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ゼロバレット  作者: 水猫
ーー力を持った者は、戦場を選ぶーー
70/74

070話 生き延びる技術 ― 命を食うということ

『ゼロバレット』の世界観やキャラ画像はこちら ↓


作者X(Twitter)で公開中!


https://x.com/MizunekoZeroB

――ゼロバレット第二拠点・下層整備区画。

夕刻。


拠点内の照明が、昼用の白色から、やや暖色へと切り替わった。

それは「戦闘が終わった」という合図ではない。


――人間に戻る時間だ。


◆◆◆


最初に戻ってきたのは、山側班だった。


通路の奥から、何かを引きずる重たい音が響く。


「……慎重に。血はもう落ちきってる」


カサンドラの声。

次いで、少し荒い息。


「おい、こいつ……想像よりデカいぞ」


姿を現したのは、カインとカサンドラ。

その後ろに――


鹿。


立派な雄鹿だった。

首はすでに落とされ、腹は開かれ、内臓は丁寧に取り除かれている。

毛皮に余分な汚れはなく、処理の速さと正確さが一目で分かる。


「……やったわね」


ソフィアが、短く言った。


「運が良かっただけだ」

カサンドラは淡々と返す。

「風向き、距離、時間帯。全部が噛み合った」


カインは鹿を一瞥し、満足そうに頷いた。


「だがな」

「運を無駄にするかどうかは、ここからだ」


◆◆◆


少し遅れて、海側班が戻ってきた。


ノアとアシュレイ。

二人の背の網籠には、銀色の魚が溢れんばかりに入っている。


「……これは」


ネオンが一歩近づき、目を細める。

「量も、鮮度も、申し分ない」


「血抜きが綺麗だ」

ネロも感心したように言った。

「雑味が出ない」


アシュレイが肩をすくめる。

「ノアの仕事だ」


ソフィアはノアを見る。

「よくやったわ」


だが――

カインの意識は、すでに“次”へ向いていた。


「よし」


次の瞬間。


裸エプロン、装着。


「……着る意味ある?」

ソフィアが真顔で聞く。


「ある」

カインは即答した。

「これは儀式だ」


誰もそれ以上は突っ込まなかった。


◆◆◆


鹿の処理 ― 命を食う準備


「まず覚えとけ」


カインは全員を呼び寄せた。


「鹿は、狩った瞬間から傷み始める」


鹿をフックに掛け、宙に吊るす。


「地面に置くな」

「重力で血を落とす」

「肉の繊維を潰さない」


理由を一つずつ、言葉にする。


「血が残ると、臭くなる」

「焼いても煮ても誤魔化せねぇ」


ノアが聞いた。

「最初に切るのは?」


「切らねぇ」

カインは首を振る。

「裂く」


筋膜に沿って、刃を滑らせる。


「鹿は筋膜が“地図”だ」

「無理に刃を立てると、肉が負ける」


背肉、腿、肩。

部位ごとに、迷いなく分けられていく。


「背は焼きすぎるな」

「腿は薄切りか、火を通す」

「脂は捨てるな。最高の燃料だ」


アシュレイが、素直に呟いた。

「……合理的だな」


「生き残ってきた連中の知恵だ」

カインはそう答えた。


◆◆◆


魚の下処理 ― 教える側になる


「次は魚だ」


カインは、ノアとアシュレイに包丁を渡した。


「最初にやるのは、切ることじゃねぇ」


目、エラ、腹。


「見る」

「判断する」

「触る回数を減らす」


「腹が膨らんでたらアウトだ」

「内臓が先に死んでる」


鱗取り。


「力はいらねぇ」

「尾から頭、水を流しながら」


内臓処理。


「胆嚢は絶対に潰すな」

「潰したら即流水、こするな」


血合い。


「海水で落とせ」

「真水は身を壊す」


三枚おろし。


「刃で切るな」

「骨をガイドに滑らせろ」


ノアの手元を見て、カインが頷く。


「いい」

「もう“魚を殺してない”」


◆◆◆


火入れ ― 焼きすぎない勇気


鹿背肉。


「塩は直前」

「火は中火」

「置いたら触るな」


アシュレイが聞く。

「時間は?」


「時間で焼くな」

「音と匂いを聞け」


一度だけ返す。


「焼いたら休ませろ」

「切るな。五分待て」


骨とアラ。


「水から」

「沸騰させるな」

「アクは全部取れ」


◆◆◆


食事 ― 命を余さず使う


皿に並ぶ。


・鹿肉ユッケ

・鹿背肉の炭火焼き

・腿肉の薄切り

・魚の刺身

・皮目を焼いた魚の塩焼き

・骨の即席スープ


最初の一口。


誰も喋らない。


アシュレイが、ぽつりと。


「……無駄がない味だ」


ノアが頷く。

「技術の味だ」


カインは笑った。


「それでいい」

「生きるための料理は、正直でいい」


ソフィアが静かに言う。


「ゼロバレットは、戦うための組織じゃない」

「生き残るための集団よ」


◆◆◆


火が落ち、夜が深まる。

波の音だけが残る。


カインが呟いた。


「命は、取った瞬間じゃ終わらねぇ」

「食って、初めて意味がある」


誰も否定しなかった。


この日、彼らは任務をしていない。

だが――


確実に、生存率を上げた。



――次回更新:1月21日17:30公開予定


ブクマ・評価・感想が励みになります。


『ゼロバレット』続編、071話「余白 ― 波音だけが残る夜」――


をお楽しみに!


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