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ゼロバレット  作者: 水猫
ーーガリレア砂漠前線ーー(過去編)
38/74

038話 ゼロ班・第一次交戦

『ゼロバレット』の世界観やキャラ画像はこちら ↓


作者X(Twitter)で公開中!


https://x.com/MizunekoZeroB

――ガリレア砂漠戦線・東部前線。

時刻 22時17分。


夜の砂漠は、昼の灼熱とは別物だった。

骨の芯まで冷やすような風が装甲車両の側面を叩き、

暗闇の向こうでは断続的な砲声がくぐもって響いている。


「……接近音、右前方三キロ。味方の残存車両と思われる。」


双子の弟・レオンが、ヘッドセットに手を当てて言う。

車内の照明は赤一色。

座席に腰掛ける八人の顔を、ぼんやりと照らしていた。


「サーシャ、状況は?」


バルドが問う。

対面の席でタブレットを睨んでいたサーシャが、地図を指で拡大する。


「友軍第18機械化大隊、前線から三キロで完全に足止め。

 敵は少なくとも混成旅団規模(五〜八千)。

 戦車、対戦車ミサイル、迫撃砲……手一杯ね。」


イリヤが舌打ちする。


「そんな数相手に、また八人で穴埋めしろってわけ?」


サーシャは肩をすくめた。


「全員正面から潰せなんて言わないわ。

 私たちが狙うのは――指揮所と砲兵陣地。

 “頭”を落とせば、後は普通の部隊でも押し返せる。」


ジャドが笑う。


「頭だけなら、八人でちょうどいいな。」


「ノア。」


バルドが名前を呼ぶ。


「はい。」


「お前は先頭で“穴”を作れ。

 敵塹壕の前線を一気に突き抜けて、指揮所までのルートをこじ開けろ。」


「了解。」


その返事に、グレンが肩をすくめた。


「無茶言うよなぁ、隊長も。」


イリヤがノアの腕に軽く触れる。


「心拍、ちょっと上がってきたわね。……いい傾向よ。」


ノアは小さく息を吐いた。


「ただの準備です。」


サーシャが短く告げる。


「目標地点到達まで、あと五分。

 各自、装備チェック最終確認。」


それぞれが無言で武器を確かめる。


ノアは自分のアサルトライフルと、サイドの短銃、

腰のナイフの鞘に触れる。

指先の感触は、何度も繰り返した儀式のように落ち着いていた。


――カンッ。


装甲車の天板を叩く音。

バルドが立ち上がる。


「いいか。

 ここから先は、“普通の戦争”じゃない。

 敵の数も火力も、紙の上では俺たちの負けだ。」


彼はゆっくりと全員の顔を見渡した。


「だが俺たちは、紙の上で戦うわけじゃねぇ。

 現場で、撃って、歩いて、生き残った奴が勝ちだ。

 いつも通りやれ。」


「了解。」


八つの声が重なった。


――ギィィィ。


後部ハッチが開く。

砂漠の冷たい空気と、煙と、遠い爆音が流れ込んでくる。


ノアが先頭で飛び降りた。

乾いた砂を踏みしめる足の感触。

そのすぐ後ろに、他の七人の足音が続く。



■地獄の手前


前方、薄暗い凹地に、味方の車列が半壊しながら停まっていた。

損傷した装甲車両、炎上したトラック、

担架で運ばれる負傷兵。

砲撃の着弾音が近づいたり遠ざかったりしている。


バルドがひとりの将校に駆け寄る。


「第18機械化大隊の指揮官はどこだ?」


血で汚れたヘルメットの中年将校が、疲れきった目でゼロ班を見上げた。


「……あんたらが“ゼロ”か。

 よりによって、こんな地獄に。」


「状況を。」


「敵は前面に歩兵と戦車、中腹に対戦車陣地、

 その奥の砂丘に迫撃砲と多連装ロケット。

 こちらは正面突破を三度試みたが、全て潰された。」


将校は喉を鳴らした。


「だが、このラインを維持できなきゃ、後ろの都市が焼かれる。

 ……正直、もう打つ手がない。」


バルドはサーシャと目を合わせる。


「聞いた通りよ。」


サーシャは冷静な声で言う。


「ゼロ班は右翼の死角から浸透。

 敵の砲兵陣地を叩き、そのまま指揮所まで突っ込む。

 あなたたちは正面で牽制しながら、崩れた敵を押し返して。」


将校は乾いた笑いを漏らした。


「八人で、か?」


バルドはわずかに口角を上げる。


「八人だから“ゼロ”だ。

 ……おとなしく見ててくれ。派手にやる。」


ノアは一歩前に出て、わずかに頭を下げた。


「前線の座標をください。無駄死には、させません。」


将校は、そこで初めてノアの目をしっかり見た。

そこにあったのは、若さと、異常な静けさ。


「……頼んだぞ、少年。」




■浸透開始


夜の砂漠。

星の光だけがわずかに地形を照らしている。


ゼロ班は車両から離れ、右側面へ回り込んでいた。

砂丘と岩陰を縫うように進む。

レオンとミアのドローンが、低空で静かに滑っていく。


ミアの声がイヤホン越しに響く。


