061話 無音装置の正体 ― 国家の裏切り
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戦争は、
銃声や爆発で始まるわけではない。
本当は、
会議室で始まる。
署名一つ。
予算一行。
削除された一文。
それだけで、
数百万の命は“消費可能”になる。
ガリレア砂漠で起きた
《無音の夜》は、
偶然でも、暴走でもなかった。
――最初から、
設計されていた戦争だった。
――ガリレア砂漠戦線・前線後方
時刻 00時17分
ヴァルキリー8は、
崩落地帯から一時的に距離を取っていた。
完全な無音ではない。
だが、音はまだ不安定だ。
ノアは、
回収した装置の一部を手にしていた。
掌に収まるほどの黒い円盤。
ひび割れた外装の隙間から、
異様に精密な内部構造が見える。
(……洗練されすぎている)
これは、
即席兵器ではない。
タリヤが、
簡易スキャナを操作しながら言う。
「……神経伝達への干渉パターン、
これ……見覚えがある」
エンフィールドが眉をひそめる。
「医療機器か?」
「いいえ」
タリヤは首を振った。
「軍用非致死兵器の理論設計よ」
その言葉に、
空気が変わった。
「非致死?」
ユナが声を荒げる。
「百人死んでるのに!?」
タリヤは、
苦い表情で続ける。
「“理論上は”ね。
本来は、暴動鎮圧用。
神経信号を一時的に遮断して、
行動不能にする……はずだった」
ノアは、
静かに言った。
「……出力制限を外した」
タリヤが頷く。
「ええ。
しかも、軍用正規規格。
個人や傭兵が作れるレベルじゃない」
レインが、
即座に通信端末を起動する。
「司令部に問い合わせる。
この型式、製造元を洗い出す」
数秒後。
返ってきたのは――
沈黙だった。
いや、正確には
“返答拒否”だ。
レインの表情が、
一段階硬くなる。
「……上から、
これ以上調べるな、だそうよ」
カロルが低く笑う。
「出たな」
エンフィールドが、
ゆっくりと言う。
「……つまり、
連合軍が作ったってことか」
誰も、否定しなかった。
ノアは、
装置を見つめながら口を開く。
「正確には――
“連合軍の研究機関”だ」
全員の視線が集まる。
「対テロ用、対反乱用、
市街地制圧を想定した装置。
それを――」
ノアは、
はっきり言った。
「政治的取引で、敵側に流した」
ユナが、
唇を噛む。
「……味方が、敵を強くした?」
「違う」
ノアは首を振る。
「“戦争を長引かせるために”流した」
沈黙。
誰も、
すぐに理解できなかった。
レインが、
ゆっくりと問い返す。
「……どういう意味?」
ノアは、
淡々と説明する。
「この戦争は、
もう勝ち負けの段階を過ぎている」
彼は、
地図端末を表示する。
補給線。
資源輸送。
武器契約。
復興予算。
「戦争が続くほど、
得をする連中がいる」
エンフィールドが、
拳を握る。
「……ふざけるな」
「だから、“即終わらない兵器”を流した」
ノアは続けた。
「爆発もしない。
証拠も残りにくい。
自然現象と言い張れる」
タリヤが、
震える声で言う。
「……人を、
“音もなく殺す戦争”を作ったのね」
ノアは、
静かに頷いた。
「これは失敗作じゃない。
実証実験だ」
その言葉に、
全員が理解した。
無音の夜は、
試験運用。
この先、
もっと洗練された“次”が来る。
レインが、
はっきり言った。
「つまり――
敵だけ倒しても、意味がない」
「ええ」
ノアは答える。
「この戦争は、
外側からも壊さないと終わらない」
そのとき。
遠くで、
微かな振動が走る。
音は、
まだ戻らない。
だが――
“何かが動き始めた”ことだけは、
確かだった。
エンフィールドが、
ノアを見る。
「なあ」
「この先、
俺たちは何と戦う?」
ノアは、
迷わず答えた。
「兵士でも、将軍でもない」
一拍。
「戦争を必要とする人間だ」
その言葉は、
静かだった。
だが、
誰よりも重かった。
――その頃。
はるか後方、
連合軍中枢都市。
会議室の照明が落とされ、
数人の影が席を立つ。
「……実験データは十分だ」
「無音装置は、次段階へ移行する」
誰かが、
そう言った。
その議事録は、
正式文書には残らない。
だが、
確実に次の戦場へ送られる。
――“改良型”。
無音の夜は、
事故ではない。
そして、
この戦争で最も恐ろしい敵は――
まだ、
前線にすら立っていなかった。
――次回更新:1月4日17:30公開予定
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『ゼロバレット』続編、062話「中枢破壊作戦 ― 最後の突入」――
をお楽しみに!




