050話 戦場の地図 ― 名もなき部隊の正体
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前線の地図は、もう線ではなかった。
点が消え、点が崩れ、点が沈黙する。
兵士たちが呼び始めた言葉がある。
――《無音領域》。
そこでは砲声も通信も、叫びも意味を失い、
生き残る方法だけが歪んでいく。
そして前線では、正体不明の少数精鋭が噂されていた。
記録に残らず、所属も不明――“ゼロ班”。
だが、その正体はただ一つ。
戦争を片付けるために集められた八人、《ヴァルキリー8》だった。
――ガリレア砂漠・第七戦域
アル・レシフ前方臨時司令拠点
ホログラム地図が、空中に浮かんでいた。
赤、黄、黒――色分けされた戦線は、すでに“線”と呼べる形を失っている。
ノアは腕を組み、無言で地図を見つめていた。
「……前線、というより“死域”だな」
呟いた声に、レインが小さく頷く。
「ええ。現地部隊も同じ認識よ。
だから今、前線兵の間ではこの辺りを――」
彼女は指で、黒く塗り潰された一帯をなぞった。
「**《無音領域》**って呼び始めてる」
タリヤが眉をひそめる。
「正式名称じゃないわね?」
「ええ。あくまで“現場呼称”。
軍本部はまだ“砂嵐による通信障害”で通してる」
その言葉に、ユナが鼻で笑った。
「便利な魔法の言葉ね。“自然現象”」
レインは苦笑しつつ、話を続ける。
「それと、もう一つ。
ノア、あなたがさっき言ってた件――」
ノアは視線を上げる。
「“ゼロ班”のことですか」
「そう」
レインが操作すると、地図の隅に簡易的なデータが表示された。
《前線報告抜粋》
・正体不明の少数精鋭部隊
・戦線突破を複数回確認
・呼称:ゼロ班/零の部隊 など
エンフィールドが低く唸る。
「……それ、俺たちのことだな」
「正確には“あなたたちの一部”よ」
レインは淡々と言った。
「ヴァルキリー8は正式部隊名。
でも前線の兵士たちは、そんな名称を知らない」
ノアは理解した。
「だから、“ゼロ”なんですね」
「ええ。
記録に残らず、所属も不明で、
気づいたら戦況だけが変わっている」
カロルが肩をすくめる。
「ヒーロー扱いされない代わりに、
全部こっちの手柄は“なかったこと”にされるわけか」
「その通り」
レインは一瞬、言葉を切った。
「実際、あなたたちが投入された作戦の多くは、
公式記録では“局地的戦果”“自然崩壊”で処理されている」
ノアは目を細める。
「……都合がいいですね」
「戦争とは、そういうものよ」
レインはそう言って、次のデータを表示した。
そこには、黒く塗り潰された地図があった。
輪郭だけが不規則に揺れ、まるで“生き物”のように見える。
「これが、現在確認されている無音領域。
半径およそ五キロ。だが――」
レインの指が動く。
「昨日と、形が違う」
タリヤが息を呑む。
「……拡張してる?」
「移動している、と考える方が正確ね」
ユナが冗談めかして言った。
「なにそれ。戦場が生き物みたいじゃない」
だが、誰も笑わなかった。
ノアは地図を見つめながら、静かに言う。
「この領域に入った部隊が、
“撃たれた痕もなく全滅”している」
「ええ」
「なら、音が消えるのは“副作用”だ。
本質は別にある」
レインは頷いた。
「だから、あなたたちを呼んだ」
ノアは顔を上げる。
「俺たちは、
“ゼロ班”として噂されているかもしれない。
でも――」
一瞬、言葉を選ぶ。
「実態は、ただのヴァルキリー8です。
戦争を終わらせるための道具」
エンフィールドが低く笑った。
「道具が意思を持ち始めたら、厄介だな」
ノアは小さく口角を上げる。
「意思がなきゃ、
こんな戦場じゃ即死です」
レインが頷き、はっきり告げた。
「正式命令を出すわ。
ヴァルキリー8は、これより――」
一拍。
「無音領域の外縁部へ進出。
正体不明兵器の有無を確認。
必要とあらば、破壊する」
その場の空気が、わずかに引き締まった。
ノアは答える。
「了解」
彼の脳裏に、
まだ顔も名前も知らない“狙撃手”の影がよぎる。
(……同じ戦場にいる)
その確信だけが、なぜか強かった。
無音の夜は、
まだ本番を迎えていない。
だが――
この瞬間、歯車は確実に噛み合い始めていた。
――次回更新:12月24日17:30公開予定
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『ゼロバレット』続編、051話「ヴァルキリー8、正式投入」――
をお楽しみに!




