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ゼロバレット  作者: 水猫
ーー集合と選択 ― アシュレイ加入編ーー
32/75

032話 取引の影 ― 灰の市場にて

『ゼロバレット』の世界観やキャラ画像はこちら ↓


作者X(Twitter)で公開中!


https://x.com/MizunekoZeroB

――東部経済圏、バルディア旧港区。

夜霧が港を覆い、遠くの海鳴りが鈍く響く。

そこは、かつて交易都市として栄え、今は密売と情報が交わる裏の市場バルディア・リンク

法も秩序もここではただの飾り。

現金と沈黙こそが、唯一のルールだった。


装甲車のドアが静かに開く。

降り立ったのは、漆黒のスーツに身を包んだ女――ソフィア・ヴァレンタイン。

その後ろに、無言で歩く男――ネロ。

そして、白いコートの裾を翻しながら歩く女――カサンドラ・リース。

ゼロバレットの別班、“交渉・内部粛清部門”。


「時間ぴったりね。」

ソフィアが銀のライターを弾き、青白い火を灯す。

ネロが周囲の警戒を怠らずに言う。

「向こうの監視ドローン、三機。……狙ってるつもりはねぇが、逃げ道は塞いでるな。」

「そういう場所よ。」カサンドラが低く答えた。

「この街で命の値段は、情報の重さで決まる。」


倉庫の奥、無骨な机を挟んで待っていた男がひとり。

灰色のスーツ、眼鏡、指には企業のロゴ入りのリング。

――ミロス・ケイン。表向きは中小エネルギー企業の取締役。裏では、

ザラキエルが流した“神兵計画”の技術データを闇市場に流すルートを握っている。


「……まさか、“白き天秤”のご登場とはな。」

ミロスは苦笑を浮かべながらも、目は笑っていない。

「秩序側の掃除屋が、交渉の席につくなんて。」

ソフィアは座り、淡々と答える。

「掃除も秩序の一部よ。あなたたちが撒いた灰を、誰かが片付けるだけ。」


カサンドラが腕を組んで続ける。

「Prototype系列の流通経路。リスボニア自治区からバルディアへ。

 そして、あなたたち《ヴァルナ社中》が仲介。間違いないわね?」

ミロスが煙草を取り出し、火をつけた。

「ええ。ただし、俺たちは“運んで”いただけだ。

 本当の送り主は別にいる。……《設計者》だ。」


その言葉に、カサンドラの眉が動く。

ネロが短く問い返す。

「ザラキエルの本名は?」

ミロスは笑った。

「そんなもん、知る奴が生き残れると思うか?」


ソフィアがゆっくりとライターの火を吹き消した。

「じゃあ――取引成立ね。

 あなたの沈黙は、“一級情報”として扱う。」


ミロスが訝しげに眉をひそめたその瞬間、

倉庫の外で、乾いた銃声。

空気が一瞬で張りつめる。


ネロが即座に動く。

無音のまま、入口付近に膝をつき、銃を抜いた。

「……外だ。五、いや六人。装備が軽すぎる。民間警備じゃねぇ。」


カサンドラが低く言う。

「“抹消部隊”ね。ザラキエルの。」

ソフィアは冷静にミロスへ視線を戻す。

「あなた、通報した?」

「してねぇ! 俺を消す気だ、あいつら!」


外の影が動いた瞬間、ネロが発砲。

サプレッサーの音だけが低く響く。

血が壁に散る。

中へ飛び込んできた二人を、カサンドラが仕込み銃で一瞬で沈めた。


ソフィアは席を立ち、煙草を踏み消す。

「……取引終了。

 目的は“会話”じゃない、“証明”よ。」


彼女はミロスの前に歩み寄り、耳元で囁く。

「あなたが持つ《ザラキエルの通信暗号》。それだけで十分。」

ミロスの顔が青ざめる。

「……そんなもん、持ってねぇ……!」

「あなたの呼吸が嘘をついたわ。」

ライターの火が再び点く。

ネロが黙ってUSBチップを机から抜き取った。


倉庫を出たとき、風が変わっていた。

海から冷たい霧が流れ込み、街灯がぼやける。

カサンドラが小さく呟いた。

「……神の工場。まさか実在するとはね。」

ソフィアが煙草の煙を吐き、言った。

「秩序を作ったのが人なら、神もまた“製造物”よ。」


三人は夜の街を歩き去る。

後ろでは、取引倉庫が静かに炎を上げていた。



――次回更新:明日17:30公開予定


ブクマ・評価・感想が励みになります。


『ゼロバレット』続編、033話「灰の契約 ― 天秤の上で」――


をお楽しみに!


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