065話 歴史に刻まれた夜 ― 無音の夜事件 終結
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歴史は、
事実ではなく、
都合のいい形で残される。
だが――
忘れられた真実ほど、
後の時代を歪めるものはない。
“無音の夜”。
それは、
五百万の死の裏で、
確かに起きた出来事だった。
――ガリレア砂漠戦線
事件終結後・三日目
砂漠に、
完全な静寂が戻っていた。
無音装置の崩壊によって、
異常領域は消失した。
音は戻り、
通信は回復し、
戦場は再び“普通の地獄”へ戻った。
連合軍は、
勝利宣言を出した。
ガリレア自治政府は、
停戦を受け入れた。
だが、
その勝利は――
誰のものでもなかった。
連合軍本部・戦後報告室。
巨大なスクリーンに、
公式記録が映し出される。
【ガリレア砂漠戦線・総括】
・戦死者数:約5,200,000
・戦局悪化の原因:
砂嵐による通信障害および補給線崩壊
・無音現象:
自然環境要因と判断
・未確認兵器の存在:
確認できず
そこに、
“ヴァルキリー8”の名はない。
“無音の夜”という言葉も、
記録には存在しない。
それは、
最初から存在しなかったかのように――
消された。
――前線後方、仮設医療区画。
タリヤは、
白衣の袖をまくりながら、
静かに言った。
「……結局、全部“なかったこと”にするのね」
レインは、
端末を閉じ、短く答える。
「国家は、
“制御できない事実”を嫌う」
「でも、死んだ人たちは?」
ユナの声は、
珍しく震えていた。
「五百万人よ……」
レインは、
一瞬だけ目を伏せた。
「だからこそよ」
そして、
淡々と告げる。
「この戦争は、
“勝敗”では終われない」
――別室。
ノアは、
個別報告用の端末を前にしていた。
画面には、
彼自身の戦闘記録。
冷静な数値。
無機質な評価。
個人戦果:記録対象外
指揮判断:有効
作戦貢献度:高
その最後に、
一行だけ、
手入力された文がある。
備考:
無音領域において、
正体不明の狙撃支援を確認。
当該支援がなければ、
本人は生存していなかった可能性が高い。
ノアは、
しばらくその文を見つめ、
静かに保存した。
名前は、
書かなかった。
書けなかった。
だが――
忘れる気もなかった。
(……あの狙撃がなければ)
戦場のどこかで、
確実に死んでいた。
それだけは、
揺るがない事実だ。
――別の場所。
アシュレイ・ケインは、
傭兵部隊の解散命令を受け取っていた。
作戦報酬。
契約終了。
功績評価――無し。
「……まあ、そんなもんか」
彼は、
紙切れ一枚を畳み、
ポケットにしまう。
同僚の傭兵が、
冗談めかして言った。
「結局、
英雄は一人も生まれなかったな」
アシュレイは、
答えなかった。
代わりに、
砂漠の方角を見た。
(いや……いた)
確かに、
いた。
名前も知らない。
顔も、今はもう思い出せない。
だが、
“戦場を読む目”だけは、
焼き付いている。
(……また会う)
理由はない。
根拠もない。
それでも、
そう思った。
――数週間後。
ヴァルキリー8は、
公式には解散となった。
各員は、
別部隊へ再配属、
あるいは記録上“存在しない人間”として処理される。
世界ランキングは更新されるが、
彼らの名前は、
徐々に表舞台から消えていく。
それが、
この国のやり方だった。
【ナレーション】
“無音の夜”は、
終わった。
だが――
あの夜に生まれたものは、
消えなかった。
互いの名前を知らぬまま、
命を預け合った感覚。
背中を守られた記憶。
戦争が奪えなかったもの。
それは、
二人の中に、
確かに残った。
二年半後。
灰の街。
崩壊した秩序の上で。
ノアは、
ゼロバレットの一員として戦っている。
アシュレイ・ケインは、
世界の裏側で、
同じ戦場を選び続けている。
まだ、
互いは知らない。
だが――
方向は、同じだ。
無音の夜事件・回想編 完
そして物語は、
再び“現在”へ戻る。
あの夜、
交わらなかった二人が――
今度は、
同じ秤の上に立つために。
――次回更新:1月12日17:30公開予定
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『ゼロバレット』続編、066話「現在地 ― 波音の残る場所」――
をお楽しみに!




