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ゼロバレット  作者: 水猫
ーーガリレア砂漠前線ーー(過去編)
48/75

048話 無音の夜 ― ノア視点③ 地獄の中心

『ゼロバレット』の世界観やキャラ画像はこちら ↓


作者X(Twitter)で公開中!


https://x.com/MizunekoZeroB

ガリレア砂漠戦線――中央突出部。

砲声も怒号もあるはずの戦場で、音だけが剥ぎ取られた。

誰もが混乱し、誰もが“死に方”すら理解できないまま倒れていく。

その中心へ向かっていたのは、八人の切り札《ヴァルキリー8》。

そして、その中核にいる青年――ノアは、

この夜が“戦争のルールそのもの”を変える前兆だと、すでに気づいていた。




――ガリレア砂漠戦線・中央突出部

時刻 22時02分。


“音のない世界”に、

またひとつ、炎が上がった。


炎は確かに燃えているのに、

パチパチという音も、爆ぜる衝撃もない。


ただ、揺れる光だけが戦場の輪郭を照らしていた。


ノアは砂の上を走りながら状況を俯瞰する。


視界は悪い。

砂嵐は止まらず、照明弾は溶けて空に吸い込まれていく。


だが――こういう混沌の中こそ、

ノアは異様なまでに“静か”だった。


(敵の動きが変わった……。)


さっきまで乱雑だった敵軍の動線が、

急に整理されている。


“音がない”ことに適応し始めたのだ。


これが死者数を500万人規模に押し上げた

『無音の夜』の本質だった。


◆◆◆


ノアが砂丘を駆け上がると、

ヴァルキリー8の一人――エンフィールドの姿が見えた。


闇の中で、黒い刃だけが淡い光を帯びている。


敵兵が四人、背後から襲いかかろうとしていた。


――だが、エンフィールドは振り返らない。


その必要すらなかった。


ノアに気付くより早く、

四つの影は地面に崩れ落ちる。


(……相変わらずだな。)


ノアが近づくと、

エンフィールドは煙草を口にくわえたまま言う。


「中央陣地の東側、片付けた。

 あと七十名ほど残っているが……」


エンフィールドの目だけが、わずかに細くなる。


「敵の動きが変だ。

 まるで“何かを中心に集まっている”ように見える。」


ノアは事前に奪った地図を見せた。


「おそらく……この地点だ。」


それは――

“中央前線のさらに奥”。


敵の補給線が集中する場所。


(……ここが核心。でも何がある?)


そう考えながら、ノアは刃に付いた血を払った。


エンフィールドが小声で言う。


「……ノア。

 お前、さっきのテントで何かを見たろ。」


ノアは答えない。

ただ、ほんのわずかに首を振った。


(核心はまだ確定できない。)


ノアの癖をエンフィールドは知っている。

それ以上は聞いてこなかった。


◆◆◆


戦場の別方向。

砂の壁の裏で、重い影が座っている。


――ガルシア兄。


脚を撃ち抜かれ、タリヤが治療していた。


妹のガルシアが周囲を警戒しながら兄の肩を押さえている。


タリヤが治療器を取り出し、無音で手早く処置をする。


ノアは近づき、状況を確認した。


「動けるか?」


ガルシア兄は苦笑し、

無音の中で喉を震わせる。


(……動ける。だが走れねぇ。)


タリヤがノアを見た。


「敵の狙撃兵が増えてる。

 無音で回避行動の予測がしやすくなってるみたい。」


(やはり……敵は適応している。)


ノアは深く息を吸って、判断を下した。


「ガルシア兄はここに残り、妹とタリヤで護衛。

 エンフィールド、俺と来い。」


「了解。」


ノアは振り向き、

遠くの砂丘を見上げた。


そこには――

遠距離支援を続ける一つの影。


アシュレイ。


あの距離から、

無音・砂嵐・照明弾消失・熱気乱流の中で

ノアに合わせて撃つ狙撃……普通じゃない。


(……本当にお前は化け物だよ。)


まだ出会っていないが、

ノアには“背中”で分かった。


アシュレイの狙撃は、

敵の重火力を完璧に封じ込めている。


“音がなくても、意思は届く”。


ノアとアシュレイの初共闘は――

まだ“無意識の領域”だった。


◆◆◆


――中心へ向かう。


ノアとエンフィールドは砂丘を抜け、

敵の中心点へ迫っていく。


途中、カロルとリザが前衛を処理している姿が見える。


リザの槍が砂煙を切り裂き、

敵兵が十名まとめて崩れ落ちる。


カロルは全身に血を浴びながらも、

笑みを浮かべて銃を撃ち続けている。


(こいつらまじやべぇな。)


