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ゼロバレット  作者: 水猫
ーーガリレア砂漠前線ーー(過去編)
51/74

051話 ヴァルキリー8、正式投入

『ゼロバレット』の世界観やキャラ画像はこちら ↓


作者X(Twitter)で公開中!


https://x.com/MizunekoZeroB

ーーー戦争は、すでに制御を失っていた。

死者は四百万を超え、通信断絶は南部全域へ広がっている。

それでも司令部は、まだ「勝ち筋」という言葉を捨てられない。

だからこそ、最悪の切り札が抜かれる。

特殊作戦群《ヴァルキリー8》――正式投入。

英雄としてではない。

この地獄を“終わらせる速度”を上げるための部隊として。

そして、遠い右翼戦線で狙撃手アシュレイは、

砂嵐の向こうを進む“異様に整った影”を見つけてしまう。ーーー




――ガリレア砂漠戦線・連合軍前方司令部。


地図上の赤い光点は、もはや“前線”とは呼べなかった。

それは、崩壊の進行図だった。


戦況モニターに映る数字が、無機質に更新される。


【戦死者数:4,237,000】

【負傷者数:不明】

【通信断絶エリア:南部全域】


誰も声を出さない。

司令室にいる全員が理解していた。


――この戦争は、もう制御を失っている。


「……次だ。」


低く、しかしはっきりとした声が落ちた。

司令席に立つ老将が、ゆっくりと一枚の封筒を差し出す。


黒地に、銀の紋章。

“VALKYRIE-8”。


「特殊作戦群《ヴァルキリー8》へ、正式投入命令を出す。」


その瞬間、空気が変わった。


誰もがその名を知っている。

同時に、誰も“使いたくない”部隊だった。


戦況をひっくり返す代わりに、

戦争そのものを“終わらせてしまう”存在。


「投入地点は、ガリレア南部第七砂丘帯。」

「通信は期待するな。補給も最低限だ。」

「生還率は……考慮外。」


老将は、視線を落とさずに続けた。


「諸君らは――戦争を“勝つ”ためではない。」

「この地獄を、“終わらせる速度”を上げるために行く。」


 


――砂嵐の向こう。


八人の影が、静かに並んでいた。


装備は最低限。

だが、どの顔にも迷いはない。


その中央に立つ青年――ノア・アルトは、淡々と地図を見下ろしていた。


「……戦線は、もう面じゃない。」


彼の声は冷静だった。


「点だ。

 敵も味方も、意味のある陣形を失ってる。」


隣に立つ部隊長、レインが短く笑う。


「だから俺たちが呼ばれた。」


レイン・グラーフ。

ヴァルキリー8の指揮官。

世界ランキングトップ50に名を連ねる男だ。


「俺たちは“戦場を整理する”ための部隊だ。」

「敵を倒すんじゃない。

 戦争そのものを、片付ける。」


ノアは小さく頷いた。


彼はすでに、世界ランキング29位。

だがその数字に、本人は何の興味も示さない。


視線は、地図の“黒く塗り潰されたエリア”に向いていた。


「……音が消えた区域。」


レインが目を細める。


「ああ。

 軍は“自然現象”って言ってるが――」


「嘘だ。」

ノアは即答した。


砂嵐の向こうから、低い砲声が響く。

いや、響いた“はずだった”。


だが、その音は途中で途切れた。


「戦場から音が消えるなんて、自然じゃ起きない。」

「起きるとしたら――誰かが、起こしている。」


ヴァルキリー8の一人、エンフィールドが口を挟む。


「兵器か?」

「可能性は高い。」

ノアは答える。

「しかも、対人特化。

 ……嫌な設計だ。」


レインは、部隊全員を見回した。


「確認する。」

「俺たちはこの先、“正規戦”をしない。」

「命令より状況を優先し、

 戦果より生存を優先する。」


全員が黙って頷く。


それが、この部隊の異常さだった。

英雄も、狂人もいない。

ただ、“戦争を終わらせる”ために集められた八人。


 


――同時刻。


ガリレア砂漠・右翼戦線。


砂丘の稜線に、一人の狙撃手が伏せていた。


アシュレイ・ケイン。


スコープ越しに見る戦場は、すでに“死んでいる”。


味方部隊が進み、

次の瞬間、消える。


爆発はない。

銃声もない。


ただ、動かなくなる。


「……冗談だろ。」


アシュレイは、ゆっくりと引き金から指を離した。


距離は取れている。

風も読めている。


――なのに、嫌な予感だけが消えない。


スコープの端に、奇妙な動きが映った。


敵陣の奥へ、異様な速度で進む“何か”。


部隊だ。

だが、動きが違う。


無駄がない。

迷いがない。


まるで、戦場そのものを知っているかのような進軍。


「……なんだ、あいつら。」


アシュレイは、まだ知らない。


その影が、

この戦争の流れを変えることを。


そして――

自分の運命と、深く交差することを。


 


砂漠に、夜が落ちる。


やがて人類史に刻まれる事件の名が、

まだ誰にも知られぬまま――


**“無音の夜”**が、静かに始まろうとしていた。




――次回更新:12月25日17:30公開予定


ブクマ・評価・感想が励みになります。


『ゼロバレット』続編、052話「戦場の地図 ― 無音領域の存在」――


をお楽しみに!


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