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ゼロバレット  作者: 水猫
ーーガリレア砂漠前線ーー(過去編)
56/74

056話 敵の中枢へ ― ヴァルキリー8の進軍

『ゼロバレット』の世界観やキャラ画像はこちら ↓


作者X(Twitter)で公開中!


https://x.com/MizunekoZeroB

それは、戦争の“音”が死んだ夜だった。


砲声も、銃声も、怒号も、悲鳴もない。

にもかかわらず、ガリレア砂漠戦線では、

人が、部隊が、都市が――確実に“消えていった”。


後に《無音の夜》と呼ばれるこの現象は、

最初、自然現象として処理された。

次に、戦場特有の混乱として切り捨てられた。


だが、現場に立った者たちは理解していた。


――これは偶然ではない。

――そして、災害でもない。


音が消える“領域”は、意思を持つかのように移動し、

その内部に踏み込んだ部隊は、

撃たれることも、爆発に巻き込まれることもなく、

まるでスイッチを切られた機械のように停止した。


精鋭百名からなるファンネル隊は、

七分で全滅した。


戦闘の痕跡は、存在しなかった。


それは戦争ではなく、

“処理”だった。


そして今。


その異常の中心へ向かっているのが、

超少数精鋭部隊――《ヴァルキリー8》。


世界ランキング上位者のみで構成された八名。

戦況を変えるために集められた。





――ガリレア砂漠戦線・無音領域内縁

時刻 22時58分。


砂漠は、完全に“別の世界”になっていた。


足を踏み出しても音は返らない。

砂は舞い、銃は構えられ、呼吸は確かにあるのに、

それらすべてが現実感を失っている。


ヴァルキリー8は、横一列ではなく“点”で進んでいた。


五メートル間隔。

互いの位置は視界と影で把握する。

声も無線も、もう必要ない。


ノアは先頭に立っていた。


(……ここから先は、戻れない)


無音領域の外縁を越えた瞬間から、

空気の“密度”が変わっている。


圧迫感ではない。

監視されている感覚でもない。


もっと根源的な――

「人間の動きを前提に作られた空間」。


ノアは歩きながら、手首の端末を一瞥した。

数値は、正常を示している。


温度、気圧、酸素濃度。

どれも問題はない。


それなのに。


(……人が“戦えなくなる”)


エンフィールドが、ノアの隣に半歩寄る。


「なあ」

口は動くが、声は出ない。


ノアは視線だけで応じる。


エンフィールドは、指で地面を指した。

砂の表面に、わずかな“規則性”がある。


自然にしては、整いすぎている。


(誘導……いや、整地か)


ノアは理解した。


「敵は、この領域を“戦場”として設計している」


エンフィールドは、口角を歪めた。


(冗談じゃねぇな)


後方で、ガルシア兄妹が同時に合図を出す。


“反応あり”


ノアは即座に停止のジェスチャー。


全員が、その場で静止した。


数秒。

十秒。

それでも、何も起きない。


だが――


砂丘の向こう側で、砂だけが沈んだ。


まるで、下から引き抜かれたように。


タリヤの目が鋭くなる。


(地雷じゃない。崩落でもない)


「……空間作用」

ノアは、誰にも聞こえない声で呟いた。


完全な兵器ではない。

だが、実験段階としては、異常な精度だ。


リザが、爆薬を使うかのように指を動かす。


ノアは、即座に首を振った。


(ダメだ。爆発は意味をなさない)


ここでは、

“大きな現象”ほど、効果を失う。


必要なのは――

最小の力で、最大の変化を起こすこと。


ノアは、レインを見る。


彼女は一瞬だけ頷いた。


「――進む」

その判断に、迷いはなかった。


ヴァルキリー8は、再び歩き出す。


 ◆


――同時刻。

ガリレア砂漠・無音領域外縁、右翼高地。


アシュレイ・ケインは、スコープを覗いたまま動かなかった。


距離、約一五〇〇。

風向き、読み切れない。

音は、相変わらずない。


だが。


(……あいつら、止まらねぇな)


異常な領域。

異常な死に方。

普通の部隊なら、とっくに引いている。


それでも、

あの八人は進んでいる。


特に――


(先頭のあいつ)


前に出すぎない。

だが、必ず“最初に判断する”。


敵が現れる“前”に、

味方の動きが変わる。


(指揮官タイプ……いや、違う)


命令しているわけじゃない。

“基準”になっている。


アシュレイは、狙撃の準備を整えた。


撃たない。

だが、いつでも撃てる。


この距離から、

無音領域の“内側”へ弾を通すのは無謀だ。


それでも。


(……何かあったら)


自分は、あの進路に合わせる。


理由は分からない。

ただ、そうすべきだと直感していた。


 ◆


――ヴァルキリー8、前進中。


砂丘を一つ越えた瞬間、

視界が一気に開けた。


そこにあったのは――


人工的すぎる地形。


直線的に削られた砂。

等間隔に配置された岩。

そして、中央に見える“低い構造物”。


タリヤが、唇を噛む。


(……基地?)


いや、基地にしては簡素すぎる。


だが、

戦闘のために作られた形ではない。


ノアは、確信に近い感覚を得ていた。


「……中枢だ」


エンフィールドが、目を細める。


「無音の原因?」

「いや……原因“候補”だ」


ノアは続ける。


「少なくとも、ここを中心に“実験”している」


ガルシア妹が、短く息を吐く。


「じゃあ、私たちは――」


「被験体だ」

ノアは、はっきり言った。


誰も、否定しなかった。


それでも、

足は止まらない。


レインが、最後に全員を見る。


「確認する」

「ここから先は、記録も支援もない」

「生きて帰る保証もない」


一拍。


「それでも、行く」


八人全員が、無言で頷いた。


ノアは、構造物へと視線を戻す。


(……この先にある)


無音の夜を生んだ“思想”。

そして、

後にザラキエル事件へと連なる“原型”。


その中心へ、

ヴァルキリー8は踏み込んでいった。


――次の接触は、

もう“処理”では済まない。


本当の戦闘が、始まろうとしていた。


――次回更新:12月30日17:30公開予定


ブクマ・評価・感想が励みになります。


『ゼロバレット』続編、057話「中央陣地突入 ― 八人全員の戦い」――


をお楽しみに!


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