042話 戦況反転 ― ガリレア走廊の死闘
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――ガリレア砂漠戦線・南部走廊地帯。
時刻 05時27分。
空はまだ暗く、
東から差し込む日の気配が、
ただ薄く砂丘の線を浮かび上がらせていた。
ゼロ班8名は、砂丘を越えて“走廊地帯”へ入り込んでいた。
ここはガリレア戦線の心臓部。
補給部隊が行き来する狭い一本道で、
支配すれば戦局を完全に覆す。
そして今、その走廊は――
敵軍4000名により封鎖 されていた。
燃える補給車両。
横転した装甲車。
地雷で抉れた路面。
銃声が絶えず、砂に血が混じる。
ノアは砂地に膝をつき、光学スコープで前方を確認した。
(……悪い。かなり悪い。)
敵は四層の防衛ラインを敷き、
丘上の狙撃部隊、
中央の重機、
後方には補給を潤沢に受けた中隊が控えている。
ゼロ班の装備は軽装のみ。
味方の主力はここにはいない。
サーシャが声を潜めて訊いた。
「……ゼロ班で、この走廊を突破できる?」
ノアはわずかに息を吐く。
「突破じゃない。“こじ開ける”。
ここを押し広げて、後続の友軍が通れる“穴”を作る。」
ジャドがニヤリと笑う。
「無茶苦茶だな。」
「はい。今回は本当に無茶です。」
イリヤが地図を広げる。
「でも、やるしかない。
隊長、命令を。」
全員の視線がバルドへ集まる。
バルドは短くうなずいた。
『……やるぞ。
ゼロ班は、戦況を“変えるために”存在する。』
ノアたちは一斉に武器を構えた。
◆
前方、敵軍の重機関銃が火を吹く。
――ダダダダダッ!!
砂が爆ぜ、岩が砕け、
視界が黄色く霞む。
ジャドが叫ぶ。
「距離300!重機六基!
生で突っ込んだら蜂の巣だぞ!」
サーシャが銃を構えた。
「ノア、撃つわよ――」
「待ってください。」
ノアは静かに敵陣を見据え、
その配置と癖を読み取っていた。
射手の肩の揺れ。
反動のクセ。
射線のずれ。
地形の歪み。
(……見える。)
「敵の射線、右側に偏ってます。」
ノアが指で砂丘の形を示す。
「重機の脚部が砂に沈んでいて、反動が右上がりになってる。」
「つまり?」
「射線の“穴”が……左斜面にある。」
レオンが無線で確認した。
「そこを走るって……?
距離300を遮蔽なしで抜けるのか?」
ノアは少し笑う。
「全員ではありません。
俺が走ります。」
サーシャが叫ぶ。
「また一人!?
ノア、それは――」
「違う。」
ノアは首を振った。
「今回は俺が走るんじゃない。
“俺を囮にしながら”、全員で押し込むんです。」
ジャドが目を見開いた。
「……走る奴が囮とか言うなよ……!」
イリヤが即座に判断する。
「隊長、撤回は?」
バルドはきっぱり言った。
『――無しだ。』
(ゼロ班は、ノアの判断を全面信頼している。)
誰も驚かない。
ただ、覚悟が静かに固まるだけ。
◆
――作戦開始。
ノアが砂丘を蹴った。
敵陣が一斉に叫ぶ。
「前方敵影!距離280!!」
「単独で突っ込んでくるぞ!!」
「撃てッ!!」
重機の弾幕が走り、
砂が爆ぜる。
ノアは弾丸の“揺れ”を読んでいた。
(右上がり……弾道の癖が一定。)
苛烈な銃撃を、
わずかな重心操作でかわしながら走る。
そして――
ノアは突然、砂丘の斜面に倒れ込んだ。
(……今。)
敵兵が叫ぶ。
「倒れた!仕留めたぞ!」
その0.4秒の“錯覚”の間に――
ゼロ班の影が斜面下から一斉に飛び出した。
サーシャとイリヤが狙撃。
ジャドとレオンが突撃。
ミアが擲弾を投げ、
バルドが突入の号令を張り上げた。
『全員前進!!
