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ゼロバレット  作者: 水猫
ーー灰の街とゼロバレットーー
7/105

07話 朝のざわめきと白い息

――サク、サク、サク。

包丁の音が、静かな朝の空気を切り裂いていた。


キッチンには湯気が立ちこめ、ベーコンとハーブの香りが広がる。

その中心に立つのは――カイン。

裸エプロン姿で、フライパンを片手にリズミカルに動く。


「よし、焼き加減完璧。今日も戦場キッチンは平和だな」

彼は木べらをひと振りして、笑う。


テーブルでは、ソフィアが新聞を広げていた。

白いシャツの袖を軽くまくり、コーヒーを口に含む。

「おはよう、みんな。……ああ、この光景を見ると……“帰ってきた”って気がするわ」


「だな」

ネロがコーヒーカップを片手に、ダルそうに呟く。

第三ボタンまで開いた白いリネンシャツが、寝起きのだるさをそのまま表している。


「だろ?」

カインは胸を張る。


リリスが微笑んで、

「私もカインの裸エプロン、好きよ」

と囁いた。


次の瞬間――

むに。

生地のないところを、遠慮なく掴む。


「ん゛ッ……!?」

カインの肩が跳ねる。

だが包丁は止まらない。

フライパンの上で、ベーコンがジュウッと音を立て続ける。


リリスは楽しそうに、その様子を観察した。

「動揺しない。いいね」

「今日は……“戦える日”」


ネロがコーヒーを啜りながら、ぼそりと呟く。

「尻でコンディション測るな」


ソフィアは新聞越しに小さく笑った。

「それで全員の調子が分かるなら、合理的ね」


ノアは静かに席につき、出されたスクランブルエッグを見つめる。

「……これ、俺の分?」

「当たり前だろ。お前の成長期は俺が責任持つ」

カインが笑いながら、皿をもう一枚テーブルに置く。


ノアは一口、スプーンで掬って口に運ぶ。

「……うまい」

素直な一言に、キッチンの空気がふっと柔らかくなる。


「そう言われると、やりがいあるな」

カインはフライパンを置き、湯気の立つスープを運んできた。


そのとき、窓の外で**ミャァ……**という鳴き声。

白猫と三毛猫、そして新しく拾われた黒猫が窓辺で日向ぼっこしている。

「この子たちもすっかり拠点の顔ね」

ソフィアが微笑み、ネロはコーヒーを飲みながらぼそりと呟いた。

「猫の方がこの拠点に馴染むの早ぇな」


「ふふ……平和ってこういうことかもね」

リリスが髪をかき上げながら笑う。


その空気が――


ピピッ……。


通信機の音ひとつで、切り替わった。


笑いが消える。

包丁の音が止まる。

誰もが、戦場の顔になる。


ソフィアは新聞を畳き、静かに立ち上がった。

「……任務の呼び出しね」


「……任務の呼び出し?」

「ええ、複数同時。緊急要請が三件」

カサンドラの声が廊下の奥から響く。

白いスーツの裾を翻しながら、デバイスを差し出す。


ソフィアは短く息を吸い、全員を見渡した。

「……食事はあと。出るわよ。分隊は二つ。現地で連携」


空気が一気に引き締まる。

ネロがカップを机に置き、低く答える。

「了解。……戦場の朝ってのは、やっぱこうでなくちゃな」


ノアは無言で立ち上がる。

その目には、また“あの戦場の光”が宿り始めていた。



焚き火のように穏やかだった朝が、

再び硝煙の匂いを帯びて動き出していく――。


――次回更新:明日17:30公開予定


ブクマ・評価・感想が励みになります。


『ゼロバレット』続編、08話「硝煙の朝」――


をお楽しみに。


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