031話 帰還 ― 崩落する街にて
『ゼロバレット』の世界観やキャラ画像はこちら ↓
作者X(Twitter)で公開中!
https://x.com/MizunekoZeroB
――港湾区・旧動力炉跡地下。
赤い警告灯が、断続的に点滅していた。
ノアは肩で息をしながら、崩れかけた通路を見上げる。
壁が軋み、鉄骨がひしゃげる音。
地下炉は、限界を超えていた。
「……アシュレイ、立てるか。」
「問題ねぇよ。足は残ってる。」
苦笑しながら立ち上がるアシュレイの肩には、煤と血が混じっていた。
二人の背後では、かつて《Prototype-05/END》が収まっていた球体が崩壊していく。
内部から噴き出す蒸気と電磁の光が、まるで呼吸のように脈打っていた。
「――撤退だ。」
ノアの短い一言で、二人は駆け出した。
天井が崩落し、通路が塞がる。
アシュレイが即座に反応し、ライフルのストックで破片を弾く。
「クソ、ここも持たねぇ!」
ノアが手首の端末を叩き、通信回線を開く。
「……ネオン、聞こえるか。」
雑音混じりの声が返ってくる。
『聞こえてる! 出口B-12がまだ生きてる、北側へ向かって!』
「了解。」
二人は廊下を駆け抜けた。
頭上から落ちてくる鋼片を避け、溶けたケーブルを踏み越える。
空気が重く、熱が肺を焼く。
――それでも、ノアの目は冷静だった。
背後で、何かが崩れ落ちる音。
アシュレイが振り返ると、そこには赤く光る残骸。
《END》の断片が、まだ“動いて”いた。
「……おい、まだ息してるぞ。」
「放っておけ。もう“体”じゃない。」
ノアの声には、どこか割り切れない響きがあった。
やがて、通路の先に金属扉が見えた。
ネオンの誘導どおり、最後の出口――B-12。
ノアがパネルを操作すると、老朽化したロックが悲鳴を上げて開く。
冷たい外気が流れ込んだ。
――地上。
崩れた港湾区の空が、灰色に霞んでいる。
遠くで炎が立ち上り、風に灰が舞う。
無音の空。
だが、ようやく呼吸できる空気だった。
アシュレイがヘルメットを脱ぎ、荒い息を吐く。
「やっと外だ……。地獄みたいな匂いだな。」
ノアは無言で空を見上げる。
曇天の向こうに、黒い影が近づいてくるのが見えた。
ローター音。
上空を旋回する軍用ヘリ。
「……来たか。」
アシュレイとノアが笑う。
「カインの奴、タイミングだけはいいな。」
ヘリが低空で旋回し、サーチライトが二人を照らす。
ノイズ混じりの通信が入った。
『――こちらカイン。二人とも、生きてるな?』
「ぎりぎりな。」アシュレイが答える。
『地下の信号が途絶えた時は冷や汗もんだったぞ。……よく戻った。』
「後で褒めてくれ。今は、風に当たりてぇ。」
ヘリのワイヤーが降りてくる。
ノアが先に掴み、アシュレイが続く。
上昇する振動の中、崩壊する街並みが遠ざかっていった。
――アルディナ拠点・作戦指令室。
ネオンがヘッドセットを外し、深く息を吐いた。
「……生還確認。二名とも収容完了。」
リリスが小さく微笑む。
「これで、一区切りね。」
ルアンは黙ってモニターを見つめたまま言った。
「だが、05は完全には消滅していない。断片データが、どこかへ転送された。」
ネオンの表情が曇る。
「“神の意志”は、まだ動いてる……。」
――同時刻、ヘリ内部。
カインが操縦席越しに振り返る。
「お前ら、また地下で何か化け物に会ったんだろ?」
アシュレイが苦笑した。
「まぁな。神様の試作品ってやつだ。」
「……相変わらず、洒落にならねぇ。」
カインが操縦桿を軽く叩いた。
「拠点に戻ったら、ネオンが報告書地獄だぞ。覚悟しとけ。」
アシュレイが笑い、ノアは少しだけ口元を緩めた。
窓の外では、灰色の雲が流れていく。
地上の瓦礫の海が、少しずつ遠ざかる。
ノアは静かに呟いた。
「……まだ、終わってない。」
その横顔を、アシュレイは横目で見た。
「終わらせりゃいい。俺たちでな。」
ヘリが雲の上へと抜けた瞬間、光が差した。
淡い朝の色が、港湾区を照らす。
それは、長い夜を抜けた者たちだけが見ることのできる、
静かな“始まり”の光だった。
――次回更新:明日17:30公開予定
ブクマ・評価・感想が励みになります。
『ゼロバレット』続編、032話「取引の影 ― 灰の市場にて」――
をお楽しみに!




