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ゼロバレット  作者: 水猫
ーーガリレア砂漠前線ーー(過去編)
58/74

058話 最長距離 ― 無音の狙撃戦

『ゼロバレット』の世界観やキャラ画像はこちら ↓


作者X(Twitter)で公開中!


https://x.com/MizunekoZeroB

それは、

英雄の名が記録される戦いではなかった。


誰が勝ったのかも、

誰が死んだのかも、

公式には語られない。


ただ一つだけ確かなのは――

この夜、ガリレア砂漠で

**“人類史上、最も過酷な狙撃戦”**が行われていたという事実だけだ。


音はない。

距離感は狂い、

風は存在しないはずなのに、弾道だけが歪む。


この戦場で生き残れるのは、

引き金を引く理由を持つ者だけだった。





――ガリレア砂漠・南部高地

無音領域外縁/時刻 23時12分


アシュレイ・ケインは、砂丘の頂に伏せていた。


スコープ越しに映る世界は、

“静止画のように見えて、確実に殺意が流れている”。


(……距離、二千八百。)


通常なら不可能な距離だ。

だが今夜は、通常という概念が役に立たない。


無音領域に近づくほど、

弾道計算は意味を失い、

風速も温度も信用できなくなる。


「……見つけた」


アシュレイの視線が、一点に固定される。


砂嵐の向こう、

わずかに“違和感のある影”。


スコープ倍率を上げる。


そこにいたのは――

敵狙撃手。


顔は見えない。

だが、姿勢で分かる。


(……こいつも、分かってる側だ)


敵は伏せていない。

あえて、半身を起こしている。


無音領域では、

伏せるよりも“空間の歪み”を読む方が重要だからだ。


「……ゴルド・ヴァイル」


アシュレイは、その名を知らない。

だが――

この瞬間、直感が告げていた。


こいつは、今までの敵と格が違う。


二人は、同時に引き金を引かなかった。


それが、

この戦いが“狙撃戦”である証だった。


(焦った方が負ける)


アシュレイは呼吸を落とす。

心拍数を、意図的に下げる。


無音の世界では、

自分の心音だけが邪魔になる。


――その瞬間。


砂丘の縁が、

“削れた”。


音はない。

だが、砂の動きで分かる。


(……撃ってきた)


ゴルドの一射。

だが、アシュレイの“いた場所”を正確に外している。


(俺の移動を、予測してる)


アシュレイは即座に転がり、位置を変える。


撃ち返さない。

まだだ。


この距離、この環境。

一発目は“探り”でしかない。


二発目――

それが、本命になる。


――無音領域内部。


ノアは、砂丘を越えながら一瞬だけ上空を見た。


視界の端で、

**“不自然な砂の跳ね”**があった。


(……狙撃戦か)


敵か、味方かは分からない。

だが、あの距離で撃ち合っているなら――


(相当な腕だ)


ノアはそれ以上、考えない。


今は前へ進むことが最優先だ。


だが――

次の瞬間。


ノアの進行方向、

三百メートル先の重機関銃が沈黙した。


音はない。

だが、火線が消えた。


(……支援?)


ノアは理解した。


“見えない誰か”が、進路を切り開いている。


それが誰かは分からない。

だが、その判断は完璧だった。


(……助かる)


ノアは一瞬だけ、

その“見えない狙撃手”に感謝した。


――再び、砂丘上。


アシュレイは、二発目を外した。


いや、

外された。


弾道が、途中で“ねじれた”。


(……何だ、今の)


風じゃない。

重力補正でもない。


(無音領域の境界……歪んでる)


ゴルドは、その“歪み”を利用している。


三発目。


今度は、

アシュレイの頬をかすめた。


血が浮かぶ。

だが、痛みは遅れてくる。


(……やべぇな)


アシュレイは、初めて思った。


負けるかもしれない。


だが、その瞬間――


視界の端で、

敵陣が“動いた”。


ノアたちヴァルキリー8が、

中央へ突入したのだ。


爆発はない。

だが、陣形が崩れる。


それに引きずられるように、

無音領域の歪みが、わずかに変化した。


(……今だ)


アシュレイは、迷わなかった。


心拍、停止。

呼吸、ゼロ。


引き金。


弾丸は、

歪みの“隙間”を縫う。


砂丘の向こうで、

敵狙撃手の影が、わずかに揺れた。


完全な命中ではない。

だが――


(撤退させた)


ゴルドは、姿を消した。


勝敗はついていない。

ただ、この場では――

アシュレイが“生き残った”。


砂丘に、静寂が戻る。


アシュレイは、スコープ越しに

中央戦線を見る。


そこには、

一人の前衛がいた。


異常な速度。

異常な判断。


(……あいつか)


名前も知らない。

顔も見えない。


だが、

この夜の戦場で、アシュレイは確信していた。


「もう一度、あいつと同じ戦場に立つ」


理由は分からない。

だが、それで十分だった。


無音の夜。

第二の牙が、確かに交差した瞬間だった。



それでは、良いお年を~~~!


――次回更新は:1月1日17:30公開予定です。


ブクマ・評価・感想が励みになります。


『ゼロバレット』続編、059話「大砂丘崩落 ― 死者十万人」――


をお楽しみに!



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