032話 取引の影 ― 灰の市場にて
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――東部経済圏、バルディア旧港区。
夜霧が港を覆い、遠くの海鳴りが鈍く響く。
そこは、かつて交易都市として栄え、今は密売と情報が交わる裏の市場。
法も秩序もここではただの飾り。
現金と沈黙こそが、唯一のルールだった。
装甲車のドアが静かに開く。
降り立ったのは、漆黒のスーツに身を包んだ女――ソフィア・ヴァレンタイン。
その後ろに、無言で歩く男――ネロ。
そして、白いコートの裾を翻しながら歩く女――カサンドラ・リース。
ゼロバレットの別班、“交渉・内部粛清部門”。
「時間ぴったりね。」
ソフィアが銀のライターを弾き、青白い火を灯す。
ネロが周囲の警戒を怠らずに言う。
「向こうの監視ドローン、三機。……狙ってるつもりはねぇが、逃げ道は塞いでるな。」
「そういう場所よ。」カサンドラが低く答えた。
「この街で命の値段は、情報の重さで決まる。」
倉庫の奥、無骨な机を挟んで待っていた男がひとり。
灰色のスーツ、眼鏡、指には企業のロゴ入りのリング。
――ミロス・ケイン。表向きは中小エネルギー企業の取締役。裏では、
ザラキエルが流した“神兵計画”の技術データを闇市場に流すルートを握っている。
「……まさか、“白き天秤”のご登場とはな。」
ミロスは苦笑を浮かべながらも、目は笑っていない。
「秩序側の掃除屋が、交渉の席につくなんて。」
ソフィアは座り、淡々と答える。
「掃除も秩序の一部よ。あなたたちが撒いた灰を、誰かが片付けるだけ。」
カサンドラが腕を組んで続ける。
「Prototype系列の流通経路。リスボニア自治区からバルディアへ。
そして、あなたたち《ヴァルナ社中》が仲介。間違いないわね?」
ミロスが煙草を取り出し、火をつけた。
「ええ。ただし、俺たちは“運んで”いただけだ。
本当の送り主は別にいる。……《設計者》だ。」
その言葉に、カサンドラの眉が動く。
ネロが短く問い返す。
「ザラキエルの本名は?」
ミロスは笑った。
「そんなもん、知る奴が生き残れると思うか?」
ソフィアがゆっくりとライターの火を吹き消した。
「じゃあ――取引成立ね。
あなたの沈黙は、“一級情報”として扱う。」
ミロスが訝しげに眉をひそめたその瞬間、
倉庫の外で、乾いた銃声。
空気が一瞬で張りつめる。
ネロが即座に動く。
無音のまま、入口付近に膝をつき、銃を抜いた。
「……外だ。五、いや六人。装備が軽すぎる。民間警備じゃねぇ。」
カサンドラが低く言う。
「“抹消部隊”ね。ザラキエルの。」
ソフィアは冷静にミロスへ視線を戻す。
「あなた、通報した?」
「してねぇ! 俺を消す気だ、あいつら!」
外の影が動いた瞬間、ネロが発砲。
サプレッサーの音だけが低く響く。
血が壁に散る。
中へ飛び込んできた二人を、カサンドラが仕込み銃で一瞬で沈めた。
ソフィアは席を立ち、煙草を踏み消す。
「……取引終了。
目的は“会話”じゃない、“証明”よ。」
彼女はミロスの前に歩み寄り、耳元で囁く。
「あなたが持つ《ザラキエルの通信暗号》。それだけで十分。」
ミロスの顔が青ざめる。
「……そんなもん、持ってねぇ……!」
「あなたの呼吸が嘘をついたわ。」
ライターの火が再び点く。
ネロが黙ってUSBチップを机から抜き取った。
倉庫を出たとき、風が変わっていた。
海から冷たい霧が流れ込み、街灯がぼやける。
カサンドラが小さく呟いた。
「……神の工場。まさか実在するとはね。」
ソフィアが煙草の煙を吐き、言った。
「秩序を作ったのが人なら、神もまた“製造物”よ。」
三人は夜の街を歩き去る。
後ろでは、取引倉庫が静かに炎を上げていた。
――次回更新:明日17:30公開予定
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『ゼロバレット』続編、033話「灰の契約 ― 天秤の上で」――
をお楽しみに!




