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ゼロバレット  作者: 水猫
ーー集合と選択 ― アシュレイ加入編ーー
33/75

033話 灰の契約 ― 天秤の上で

『ゼロバレット』の世界観やキャラ画像はこちら ↓


作者X(Twitter)で公開中!


https://x.com/MizunekoZeroB

――港湾区外れ、旧輸送倉庫D群。


夜明け前の空は、まだ薄い灰色をしていた。

海風が吹き抜け、焦げた鉄の匂いが鼻を刺す。

静まり返った倉庫群の中に、エンジン音が一つ。

黒いSUVがゆっくりと滑り込み、止まった。


運転席からネロが降り、煙草を咥えながら辺りを見渡す。

助手席のカサンドラが端末を開き、

後部座席からソフィアが降り立つ。

彼女のブーツが濡れた地面を踏み、音を立てた。


「……ノアたちは地下から脱出済み。カインが先に上げたわ。」

カサンドラが報告すると、

ソフィアは小さく頷き、薄く唇を結ぶ。


「なら、ここで合流ね。」


霧の向こう、歩いてくる二つの影。

ノアとアシュレイだった。

二人とも服に煤がつき、息を荒げている。

それでも、戦場を抜けた者の目をしていた。


「遅くなった。」

ノアの声は低く、落ち着いていた。


「無事ならそれでいい。」

ソフィアが返す。

だがその瞳には、安堵よりも“確認”の色があった。


ネロが煙を吐きながら口を開く。

「地下炉はどうだった?」


アシュレイが答える。

「地獄の入口だな。……だが“模造体”は沈んだ。

 ただ、あれは終わりじゃねぇ。学習してた。――次がある。」


ノアが頷く。

「ザラキエルの手は、まだ地上に残っている。」


沈黙。

風が吹き、遠くの鉄塔が軋んだ。


そのとき、ソフィアが一歩前へ出る。

「……アシュレイ・ケイン。」


名を呼ばれた彼が振り向く。

「なんだ?」


ソフィアはまっすぐに彼を見つめた。

その瞳に、威圧も感情もなかった。

ただ、決定を下す者の目。


「拠点へ戻る前に――ひとつ、決めなければならないことがある。」


アシュレイの眉が動く。

「決める?」


「ええ。あなたを、このまま“連れて帰るかどうか”。」


空気が、止まった。

ノアがわずかに顔を上げる。

アシュレイは半歩だけ後ろに下がり、

右手を自然と腰のホルスターへ。


だが、ノアが短く言った。

「落ち着け。――これは手順だ。」


ネロが低く付け加える。

「ゼロバレットの拠点は、国家単位で秘匿されてる。

 部外者を連れ帰るわけにはいかねぇ。」


ソフィアが静かに続ける。

「あなたは作戦中、内部データや戦闘記録を目にした。

 もし、それを他に漏らせば、多くの人間が死ぬ。

 だから――ここで選ぶの。」


「仲間になるか、ここで終わるか。」


アシュレイが短く息を吐き、笑った。

「……脅しか、女幹部。」


「確認よ。」

ソフィアの声は冷たくも、真っ直ぐだった。

「この秤に乗る資格があるか、あなた自身で測りなさい。」


灰色の朝。

沈黙が長く伸びる。


やがて、アシュレイはホルスターから銃を抜いた。

ネロがわずかに構えたが、

彼はそのまま銃を逆手に持ち替え、地面へ落とした。


カラン、と金属音が響く。


「この銃で、雇われて敵を撃ってきた。

 命令に従うだけの兵士でいるのは、もう飽きた。」

彼は顔を上げる。

「もしお前らが本気で“人間”の秩序を取り戻すつもりなら――俺は、その引き金を引く。」


短い静寂のあと、ソフィアが息を吐いた。

そして、歩み寄る。


「なら、今からあなたはゼロバレット暫定所属。

 指揮系統は私を通す。勝手な行動は許可しない。

 拒否するなら、この場で記憶を消去して放逐する。」


アシュレイが薄く笑った。

「……厳しい職場だな。」


「自由を与える代わりに、命を預けてもらうだけ。」


アシュレイは少し黙ってから、

ゆっくりと頷いた。

「いいだろ。――乗った。」


その瞬間、緊張が少しだけ緩む。

ネロが笑い、煙を吐いた。

「また面倒なやつが増えたな。」

カサンドラが肩をすくめる。

「バランスが取れてるってことよ。秤は傾いたほうが動く。」


ノアが静かに言った。

「……これで、ようやく“形”になる。」


カインがヘリの準備を終えて声をかけた。

「出発できるぞ。拠点へは北ルートだ。」


ソフィアはアシュレイの前を通り過ぎ、

小さく言葉を残した。


「――ようこそ、“灰の天秤”へ。」


アシュレイは短く息を吐き、

「軽くねぇ歓迎だな。」と苦笑する。


ヘリのローターが回り始め、

灰が舞い上がる。

朝の光がようやく海面に反射し、

港湾区の瓦礫を照らした。


ノア、ソフィア、アシュレイ、ネロ、カサンドラ――

灰の中で、新たな“均衡”が静かに結ばれていた。

――次回更新:明日17:30公開予定


ブクマ・評価・感想が励みになります。


『ゼロバレット』続編、034話「選択と秤」――


をお楽しみに!


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