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ゼロバレット  作者: 水猫
ーー集合と選択 ― アシュレイ加入編ーー
31/74

031話 帰還 ― 崩落する街にて

『ゼロバレット』の世界観やキャラ画像はこちら ↓


作者X(Twitter)で公開中!


https://x.com/MizunekoZeroB

――港湾区・旧動力炉跡地下。


赤い警告灯が、断続的に点滅していた。

ノアは肩で息をしながら、崩れかけた通路を見上げる。

壁が軋み、鉄骨がひしゃげる音。

地下炉は、限界を超えていた。


「……アシュレイ、立てるか。」

「問題ねぇよ。足は残ってる。」

苦笑しながら立ち上がるアシュレイの肩には、煤と血が混じっていた。


二人の背後では、かつて《Prototype-05/END》が収まっていた球体が崩壊していく。

内部から噴き出す蒸気と電磁の光が、まるで呼吸のように脈打っていた。


「――撤退だ。」

ノアの短い一言で、二人は駆け出した。


天井が崩落し、通路が塞がる。

アシュレイが即座に反応し、ライフルのストックで破片を弾く。

「クソ、ここも持たねぇ!」

ノアが手首の端末を叩き、通信回線を開く。

「……ネオン、聞こえるか。」


雑音混じりの声が返ってくる。

『聞こえてる! 出口B-12がまだ生きてる、北側へ向かって!』

「了解。」


二人は廊下を駆け抜けた。

頭上から落ちてくる鋼片を避け、溶けたケーブルを踏み越える。

空気が重く、熱が肺を焼く。


――それでも、ノアの目は冷静だった。


背後で、何かが崩れ落ちる音。

アシュレイが振り返ると、そこには赤く光る残骸。

《END》の断片が、まだ“動いて”いた。


「……おい、まだ息してるぞ。」

「放っておけ。もう“体”じゃない。」

ノアの声には、どこか割り切れない響きがあった。


やがて、通路の先に金属扉が見えた。

ネオンの誘導どおり、最後の出口――B-12。

ノアがパネルを操作すると、老朽化したロックが悲鳴を上げて開く。


冷たい外気が流れ込んだ。


――地上。


崩れた港湾区の空が、灰色に霞んでいる。

遠くで炎が立ち上り、風に灰が舞う。

無音の空。

だが、ようやく呼吸できる空気だった。


アシュレイがヘルメットを脱ぎ、荒い息を吐く。

「やっと外だ……。地獄みたいな匂いだな。」

ノアは無言で空を見上げる。

曇天の向こうに、黒い影が近づいてくるのが見えた。


ローター音。

上空を旋回する軍用ヘリ。


「……来たか。」

アシュレイとノアが笑う。

「カインの奴、タイミングだけはいいな。」


ヘリが低空で旋回し、サーチライトが二人を照らす。

ノイズ混じりの通信が入った。


『――こちらカイン。二人とも、生きてるな?』

「ぎりぎりな。」アシュレイが答える。

『地下の信号が途絶えた時は冷や汗もんだったぞ。……よく戻った。』

「後で褒めてくれ。今は、風に当たりてぇ。」


ヘリのワイヤーが降りてくる。

ノアが先に掴み、アシュレイが続く。

上昇する振動の中、崩壊する街並みが遠ざかっていった。


――アルディナ拠点・作戦指令室。


ネオンがヘッドセットを外し、深く息を吐いた。

「……生還確認。二名とも収容完了。」

リリスが小さく微笑む。

「これで、一区切りね。」


ルアンは黙ってモニターを見つめたまま言った。

「だが、05は完全には消滅していない。断片データが、どこかへ転送された。」

ネオンの表情が曇る。

「“神の意志”は、まだ動いてる……。」


――同時刻、ヘリ内部。


カインが操縦席越しに振り返る。

「お前ら、また地下で何か化け物に会ったんだろ?」

アシュレイが苦笑した。

「まぁな。神様の試作品ってやつだ。」

「……相変わらず、洒落にならねぇ。」

カインが操縦桿を軽く叩いた。

「拠点に戻ったら、ネオンが報告書地獄だぞ。覚悟しとけ。」


アシュレイが笑い、ノアは少しだけ口元を緩めた。


窓の外では、灰色の雲が流れていく。

地上の瓦礫の海が、少しずつ遠ざかる。


ノアは静かに呟いた。

「……まだ、終わってない。」


その横顔を、アシュレイは横目で見た。

「終わらせりゃいい。俺たちでな。」


ヘリが雲の上へと抜けた瞬間、光が差した。

淡い朝の色が、港湾区を照らす。


それは、長い夜を抜けた者たちだけが見ることのできる、

静かな“始まり”の光だった。



――次回更新:明日17:30公開予定


ブクマ・評価・感想が励みになります。


『ゼロバレット』続編、032話「取引の影 ― 灰の市場にて」――


をお楽しみに!


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