062話 中枢破壊作戦 ― 最後の突入
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戦争には、
必ず“心臓”がある。
それは前線ではなく、
司令部でもない。
――誰にも見えない場所で、
静かに鼓動している。
《無音の夜》を生み出した心臓は、
この砂漠の、
さらに奥にあった。
――ガリレア砂漠戦線・無音領域深部
時刻 01時02分
ヴァルキリー8は、
砂嵐の中を横一列で進んでいた。
音は、まだ戻らない。
だが、完全な無音でもない。
遠くで、
かすかな振動だけが伝わってくる。
ノアは先頭に立ち、
端末に映る微弱な反応を確認していた。
(……間違いない)
この振動は、
風でも、地殻でもない。
装置の稼働音だ。
「この先三百メートル」
ノアは低く告げる。
「地下構造物。
深さ、およそ二十メートル」
レインが即座に判断する。
「中枢だな」
エンフィールドが、
肩越しにノアを見る。
「敵は?」
「いる」
ノアは即答した。
「だが、前線部隊とは違う」
タリヤが問い返す。
「どう違うの?」
「……“守る動き”だ」
それは、
今までの敵にはなかった反応。
(ここは、
“絶対に失えない場所”)
ノアは確信していた。
――右翼側、高所。
アシュレイ・ケインは、
砂丘の影に伏せていた。
スコープ越しに見えるのは、
ヴァルキリー8の動き。
(……あいつら、
完全に核心に向かってる)
敵の狙撃手が、
いない。
重火力も、
展開されていない。
それが逆に、
不気味だった。
(守りに入ったか)
アシュレイは、
無線の代わりに、
“動き”で合図を送る。
狙撃位置を一段下げ、
射線を広げる。
(……通す気だな)
彼は、
ノアの進路を予測した。
――無音領域・地下構造物入口。
砂を払いのけると、
コンクリート製のハッチが姿を現した。
リザが小さく息を吐く。
「……軍用だね。
しかも、最近の設計」
レインが即座に指示を出す。
「編成を分ける」
彼女は、
全員を見渡した。
「ノア、エンフィールド。
中枢突入」
「ガルシア兄妹、リザ。
外周制圧」
「タリヤ、カロル。
負傷者対応と退路確保」
全員が、
短く頷く。
無駄な言葉はない。
ノアは、
一瞬だけ振り返り、
遠方の砂丘を見る。
そこに、
小さな光が走った。
アシュレイの狙撃合図だ。
(……了解)
ノアは、
ハッチに手をかけた。
地下は、
異様に静かだった。
いや、
“整いすぎている”。
配線は整理され、
床に砂一粒ない。
エンフィールドが低く言う。
「……戦場じゃないな」
「実験室だ」
ノアが答える。
通路の先に、
光が見えた。
円形の部屋。
中央に、
巨大な装置。
黒い柱状の構造体が、
脈打つように微振動している。
(……これが、無音装置)
ノアは、
理解した。
これは“音を消す装置”ではない。
神経信号を、空間ごと遮断する場。
だから、
人は音もなく死ぬ。
その瞬間――
床が、
わずかに沈んだ。
ノアは即座に身を低くする。
次の瞬間、
空間が“削れた”。
音はない。
だが、
空気が消し飛ぶ感覚。
エンフィールドが、
横から飛び込み、
敵の首を落とす。
黒砂部隊。
だが、
動きが違う。
「……こいつら、
“中枢防衛専用”だ」
ノアは踏み込み、
最短距離で刃を振るう。
一人、倒す。
二人目――
反応が、速い。
(……慣れてる)
敵は、
“無音で戦うこと”を
前提に作られていた。
その瞬間。
上から、
閃光が走る。
アシュレイの弾だ。
地下構造物の通気孔を貫き、
敵の頭部を正確に撃ち抜く。
(……外から通した)
ノアは、
一瞬だけ笑った。
「今だ!」
エンフィールドが突入。
二人で一気に距離を詰める。
数秒。
中枢室は、
沈黙した。
ノアは、
装置の制御盤に近づく。
画面に映る文字列。
《音響遮断フィールド》
《神経干渉レベル:最大》
《対象:人類》
(……迷いがない)
この装置は、
“殺すため”に作られている。
ノアは、
制御コアに刃を突き立てた。
装置が、
激しく震える。
だが――
爆発は起きない。
代わりに、
圧縮されていた音が、
一気に解放され始めた。
「来るぞ!」
エンフィールドが叫ぶ。
ノアは、
歯を食いしばる。
(……これが、
“無音の夜”の終わり方か)
――外。
アシュレイは、
地面が揺れるのを感じた。
次の瞬間。
世界が、吠えた。
爆音。
衝撃。
風。
砂漠全体を覆っていた無音が、
一気に崩壊する。
兵士たちが、
耳を押さえて倒れる。
アシュレイは、
必死に耐えながら、
地下入口を見る。
(……やったな)
だが。
装置は、
完全には止まっていなかった。
砂漠の奥で、
別の振動が立ち上がる。
アシュレイは、
本能で理解する。
(……まだ、終わってない)
地下。
ノアは、
制御盤を見つめながら、
静かに言った。
「これは……
“中枢の一つ”だ」
エンフィールドが、
苦く笑う。
「つまり?」
「本命は、
別にある」
無音の夜は、
終わらない。
だが――
崩れ始めた。
それだけは、
確かだった。
――次回更新:1月5日17:30公開予定
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『ゼロバレット』続編、063話「無音の夜 崩壊 ― 音の津波」――
をお楽しみに!




