051話 ヴァルキリー8、正式投入
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ーーー戦争は、すでに制御を失っていた。
死者は四百万を超え、通信断絶は南部全域へ広がっている。
それでも司令部は、まだ「勝ち筋」という言葉を捨てられない。
だからこそ、最悪の切り札が抜かれる。
特殊作戦群《ヴァルキリー8》――正式投入。
英雄としてではない。
この地獄を“終わらせる速度”を上げるための部隊として。
そして、遠い右翼戦線で狙撃手アシュレイは、
砂嵐の向こうを進む“異様に整った影”を見つけてしまう。ーーー
――ガリレア砂漠戦線・連合軍前方司令部。
地図上の赤い光点は、もはや“前線”とは呼べなかった。
それは、崩壊の進行図だった。
戦況モニターに映る数字が、無機質に更新される。
【戦死者数:4,237,000】
【負傷者数:不明】
【通信断絶エリア:南部全域】
誰も声を出さない。
司令室にいる全員が理解していた。
――この戦争は、もう制御を失っている。
「……次だ。」
低く、しかしはっきりとした声が落ちた。
司令席に立つ老将が、ゆっくりと一枚の封筒を差し出す。
黒地に、銀の紋章。
“VALKYRIE-8”。
「特殊作戦群《ヴァルキリー8》へ、正式投入命令を出す。」
その瞬間、空気が変わった。
誰もがその名を知っている。
同時に、誰も“使いたくない”部隊だった。
戦況をひっくり返す代わりに、
戦争そのものを“終わらせてしまう”存在。
「投入地点は、ガリレア南部第七砂丘帯。」
「通信は期待するな。補給も最低限だ。」
「生還率は……考慮外。」
老将は、視線を落とさずに続けた。
「諸君らは――戦争を“勝つ”ためではない。」
「この地獄を、“終わらせる速度”を上げるために行く。」
――砂嵐の向こう。
八人の影が、静かに並んでいた。
装備は最低限。
だが、どの顔にも迷いはない。
その中央に立つ青年――ノア・アルトは、淡々と地図を見下ろしていた。
「……戦線は、もう面じゃない。」
彼の声は冷静だった。
「点だ。
敵も味方も、意味のある陣形を失ってる。」
隣に立つ部隊長、レインが短く笑う。
「だから俺たちが呼ばれた。」
レイン・グラーフ。
ヴァルキリー8の指揮官。
世界ランキングトップ50に名を連ねる男だ。
「俺たちは“戦場を整理する”ための部隊だ。」
「敵を倒すんじゃない。
戦争そのものを、片付ける。」
ノアは小さく頷いた。
彼はすでに、世界ランキング29位。
だがその数字に、本人は何の興味も示さない。
視線は、地図の“黒く塗り潰されたエリア”に向いていた。
「……音が消えた区域。」
レインが目を細める。
「ああ。
軍は“自然現象”って言ってるが――」
「嘘だ。」
ノアは即答した。
砂嵐の向こうから、低い砲声が響く。
いや、響いた“はずだった”。
だが、その音は途中で途切れた。
「戦場から音が消えるなんて、自然じゃ起きない。」
「起きるとしたら――誰かが、起こしている。」
ヴァルキリー8の一人、エンフィールドが口を挟む。
「兵器か?」
「可能性は高い。」
ノアは答える。
「しかも、対人特化。
……嫌な設計だ。」
レインは、部隊全員を見回した。
「確認する。」
「俺たちはこの先、“正規戦”をしない。」
「命令より状況を優先し、
戦果より生存を優先する。」
全員が黙って頷く。
それが、この部隊の異常さだった。
英雄も、狂人もいない。
ただ、“戦争を終わらせる”ために集められた八人。
――同時刻。
ガリレア砂漠・右翼戦線。
砂丘の稜線に、一人の狙撃手が伏せていた。
アシュレイ・ケイン。
スコープ越しに見る戦場は、すでに“死んでいる”。
味方部隊が進み、
次の瞬間、消える。
爆発はない。
銃声もない。
ただ、動かなくなる。
「……冗談だろ。」
アシュレイは、ゆっくりと引き金から指を離した。
距離は取れている。
風も読めている。
――なのに、嫌な予感だけが消えない。
スコープの端に、奇妙な動きが映った。
敵陣の奥へ、異様な速度で進む“何か”。
部隊だ。
だが、動きが違う。
無駄がない。
迷いがない。
まるで、戦場そのものを知っているかのような進軍。
「……なんだ、あいつら。」
アシュレイは、まだ知らない。
その影が、
この戦争の流れを変えることを。
そして――
自分の運命と、深く交差することを。
砂漠に、夜が落ちる。
やがて人類史に刻まれる事件の名が、
まだ誰にも知られぬまま――
**“無音の夜”**が、静かに始まろうとしていた。
――次回更新:12月25日17:30公開予定
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『ゼロバレット』続編、052話「戦場の地図 ― 無音領域の存在」――
をお楽しみに!




