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ゼロバレット  作者: 水猫
ーー力を持った者は、戦場を選ぶーー
67/75

067話 境界線の朝 ― 第二拠点の輪郭

『ゼロバレット』の世界観やキャラ画像はこちら ↓


作者X(Twitter)で公開中!


https://x.com/MizunekoZeroB

――ゼロバレット第二拠点。

夜明け前。


拠点内の照明が、自動制御で静かに変化していく。

夜間モードから、薄明モードへ。


完全な闇でもなく、完全な光でもない。

人の意識を、ゆっくりと現実へ引き戻す色だった。


◆◆◆


最初に目を覚ましたのは、ノアだった。

まだ、日は出ていない。


身体を起こすと、視界に入るのは岩肌を削り出した天井。

人工的だが、無理に自然を塗り潰していない造り。


(……やっぱり、落ち着くな)


昨夜は漠然とそう思っただけだった。

だが朝になって、理由がはっきりする。


空気が澱んでいない。

湿度は一定。

微かに、潮の匂いが混じっている。


戦場では、まず感じることのない感覚だった。


「起きたか」


通路の奥から、ネロの声。

すでに完全に覚醒している、いつもの調子だ。


「早いな」

「拠点に来たら、まず全体を見る癖があってね」


ネロは端末を操作し、壁面に簡易ホログラムを映す。

第二拠点の断面図が浮かび上がった。


「改めて説明しとく」

「ここは三層構造だ」


指でなぞる。


「最上層が観測と緊急退避」

「中層が居住と整備」

「最下層が、海への脱出口」


ノアは一瞬で理解した。


「……逃げ道が複数あるな」


「正確には三つ」

ネロは即答する。

「海、断崖、内部崩落用ルート」


「崩落?」

「最悪の場合、ここは“消す”」


淡々とした声だった。

だが冗談ではない。


「ゼロバレットの拠点は全部そうだ」

ネロは続ける。

「拠点は守らない。人だけ守る」


ノアは短く頷いた。

それが、この組織の思想だ。


◆◆◆


やがて、防護シャッターが低音を立てて開いた。


岩の隙間から、朝の光が差し込む。


――海。


穏やかな水面が、淡く光を反射している。

遠くで、鳥が旋回していた。


「……おお」


素直な声を上げたのは、アシュレイだった。


銃も持たず、ジャケットを羽織っただけの姿で、

ただ海を見ている。


「いいだろ」

ネロが少し得意げに言う。

「第二拠点の数少ない贅沢だ」


「砂漠とは正反対だな……」

アシュレイは呟く。


ノアも同じ景色を見ていた。


音がある。

波の音。

風の音。


それだけで、身体の奥に溜まっていたものが、

少しずつ解けていく。


◆◆◆


「――全員、集まって」


ソフィアの声が、拠点内に通る。

拡声ではないが、不思議とよく響く声だった。


簡易ブリーフィングスペースに全員が揃う。


「ここからは“現在編”よ」

ソフィアはそう前置きしてから続けた。


「しばらく大きな任務は入れない」

「理由は三つ」


指を立てる。


「一つ。アシュレイの正式編入後、初の共同行動期間」

アシュレイが小さく頷く。


「二つ。拠点周辺の環境把握」

ネロが「妥当だな」と呟く。


「三つ――」


一拍。


「全員、疲労が溜まりすぎてる」


誰も反論しなかった。


「今日は任務じゃない」

ソフィアは言い切る。

「役割確認と、最低限の生活行動だけ」


ネロが即座に手を叩く。

「聞いたか? 合法的な休養だ」


「言い方が最悪ね」

カサンドラが呆れたように言う。


◆◆◆


ソフィアは、端末を操作しながら続けた。


「役割を振るわ」


「ネロ。拠点外周と脱出口の再確認」

「了解。崩すならどこから崩すか、ちゃんと見とく」

冗談めかしているが、目は真剣だった。


「ネオン。通信と暗号更新」

「問題ない。昨夜のログも整理する」

どや顔で返答。


「私が全体統制」

「異論は?」

誰も口を挟まない。


「ノア、アシュレイ」

「あなたたちは海。材料調達」


「海だ」

ノアが軽く笑う。

「この拠点、海を使える」


アシュレイの口元が、わずかに緩む。


「それは……確認する価値があるな」


「カイン、カサンドラ」

「山側。山菜と、鹿がいれば確保」


「了解ッ!!」

カインが即答する。

「今日も裸エプロンは俺のものだな!」


「鹿を取ったらな」

カサンドラが即座に切り返す。


◆◆◆


ネロが銛と網籠を差し出した。


「食えるもん取れたら頼む」


「任せろ」

アシュレイが即答する。


ノアも頷いた。

「しっかり調達してくる」


◆◆◆


二人は、最下層の脱出口から外へ出た。


断崖の影。

岩を削った狭い通路。


その先に広がる――青。


「……綺麗だな」


アシュレイの言葉は、飾りがなかった。


「そうだな」

ノアも、否定しない。


しばらく、二人は並んで立っていた。


波が岩を打つ音。

確かに存在する“世界の音”。


「なあ、ノア」

アシュレイが言う。


「戦場以外で、こうして並ぶの……初めてかもしれねぇな」


ノアは少し考え、答えた。


「……そうかもしれない」


ここは拠点。

秘匿された場所。


だが同時に――

まだ世界と繋がっている場所だった。


ゼロバレットは、今は動かない。


だが確実に、

次の時間へ進み始めている。



――次回更新:1月17日17:30公開予定


ブクマ・評価・感想が励みになります。


『ゼロバレット』続編、068話「分岐する朝 ― それぞれの持ち場」――


をお楽しみに!


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