069話 分かれた道 ― 海と山、それぞれの収穫
『ゼロバレット』の世界観やキャラ画像はこちら ↓
作者X(Twitter)で公開中!
https://x.com/MizunekoZeroB
――ゼロバレット第二拠点・午前。
朝の役割分担が終わり、
拠点は二方向へと静かに分かれていった。
一方は、海。
もう一方は、山。
どちらも任務ではない。
だが、**“生きるための仕事”**だった。
◆海側 ― ノア/アシュレイ
断崖下の岩場。
潮が引き、浅瀬が広がっている。
水は澄み、岩陰には魚影がはっきり見えた。
「視界、いいな」
アシュレイが低く言う。
「流れも素直だ」
ノアが頷く。
二人は余計な言葉を交わさず、
自然に役割を分けた。
ノアは浅場。
銛を持ち、群れの動きを読む。
アシュレイは少し沖。
素潜りで岩陰を探る。
(……静かだ)
ノアは水面越しに思う。
戦場の静寂とは違う。
ここには、死の気配がない。
魚が動く。
一瞬の判断。
――突く。
一匹。
続けて、もう一匹。
「そっち、でかいのいるぞ」
アシュレイの声が水面から上がる。
ノアが視線を向けた瞬間、
水中から影が跳ねた。
「……でかいな」
「逃がすなよ」
二人は言葉を交わさず、
自然に挟み込む。
銛が走り、
水しぶきが上がる。
「取った!」
アシュレイが水面から顔を出す。
腕には、十分すぎる大きさの魚。
ノアは苦笑した。
「……やりすぎかもしれないな」
「拠点全員分だ。問題ない」
結果、網籠はすぐに重くなった。
魚。
貝。
岩場に張り付く甲殻類。
「こんな量、久しぶりだな」
アシュレイが言う。
「戦場じゃ、奪う側だったからな」
ノアは静かに答えた。
二人は一度、海を振り返った。
(……いい場所だ)
そう思えたこと自体が、
少し不思議だった。
◆山側 ― カイン/カサンドラ
一方、山側。
拠点背後の斜面は、
意外なほどに手つかずだった。
「足跡……新しいな」
カサンドラがしゃがみ込む。
「鹿か?」
カインが目を輝かせる。
「可能性は高い」
カサンドラは冷静だ。
二人は対照的だった。
カインは前へ。
カサンドラは周囲を見る。
「風向き、こっち」
カサンドラが低く言う。
「了解」
カインは、ふざけた態度を消した。
こういう時、彼は別人のように静かになる。
森の奥。
枝が揺れた。
――鹿。
まだ若いが、十分な体躯。
「……運がいいわね」
カサンドラが囁く。
「俺、今日はツイてる気がしてた」
カインは銃を構えない。
弓を選んだ。
音を立てないためだ。
呼吸を整え、
一拍。
――放つ。
短い衝撃音。
鹿が跳ね、数歩走り、倒れた。
「……仕留めた」
「無駄がない」
カサンドラが頷く。
二人はすぐに処理に入る。
血抜き。
内臓処理。
肉の分割。
「量、十分すぎるわ」
カサンドラが言う。
「裸エプロンの出番だな」
カインがニヤリとする。
「それは余計」
だが、
カサンドラの口元は、ほんのわずかに緩んでいた。
◆それぞれの帰路
正午前。
海側と山側は、
それぞれの収穫を抱えて拠点へ戻った。
ノアとアシュレイは、
重い網籠を交互に持ち替えながら。
カインとカサンドラは、
しっかり処理された鹿肉を背負って。
誰も急がない。
だが、足取りは軽かった。
今日は、奪ったのではない。
生きるために得たのだ。
それが、全員に共通していた。
――そして。
火が待っている。
――次回更新:1月19日17:30公開予定
ブクマ・評価・感想が励みになります。
『ゼロバレット』続編、070話「生き延びる技術 ― 命を食うということ」――
をお楽しみに!




