041話 包囲突破 ― 灰の突破口
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――ガリレア砂漠戦線・第七補給区画外縁。
時刻 04時42分。
照明弾が夜空を裂き、
砂丘の影が千の兵影を形作る。
ノアたちゼロ班は、完全に包囲されていた。
敵兵は推定1200名。
重機関銃、迫撃砲、装甲車まで揃っている。
対して、こちらはたった 8名。
だが誰一人、怯えてはいなかった。
◆
バルド(隊長)が通信越しに声を張る。
『ノア!東側はどう見える!』
ノアは砂丘の稜線を走り、
双眼鏡代わりのモノキュラーを覗き込む。
「……東は200。
北から増援が来て、すぐ300になる。
こっちは“囮の壁”です。突破は不可能。」
バルドが歯を噛みしめる。
『そっちは――地雷原だ。
俺たちは動けん。』
「分かってます。」
ノアは静かに言った。
「敵が一番“薄い”のは、南側。
砂丘の斜面の奥に、遮蔽物が少しある。」
サーシャが息を飲む。
「でも南には重機関銃が三基……!」
「だからこそ、そこを突破します。」
ジャドが笑った。
「お前の“だからこそ”は信用できる。」
イリヤが肩を竦める。
「死ぬ気で走る作戦ね……。」
ノアはそれに否定もしない。
「……ゼロ班は、死ぬ気で走るために集められた部隊です。」
サーシャがフードを深くかぶり、
ライフルを抱えた。
「……分かった。
どうせ死ぬ気なら、生き残るつもりで走ろう。」
◆
ノアは短く指示を出す。
「まず俺が南斜面のMG(機関銃)を潰します。
その間に、全員は地雷原の“穴”を探して前進してください。」
レオンが驚く。
「待てノア!
MGは3基だぞ!?
あんな密度を一人で――」
ノアは淡々と答えた。
「走りながら撃ちます。」
ジャドが吹き出した。
「お前……なんでそれを“普通に”言えるんだよ。」
サーシャは反対しそうになるが、
ノアの目を見て言葉を飲み込んだ。
――本気だ。
この男は“できるから言っている”。
◆
照明弾が消える。
その0.5秒後――
ノアが“飛んだ”。
砂を蹴り、斜面を滑り降り、
敵陣へ一直線に突っ込む。
敵が一斉に叫ぶ。
「前方!敵影一!距離70!」
「射線取れ!!」
「撃てッ!!」
重機関銃の銃口が火花を散らす。
ノアは伏せず、止まらず、
ただ最短距離で走り続けた。
砂が跳ねる。
弾丸が彼の頬を掠め、
防弾服の表面に火花が散る。
だが――ノアは止まらない。
(……撃つ位置、呼吸、弾の癖……全部、見える。)
ノアは走りながら、
わずか1秒以内で銃の角度を読み、
MGの射線が止まる“最短の隙”を探し出す。
そして――
跳んだ。
跳躍は高くない。
むしろ人間らしい“約1.2m程度”の小さな跳躍。
しかしそのわずかな高さで、
MG三基の射線が一瞬揃う。
(ここだ。)
ノアは空中で銃を三度引いた。
――パンッ、パンッ、パンッ。
乾いた銃声。
走りながら放たれた弾丸は、
まるで導かれたように三つの銃座の射手を撃ち抜いた。
MGの火が止まる。
敵兵が悲鳴を上げる。
「一人で……!?一人で撃ち抜きやがった!!」
「馬鹿な……!あの距離で……!」
ノアは砂に着地し、
もう一度だけ大きく滑る。
砂丘の窪みに身体を落とし込むように伏せ、
背後へ合図を送った。
「――今です!」
◆
イリヤが叫ぶ。
「全員、前進!!」
ミアが必死に端末を操作し、
地雷の密度を推測する。
「ノアが走った地点の“南寄り”……
そこだけ地雷の反応がない!」
サーシャが息を切らしながら言う。
「ノアが通れる場所……
つまり――“人間がギリギリ通れる幅”だけ空いてるってことね!」
バルドが吠える。
『全員、死ぬ気で走れ!!』
ゼロ班が一斉に前へ走り出す。
MG三基が沈黙した今、
敵は乱れ、
射線も散っている。
その“数秒”が、ゼロ班にとって最大の好機だった。
◆
ノアは斜面の中腹から仲間たちを見ていた。
(……あとは、合流まで持たせるだけ。)
敵兵が怒号を上げながら
ノアへ一斉に向かってくる。
その数、50以上。
ノアはゆっくり立ち上がる。
「……時間稼ぎ、です。」
ジャドの声が無線に入る。
『ノア!!持ちこたえろ!!』
「はい。
楽勝ですこんなの!」
ノアの足元の砂が、
敵兵を迎えるように鳴った。
◆
――近距離戦。
ノアは斜面を利用して、
突っ込む敵の勢いを“利用”する。
前方から切りかかる兵の腕を掴み、
そのまま体重と重心をずらし、
背後へ放り投げる。
後ろの兵にぶつかり、
二人同時に倒れる。
ノアはその倒れた兵のライフルを拾い、
射線をわずかにズラしながら三点バーストで撃つ。
敵三名が崩れ落ちる。
(……息、右足の重心、ライフルの指癖、照準の癖。)
(全部見える。)
ノアはただ、淡々と敵を捌いていく。
やがて仲間たちが地雷原を抜け、
ノアの元へ到達した。
バルドが叫ぶ。
『ノア、後退しろ!!
全員揃った、次の遮蔽へ行くぞ!!』
ノアは深く息を吐いた。
「了解。」
――全員、生存。
それだけで十分だった。
◆
サーシャがノアの肩を支える。
「……本当に走りながらMG三基落とすなんて……人間じゃないわよ。」
ノアは苦笑する。
「人間ですよ。
ジャドよりは。」
ジャドが怒鳴る。
「おい、なんで俺基準なんだ!!」
レオンとミアが笑いながら立ち上がる。
「ノアが生きてる……」
「それだけで、隊が崩れない……」
バルドが最後尾から声を張る。
『まだ終わっていない!
次の目標地点に移動する!
“包囲を抜けた”だけだ!』
全員が頷く。
ノアはふと、夜空を見上げた。
照明弾の残光――
その上空、遠くの山脈に閃光が走る。
その方向は――アシュレイがいた戦線。
(……あいつも、戦ってる。)
ノアは目を細めて呟いた。
「――行こう。まだ終わりじゃない。」
ゼロ班8名は砂丘を駆け、
次の戦闘区域へ向かった。
敵1200名に包囲されながらも、
彼らはただの1名も欠けなかった。
“ゼロ班”は、この夜において――
すでに伝説となりつつあった。
――次回更新:12月2日17:30公開予定
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『ゼロバレット』続編、042話「戦況反転 ― ガリレア走廊の死闘」――
をお楽しみに!