『前方百五十メートル、敵歩哨二名。

 その先に戦車一、歩兵小隊規模。』


グレンが立ち止まり、

砂丘の影から双眼鏡を覗いた。


「ノア。」


「はい。」


「あの二人、静かに落とせるか?」


ノアは一度だけ頷くと、

ライフルからサプレッサー付きのサイドアームに切り替えた。


砂の感触を殺すように足を運ぶ。

風下に回り、息を潜める。


――距離、二十メートル。

敵兵の会話がかすかに聞こえる。


「……なぁ、本当に来ると思うかよ、“零”なんて。」


「知らねぇよ。上は騒いでたがな。

 “向こうがゼロを出したら、この戦争は終わる”って。」


ノアは、心の中でだけ苦笑した。


(俺もそう思ってる。)


――スッ。


右の兵の首に腕を回し、口を塞ぎながらナイフを差し込む。

左の兵の口元が動いた瞬間、サプレッサー付きの弾丸が喉を撃ち抜いた。


二人の身体が砂の上に崩れ落ちる。

音は、風の音にも紛れる程度だった。


ノアは合図し、バルドたちを呼び寄せる。


「クリア。前進できます。」


サーシャの声が静かに重なる。


『ここから先は速さ優先。

 敵に“何が起きたか理解させない”うちに、砲兵陣地まで到達する。』


「了解。」




■砲兵陣地への突撃


砂丘の稜線の向こう側――

無数の迫撃砲とロケットランチャーが、地面に並んでいた。


敵兵は皆、前方の戦線に視線を向けている。

背後に、たった八人の死神が近づいていることを知らない。


レオンが小声でカウントを始める。


「砲兵、目視で三十。補給要員含め五十以上。

 戦闘車両、軽装甲車三。……ノア、正面開けられる?」


「やります。」


バルドが短く命じる。


「ノア、グレン。正面突破。

 イリヤとジャドは後衛からフォロー。

 双子は側面警戒。サーシャは後方から全体指揮。」


「了解。」


ノアはライフルを構え、

砂丘の稜線に足をかけた。


その瞬間――


「撃て。」


バルドの低い声が聞こえた。


ノアは躊躇なく、稜線を駆け下りた。


夜風を切る。

視界が揺れる。

目の前に、まだこちらの存在に気づいていない砲兵たちの背中。


反動の少ない連射。

ヘッドショット、喉、心臓。

銃声は抑えきれないが、撃たれた側が声を上げる前に倒していく。


「――敵後方からの襲撃! 数不明!」


誰かの叫びが届いた。


そこでようやく、陣地がこちらを向く。

だが、そのときにはノアはすでに砲列のど真ん中にいた。


「散開しろ!」


グレンの狙撃が、一番最初に反応した兵士の頭を吹き飛ばす。

続けざまに、サプレッサー付きの遠距離射撃が

正確に機関銃手を沈黙させた。


ジャドが煙幕弾を投げ込み、

イリヤがその影から奪った武器をノアに放り投げる。


「はい、追加!」


ノアはそのまま空中でライフルを受け取り、

すぐさま左側の砲兵三人をまとめて撃ち抜いた。


目の前で、敵兵がパニックになる。


「味方か!? 後方守備は何をしてる!」


「分からねぇ! 影も見えねぇ! いきなり奴らが――」


その「いきなり」の中身がノアだった。


彼はただ、

もっとも近い者を撃ち、

動いた者を撃ち、

武器に手を伸ばした者を撃ち、

背中を見せた者を撃っていった。


恐怖も、迷いも、考える暇もない。

――あるのは、「次に誰を撃つか」だけだった。


やがて砲兵陣地は、十数分で沈黙した。


バルドが通信でサーシャに問う。


「砲撃は?」


『停止。前線への砲撃ログゼロ。

 第18機械化大隊、前進開始。』


イリヤが息を吐く。


「……ねぇノア。今、自分が何人撃ったか分かる?」


ノアは答えず、

ただ弾倉を交換していた。


「数えてる暇はありません。」


「そう。」


イリヤはそれ以上何も言わず、

彼の腕に一瞬だけ手を置いた。


「なら私が後で数えてあげる。

 あなたが背負ってる分も、全部。」




■遠くの狙撃手


戦場の少し離れた丘の上――


別の部隊の狙撃手が、

遠距離スコープ越しにこの光景を見ていた。


「……おい、いま砲兵陣地、何が起きた?」


隣の観測手が慌てて無線を調整する。


『後方からの友軍特殊部隊による浸透との報告。

 詳細不明。“ゼロ班”と推定。』


スコープの中で、

一人だけ、異常な速度で動く影が見える。


敵陣を縫い、砲兵を次々と沈めていく、

黒いシルエット。


「……はは。なんだありゃ。」


狙撃手は少しだけ笑った。


「じゃあ、こっちはその“ゼロ”が撃ち漏らしたやつを拾ってくか。」


コールサインは《Silver-3》。

のちに世界ランク11位――

アシュレイ・ケインと呼ばれる狙撃手だった。


このとき、彼もまた、

自分が“あの影”といつか肩を並べて戦うことになるとは知らない。


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