ノアが作った穴を通れ!!』
敵陣が完全に混乱する。
「なんだ!?別の小隊がいたのか!?」
「射線が崩れた!重機止まれ!」
「左から来てる!止めろ!!」
ノアが起き上がり、
機関銃の射手へ向かって走る。
1基目の射手を撃ち抜く。
2基目の脚部を蹴飛ばし、砂に沈めて機能停止。
3基目の装弾手を倒し、ジャドが斧で制圧。
重機六基は、わずか40秒で沈黙した。
◆
だが、本当の地獄はここからだった。
敵が後続を出してくる。
迫撃砲の砲弾が落ち、
砂と血が舞う。
「後退してるぞ!押し込め!!」
敵側の怒号が走る。
三方向から、300名以上の兵士が迫った。
ゼロ班は遮蔽物に隠れていたが、
敵は数の暴力を全力で押しつけてくる。
サーシャが叫ぶ。
「ノア!何か考えは!?」
ノアは敵陣の“動き”を見ていた。
(……後方の大隊が、もうすぐ攻撃に加わる。)
(この走廊――ここが崩れたら本当に戦線が壊滅する。)
けれど、不思議と焦りはなかった。
(……アシュレイ、そっちもまだ戦ってるんだろう。)
(なら、こっちも止まれない。)
ノアは短く言った。
「全員で左へ回り込みます。
敵の中央を貫いて、“縦に割る”。」
バルドがうなる。
『中央突破か……!』
「はい。
中央を割れば、敵の東西が孤立して動けなくなる。
その“数十秒”で、味方後続が走廊へ入れる。」
ジャドがニヤリとする。
「いいじゃねぇか。ゼロ班らしい作戦だ。」
ノアは銃を構え、ただ一言。
「行きます。」
◆
ゼロ班8名が、
敵軍300名へ向かって一直線に走り出した。
敵兵が慌てて叫ぶ。
「来るぞ!射線張れ!距離60!」
「伏せろ!突っ込んでくる!」
「数が少ない!潰せ!!」
ノアは先頭で射撃しながら走った。
ジャドが剛腕で敵を薙ぎ倒す。
サーシャが正確に敵の頭を撃ち抜く。
ミアとイリヤが後方支援し、
レオンが負傷兵を引きずりながらも前へ進む。
中央の敵部隊が怒号を上げた。
「止めろ!!通すな!!」
だが――
ゼロ班は止まらなかった。
ふたり、またふたりと倒し、
敵陣の中央へ 風穴 を開ける。
そしてノアが叫ぶ。
「――ここだ!!割れ!!」
サーシャとレオンが一斉に狙撃。
ジャドが装甲板を盾に突進し、
敵陣が“縦”に裂けた。
その瞬間。
背後から無線が入る。
【こちら第四機甲部隊!走廊開通を確認!
ゼロ班、よくやった!!】
味方の車両が次々に突入し、
走廊は完全に奪還された。
――その場にいた全員が実感した。
“戦局が変わった”。
◆
バルドが息を吐くように言った。
『……全員、生存。突破成功だ。』
ノアは砂丘の上から、
遠くの戦線を見つめた。
その方向――
違う戦場の別の丘で、
一人の狙撃手が同じ夜空を見上げていた。
アシュレイ・ケイン。
二人はまだ出会っていない。
だが――
同じ戦場で、同じ瞬間に。
互いの存在を確かに“感じて”いた。
(……まだ終わらない。
この戦争では、誰もが誰かの背を見ている。)
ノアは仲間たちの方へ歩き出した。
「行こう。
次が本当の地獄だ。」
ゼロ班8名は砂煙の中へ消えていった。
――生存者8名。
死者数、敵軍約980名。
走廊奪還により、ガリレア戦線は わずか七時間で戦況が逆転 した。
これがのちに語られる。
“ガリレア走廊の死闘”――ゼロ班の最初の伝説。
――次回更新:12月4日17:30公開予定
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『ゼロバレット』続編、043話「千砂丘の狙撃戦 ― アシュレイ視点①」――
をお楽しみに!




