ええ」

カサンドラも頷く。

「完全に主導権はこちらです」


アシュレイは肩を回す。


「戦わないのも、悪くねぇな」


ノアは、港を見つめながら静かに言った。


「...今回は、静かだったな」


その言葉を、

ソフィアは聞き逃さなかった。



「血が流れない商談だけならいいんだけどね...」



――次回更新:1月26日17:30公開予定


ブクマ・評価・感想が励みになります。


『ゼロバレット』続編、074話「伏せられた刃 ― 作戦はすでに始まっている」――


をお楽しみに!


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