030話 胎動 ― Prototype-05/END
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――アルディナ拠点・情報観測室。
ホログラムの光が、夜のような青を床に落としていた。
ネオンの指先が走るたび、無数のデータ波形が浮かび上がる。
熱源反応、電磁脈動、神経シミュレーションの断片。
どれも常識では説明できないパターンを描いていた。
「……この波形、明らかに人工的ね。けど……生体信号でもある。」
リリスが小さく呟く。
モニターの一つには、港湾区地下第12層の地形データ。
中心には、巨大な球体――《Prototype-05/END》と識別される存在。
ルアンが腕を組み、静かに言った。
「心拍数……いや、波形周期がノアと完全に一致している。」
「共鳴してるの?」
「違う。――模倣だ。」
ネオンの声が低く響く。
「05は、対象の神経波形を“学習して再構築”する。
つまり、ノアを見た瞬間、その存在を“上書き”し始めた。」
リリスが息を飲む。
「そんなもの、制御できるわけがない……。」
「制御するための器官がない。だから暴走する。
05は、自己成長型の“未完成の神”よ。」
ネオンが通信回線を繋げる。
――ノイズ交じりに、二人の声が入った。
『……こちらノア。中央炉に到達。異常な反応――視覚的模倣を確認。』
『アシュレイだ。球体が動いてやがる。まるで心臓だな。』
ネオンの目が鋭くなる。
「ノア、データを送って。観測を継続するわ。」
『了解――。』
映像が切り替わる。
赤黒い霧に包まれた鉄橋。
その中央で、二つの影が対峙していた。
ノアと、もう一人の“ノア”。
――模造体。
リリスが息を呑む。
「似てる……表情の癖まで同じ。」
「戦闘ログを使って構築されたなら当然ね。」
ネオンは指を止めず、データを重ねる。
「ただ、完璧じゃない。動作信号に0.03秒の遅延がある。
――まだ、“学習中”。」
――現場。
アシュレイがスコープを覗き込む。
「おいノア、相手、完全にお前だ。」
ノアは構えたまま目を細める。
「……ああ、でも、俺じゃない。」
二人の刃が交差する。
金属が擦れる音。
火花が散り、床の配線が焼け焦げる。
模造ノアの動きは、まるで鏡のよう。
踏み込み、体のひねり、視線の動き。すべてが一致していた。
「……やばいな。こいつ、俺たちの攻撃予測して動いてるぞ。」
アシュレイが呟く。
『それが05の構造よ。』
ネオンの声が通信に割り込む。
『機械的な反応じゃない。“学習する反射”。
つまり――ノアの戦闘パターンを使って、ノアを殺す。』
「ありがてぇ情報だな……!」
アシュレイが息を吐き、再装填する。
「だったら、学べない速度で撃つだけだ。」
ノアが頷く。
「――合わせる。」
次の瞬間、ノアが地面を蹴った。
灰を舞い上げながら、刃が閃く。
模造体も動いた。
だがその瞬間、アシュレイのスコープに一瞬の“ノイズ”が走る。
射線上の影がわずかにブレた。
「……今だ!」
銀弾が放たれた。
音より速く、空気を裂く。
模造体が受け止めようと腕を上げるが――遅れた。
弾丸が右肩を貫く。
赤い液体が飛び散り、壁を染める。
だが、数秒後には再生が始まった。
『……再生速度、通常生体の百倍。自己修復に制限がない。』
ネオンの声が冷たく響く。
『けど、修復優先度を操作すれば止められる。
ノア、狙うなら“神経同期核”。胸部中央、赤い発光部よ。』
ノアは小さく頷いた。
「了解。」
模造体が再び構える。
二人の距離、約三メートル。
呼吸が一つ、ずれる。
ノアが刃を滑らせ、すれ違いざまに切り上げた。
火花。
次の瞬間、アシュレイの銃声。
銀弾が斜めに走り、ノアの刃の軌跡をなぞるように飛ぶ。
刃と弾丸の軌道が交差する。
模造体の胸を貫通し、光が弾けた。
赤い液体が霧のように広がる。
ノアは跳び退き、距離を取る。
模造体がよろめき、膝をついた。
胸部の発光が点滅を繰り返す。
――だが止まらない。
「くそ、まだ動くのか!」
アシュレイが叫ぶ。
『中枢が二重構造になってる。上層だけ破壊しても意味がない!』
ネオンの声が急ぐ。
『ノア、貫通させて! 弾丸の熱で溶かせ!』
ノアがうなずき、ブランク・リッジを両手で握った。
アシュレイが再装填。
「一発、同期する。タイミング合わせろ。」
「……三秒後。」
二人の視線が合う。
――三、二、一。
ノアが跳ぶ。
蒼白の閃光。
アシュレイがトリガーを引いた瞬間、刃と弾丸が同軌道で突き刺さった。
《Prototype-05》の胸が爆ぜる。
赤い液体が蒸発し、残骸が崩れ落ちる。
熱風が吹き抜け、地下全体が震えた。
――静寂。
ノアはゆっくりと膝をつく。
息を吐く音だけが響く。
アシュレイが近寄り、苦笑した。
「お前、いつもギリギリだな。」
「……計算通りだ。」
「どの口が言う。」
二人のやり取りを聞きながら、ネオンはデータを解析していた。
だが、ひとつの波形が彼女の視線を止めた。
「……待って。」
リリスが顔を上げる。
「何?」
「この信号……止まってない。」
ルアンが覗き込む。
「再起動か?」
「違う。これは――複製信号。」
画面上に、赤い波形が増殖していく。
一つが二つ、二つが四つ。
同一周波数のコピーが、世界中のネット回線へ流れ始めていた。
ネオンの表情が凍る。
「まさか……05の学習データが“送信”されてる?」
「どこに?」
「不明。……でも、今この瞬間も、誰かがそれを受け取ってる。」
――現場。
ノアが壁に手をつき、息を整えた。
アシュレイが周囲を警戒しながら言う。
「なぁノア……今、笑ったような声がしなかったか?」
ノアは顔を上げた。
霧の奥、崩れた冷却槽の向こうで――
“誰か”が立っていた。
黒いローブ、白銀の仮面。
その胸には、完璧な“天秤”の紋章。
ネオンの声が無線越しに震えた。
『ノア、撤退して! ――それ、ザラキエルよ!!』
ノアは刃を構え、低く呟いた。
「……ようやく、顔を出したか。」
地下炉が唸り、世界が赤に染まる。
そして、“神の秩序”が再び目を覚ました。
――次回更新:明日17:30公開予定
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『ゼロバレット』続編、031話「帰還 ― 崩落する街にて」――
をお楽しみに!




