068話 分岐する朝 ― それぞれの持ち場
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――ゼロバレット第二拠点。
朝。
防護シャッターの外から差し込む光が、通路の床に細い帯を作っていた。
拠点は完全に目覚め、低い駆動音と人の気配が、ゆっくりと満ちていく。
ここは戦場ではない。
だが、気を抜く場所でもない。
◆◆◆
ノア/アシュレイ ― 海側
最下層脱出口。
装備は軽い。
銃は置き、代わりに銛と網籠。
それでも二人の動きは、戦場と変わらず無駄がなかった。
「潮、穏やかだな」
アシュレイが水面を見て言う。
「うん。今日は潜れる」
ノアは短く答え、岩場を確認する。
二人は言葉少なだが、動きが噛み合っている。
どちらが先に入るかも、合図もいらない。
「先、行くぞ」
「了解」
アシュレイが先に飛び込み、
ノアが少し遅れて続く。
水の中は冷たく、澄んでいた。
砂漠では感じられなかった“重さのない世界”。
(……生きてるな)
ノアは心の中でそう思う。
岩陰には魚影。
群れの動き、反射、距離。
戦場と同じだ。
読むものが変わっただけ。
銛が走り、
網が広がる。
無駄がない。
(この人、海でも判断速いな)
アシュレイは水中でちらりとノアを見る。
(狙撃じゃなくても、前衛の目だ)
言葉にしなくても、理解は進んでいく。
◆◆◆
ネロ ― 外周・脱出口確認
断崖上。
ネロは一人、拠点外周を歩いていた。
端末を片手に、岩壁のひび、海への導線、退避ルートを確認する。
「……ここ、潮で削れてきてるな」
記録を入れる。
補強は後回しでいいが、崩落ラインは把握しておく。
第二拠点は“使い捨て”だ。
だが、使う以上は完璧でなければならない。
「拠点は守らない。人を守る」
自分で言った言葉を、ネロは思い出す。
だからこそ、
逃げる準備を怠らない。
(静かな朝ほど、嫌な予感はするもんだが……)
今日は、まだ大丈夫そうだ。
◆◆◆
ネオン ― 通信・暗号更新
通信室。
ネオンは椅子に深く腰掛け、
複数の画面を同時に見ていた。
暗号鍵の更新。
外部ノイズのチェック。
通信履歴の整理。
「……よし」
指を滑らせ、最後の確認を終える。
第二拠点は秘匿されている。
だが、“完全”なんてものは存在しない。
「誰にも見られてない、じゃなくて……
“まだ見つかってない”、だもんね」
小さく呟き、
彼女はログを一つ封印する。
ゼロバレットが動かない時間。
それは、次に動くための準備時間だ。
◆◆◆
ソフィア ― 全体統制
中央ブリーフィングスペース。
ソフィアは、各メンバーの位置情報を静かに追っていた。
指示は出さない。
今日は、それでいい。
(無理をさせない日)
それも、指揮官の判断だ。
アシュレイがまだ組織に馴染む途中。
ノアも、過去から戻ったばかり。
「……急がなくていい」
小さく呟く。
誰に聞かせるでもなく。
◆◆◆
カイン/カサンドラ ― 山側
森の中。
「鹿いたら俺が仕留める!」
カインは相変わらず声がでかい。
「静かに」
カサンドラが即座に制止する。
「山菜だけで十分よ。今日は」
「えー、バーベキュー的にさぁ……」
「却下」
短いやり取りだが、連携は完璧だ。
カサンドラは足元を見て、
迷いなく食べられる草を選ぶ。
(判断基準は常に現実的)
それが彼女の役割だ。
「……でも」
カインが少し真面目な声で言う。
「こういうの、嫌いじゃないだろ?」
カサンドラは一瞬だけ、表情を緩めた。
「……否定はしないわ」
◆◆◆
再び ― 海側
網籠は、すでに重かった。
魚が跳ね、
銀色の鱗が朝日に反射する。
「……結構取れたな」
アシュレイが笑う。
「うん。十分だ」
ノアも頷く。
二人は岩場に腰を下ろし、
しばらく海を見た。
戦場では、こんな間はなかった。
「なあ」
アシュレイが言う。
「こういう時間、悪くないな」
「……ああ」
短い返事。
だが、それで足りた。
◆◆◆
それぞれが、それぞれの場所で役割を果たす。
戦争ではない。
だが、ただの休暇でもない。
ここはゼロバレットの拠点。
“今”を整える場所。
そして――
この穏やかな朝が、
いつか終わることを、
全員が分かっていた。
だからこそ、
今はまだ、何も言わなかった。
――次回更新:1月18日17:30公開予定
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『ゼロバレット』続編、069話「分かれた道 ― 海と山、それぞれの収穫」――
をお楽しみに!




