066話 現在地 ― 波音の残る場所
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――ゼロバレット第二拠点。
海に面した断崖の奥。
夜はすでに深く、
拠点内の照明は必要最低限に落とされていた。
遠くで、波が岩を打つ音がする。
一定で、乱れのないリズム。
それは、
ガリレア砂漠には存在しなかった音だった。
◆◆◆
「……で、気づいたら朝だったわけだ」
ネロが壁にもたれ、空になったカップを軽く振る。
中身はとっくに尽きている。
「よくあれだけ語って、誰も寝落ちしなかったな」
「途中で寝たら殴るって言ったの、誰だったかしら」
ソフィアが静かに返す。
声は低いが、どこか柔らかい。
「愛だよ、愛」
ネロは即答した。
「トラウマ語りは最後まで聞くのが礼儀だろ?」
「最低限のマナーとしては、合ってるわね」
カサンドラが端末を閉じながら言った。
宴は終わり、
それぞれが拠点内に散っていた。
だが、完全に眠りについた者はいない。
語られた過去が、
あまりにも生々しかったからだ。
◆◆◆
ノアは、拠点中央の通路に立っていた。
岩壁をそのまま削り出した構造。
装飾はなく、
通路の幅も必要最低限。
ここは「住む場所」ではない。
「生き延びるための通過点」だ。
ノアは、壁に手を当てる。
冷たい。
だが、不思議と落ち着く。
「……静かだな」
独り言のような呟き。
「だろ?」
背後から、ネロの声。
「第二拠点は、音を殺しすぎない設計にしてる。
完全に無音だと、人は逆に壊れる」
ノアは振り返る。
「相変わらず、細かいな」
「細かくないと死ぬ仕事してるからな」
ネロは肩をすくめ、拠点全体を見回した。
「何度来ても思うけどさ。
……やっぱり、いい拠点だな。ここ」
ノアは小さく頷く。
「余計なものがない」
「それが一番の評価だ」
ネロは少し誇らしげだった。
第二拠点は、彼が主導して設計に関わった場所だ。
◆◆◆
そこへ、足音。
アシュレイが通路の奥から現れる。
銃は置き、ジャケットも軽装。
壁に背を預け、天井を見上げた。
「……うん。良い拠点だね」
ネロが横目で見る。
「即答かよ」
「こういう場所はな」
アシュレイは淡々と言う。
「“安全”より、“逃げやすさ”で分かる」
ノアが、わずかに視線を動かした。
アシュレイは続ける。
「通路が直線じゃない。
死角が多い。
それでいて、閉塞感が薄い」
ネロが口笛を吹く。
「評価、高ぇな。
設計書見た?」
「見てない」
アシュレイは首を振る。
「でも、身体がそう言ってる」
「傭兵の勘ってやつか」
「生き残ったやつの共通感覚だよ」
一瞬、沈黙。
波の音が、拠点の奥まで届く。
◆◆◆
「……なあ」
アシュレイが、ぽつりと切り出す。
「さっきの話さ」
ノアは答えない。
だが、否定もしない。
「ガリレアの夜」
アシュレイは続ける。
「あれ、改めて聞いて思った」
ネロが眉を上げる。
「何だよ、急に真面目だな」
「俺たち、よく生きてたよな」
その言葉に、誰もすぐ返せなかった。
ソフィアが、静かに言う。
「あなたたちが化け物だから生き残れただけよ」
全員が頷く。
◆◆◆
ネロが、空気を変えるように手を叩いた。
「よし、湿っぽいのはここまでだ」
「切り替え早いわね」
カサンドラが呆れる。
「回想編は終わり!」
ネロは宣言する。
「今は現在! しかも安全圏!」
「一応、ね」
ソフィアが釘を刺す。
ネロは笑う。
「それでも、砂漠よりは天国だ」
アシュレイが、通路の奥――海側を指さした。
「……明るくなったら、外見てもいい?」
「もちろん」
ネロが即答する。
「釣りもできるぞ」
「マジか」
アシュレイの声が、少し弾んだ。
ノアも、笑顔になって言った。
「……久しぶりだな。そういう話」
「戦争以外の話か?」
ネロが言う。
「そうだ」
短い返答。
だが、それで十分だった。
◆◆◆
拠点の照明が、さらに落とされる。
夜間モード。
誰かが、眠りにつく準備を始めた。
ノアは最後に、もう一度通路を見渡した。
第二拠点。
秘匿され、
誰にも見つかっていない場所。
ここは「心地がいいなぁ」。
アシュレイが聞き返す。
「何か言ったか?」
ノアは首を振った。
「いや。独り言だ」
ネロが笑う。
「独り言が増えたら、一人前だな」
「嫌な基準だな」
小さな笑いが、通路に落ちる。
波の音は、変わらず続いていた。
過去は終わった。
だが、消えたわけじゃない。
それを抱えたまま、
彼らは“今”を生きている。
――ゼロバレット第二拠点。
次の朝は、まだ穏やかだった。
――次回更新:1月13日17:30公開予定
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『ゼロバレット』続編、067話「境界線の朝 ― 第二拠点の輪郭」――
をお楽しみに!




