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ゼロバレット  作者: 水猫
ーー力を持った者は、戦場を選ぶーー
66/76

066話 現在地 ― 波音の残る場所

『ゼロバレット』の世界観やキャラ画像はこちら ↓


作者X(Twitter)で公開中!


https://x.com/MizunekoZeroB

――ゼロバレット第二拠点。

海に面した断崖の奥。


夜はすでに深く、

拠点内の照明は必要最低限に落とされていた。


遠くで、波が岩を打つ音がする。

一定で、乱れのないリズム。


それは、

ガリレア砂漠には存在しなかった音だった。


◆◆◆


「……で、気づいたら朝だったわけだ」


ネロが壁にもたれ、空になったカップを軽く振る。

中身はとっくに尽きている。


「よくあれだけ語って、誰も寝落ちしなかったな」


「途中で寝たら殴るって言ったの、誰だったかしら」


ソフィアが静かに返す。

声は低いが、どこか柔らかい。


「愛だよ、愛」

ネロは即答した。

「トラウマ語りは最後まで聞くのが礼儀だろ?」


「最低限のマナーとしては、合ってるわね」

カサンドラが端末を閉じながら言った。


宴は終わり、

それぞれが拠点内に散っていた。


だが、完全に眠りについた者はいない。


語られた過去が、

あまりにも生々しかったからだ。


◆◆◆


ノアは、拠点中央の通路に立っていた。


岩壁をそのまま削り出した構造。

装飾はなく、

通路の幅も必要最低限。


ここは「住む場所」ではない。

「生き延びるための通過点」だ。


ノアは、壁に手を当てる。


冷たい。

だが、不思議と落ち着く。


「……静かだな」


独り言のような呟き。


「だろ?」


背後から、ネロの声。


「第二拠点は、音を殺しすぎない設計にしてる。

 完全に無音だと、人は逆に壊れる」


ノアは振り返る。


「相変わらず、細かいな」


「細かくないと死ぬ仕事してるからな」


ネロは肩をすくめ、拠点全体を見回した。


「何度来ても思うけどさ。

 ……やっぱり、いい拠点だな。ここ」


ノアは小さく頷く。


「余計なものがない」


「それが一番の評価だ」


ネロは少し誇らしげだった。

第二拠点は、彼が主導して設計に関わった場所だ。


◆◆◆


そこへ、足音。


アシュレイが通路の奥から現れる。

銃は置き、ジャケットも軽装。


壁に背を預け、天井を見上げた。


「……うん。良い拠点だね」


ネロが横目で見る。


「即答かよ」


「こういう場所はな」

アシュレイは淡々と言う。

「“安全”より、“逃げやすさ”で分かる」


ノアが、わずかに視線を動かした。


アシュレイは続ける。


「通路が直線じゃない。

 死角が多い。

 それでいて、閉塞感が薄い」


ネロが口笛を吹く。


「評価、高ぇな。

 設計書見た?」


「見てない」

アシュレイは首を振る。

「でも、身体がそう言ってる」


「傭兵の勘ってやつか」


「生き残ったやつの共通感覚だよ」


一瞬、沈黙。


波の音が、拠点の奥まで届く。


◆◆◆


「……なあ」


アシュレイが、ぽつりと切り出す。


「さっきの話さ」


ノアは答えない。

だが、否定もしない。


「ガリレアの夜」

アシュレイは続ける。

「あれ、改めて聞いて思った」


ネロが眉を上げる。


「何だよ、急に真面目だな」


「俺たち、よく生きてたよな」


その言葉に、誰もすぐ返せなかった。


ソフィアが、静かに言う。


「あなたたちが化け物だから生き残れただけよ」


全員が頷く。


◆◆◆


ネロが、空気を変えるように手を叩いた。


「よし、湿っぽいのはここまでだ」


「切り替え早いわね」

カサンドラが呆れる。


「回想編は終わり!」

ネロは宣言する。

「今は現在! しかも安全圏!」


「一応、ね」

ソフィアが釘を刺す。


ネロは笑う。


「それでも、砂漠よりは天国だ」


アシュレイが、通路の奥――海側を指さした。


「……明るくなったら、外見てもいい?」


「もちろん」

ネロが即答する。

「釣りもできるぞ」


「マジか」


アシュレイの声が、少し弾んだ。


ノアも、笑顔になって言った。


「……久しぶりだな。そういう話」


「戦争以外の話か?」

ネロが言う。


「そうだ」


短い返答。

だが、それで十分だった。


◆◆◆


拠点の照明が、さらに落とされる。

夜間モード。


誰かが、眠りにつく準備を始めた。


ノアは最後に、もう一度通路を見渡した。


第二拠点。

秘匿され、

誰にも見つかっていない場所。



ここは「心地がいいなぁ」。



アシュレイが聞き返す。


「何か言ったか?」


ノアは首を振った。


「いや。独り言だ」


ネロが笑う。


「独り言が増えたら、一人前だな」


「嫌な基準だな」


小さな笑いが、通路に落ちる。


波の音は、変わらず続いていた。


過去は終わった。

だが、消えたわけじゃない。


それを抱えたまま、

彼らは“今”を生きている。


――ゼロバレット第二拠点。

次の朝は、まだ穏やかだった。




――次回更新:1月13日17:30公開予定


ブクマ・評価・感想が励みになります。


『ゼロバレット』続編、067話「境界線の朝 ― 第二拠点の輪郭」――


をお楽しみに!

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