だが――

これでもまだ“ヴァルキリー8の半分の力”でしかない。


◆◆◆


ノアが砂壁の角を曲がろうとした瞬間――


視界の端に影が走った。


反射的に身を低くし、

胸の前に刃を掲げた瞬間。


――鉄音。


無音の世界でも、

ノアにはその“衝撃だけ”が分かった。


敵の斧がノアの刃に当たる寸前、

エンフィールドの黒刃が横から敵の首を落とした。


(流石だ。)


エンフィールドが顎で前を見る。


「そこだ。」


砂煙が切れ、

視界が開ける。


中央に――

巨大なテント。


その前には重装兵五十名。

装甲車数台。

迫撃砲の影。


(……なるほど。ここが中心か。)


エンフィールドが低く息を吐く。


「ノア。

 どちらをやる?」


「全部だ。」


ノアは迷わず言い切る。


エンフィールドは短く笑った。


「……なら、俺が側面を取る。

 十秒後に動け。」


(十秒か……十分だ。)


ノアは刃を握り直し、

足場を固めた。


――10

――9

――8


砂の粒が落ちるほどの静けさ。


――3

――2

――1


0の瞬間。


世界が動き出した。


ノアは砂を蹴り、

前へ。

前へ。

前へ――最速で走る。


エンフィールドは逆方向から影のように動いた。


重装兵たちが気付いて銃を向けるが……


(間に合わない。)


ノアの速度は、

“人間の反応時間を超える”。


刃が閃き、

首が一つ飛ぶ。

胴体が二つ裂ける。

銃弾が頬を掠め、

ノアはわずかな角度で避ける。


無音の世界で、

自分の呼吸だけが響く。


(……速い。俺でも制御がギリギリだ。)


それでも止まらない。


――そのとき。


背後から閃く一発の光。


アシュレイの弾だ。


ノアを狙う敵狙撃兵の頭を、

スコープ越しに撃ち抜いた。


(助かる。)


ノアは前へ跳んだ。


装甲車の影から重装兵二名が出てくる。


ノアは一旦伏せ、

地面に手をつき、

跳躍。


敵兵二名の首に刃を滑らせる。


その瞬間、

エンフィールドが側面から重火力陣地を破壊した。


鉄板が舞い上がり、

炎の光が戦場を照らす。


◆◆◆


残ったのは――

中央のテントだけ。


ノアは呼吸を整え、

刃を構えた。


エンフィールドが隣に立つ。


「……ノア。」


「分かってる。」


二人は同時に駆け出した。

テントの幕を切り裂き、中へ飛び込む。


そこにいたのは――


作戦司令官でも、

通信兵でもなかった。


“ファンネル”と呼ばれる特殊部隊。

フルフェイスの防弾マスクを着け、

ナイフと小銃を持つ近接暗殺部隊。


十五名。


(……ここか。こいつらが“無音の夜”の中心だ。)


ノアは刃を構え――


前へ。


ファンネルが全員一斉に動く。

音がないのに、

殺気だけが喉を刺すほど鋭い。


エンフィールドとノアは無言で分かれ、

左右から切り込む。


ノアは一人目の胸を刺す。

二人目の腕を斬り落とす。

三人目はナイフを投げてくるが、

ノアは体をひねって避ける。


(……強い。)


同じ条件なら

普通の部隊では絶対勝てない。


だが。


ノアは三秒で七人倒し、

エンフィールドも同じタイミングで八人を制圧した。


最後の一人が逃げようとした瞬間、

ノアは背後に回り込み、

首元に刃を添えた。


(終わりだ。)


そのとき――

敵兵の胸から、

小型装置が落ちた。


ノアは拾い上げ、目を見開く。


(“音響抑制装置”。しかも……複製体の技術?)


エンフィールドが低く呟く。


「ノア……まさかこれは……」


ノアは装置を握りつぶし、言う。


「――これが“無音の夜”の始まりじゃない。

 もっと大きな何かの“前兆”だ。」


外の戦場で、

アシュレイの狙撃がまた光る。


ノアはその光を見て、

深く息をついた。


(……お前も気づいてるんだろうな。)


ガリレア砂漠戦線は、

この夜を境に大きく動き出した。


全ての“異変”は、

後のザラキエル事件へとつながっていく。

――次回更新:12月22日17:30公開予定


ブクマ・評価・感想が励みになります。


『ゼロバレット』続編、049話「開戦前夜 ― ガリレア砂漠へ」――


をお楽しみに!


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