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ゼロバレット  作者: 水猫
ーー集合と選択 ― アシュレイ加入編ーー
28/74

028話 灰の静寂 ― その兆し

『ゼロバレット』の世界観やキャラ画像はこちら ↓


作者X(Twitter)で公開中!


https://x.com/MizunekoZeroB

――港湾区、夜明け。


 嵐は止み、灰の空がゆっくりと色を取り戻していく。

 海は静かだった。

 だが、静寂の奥にはまだ微かな“機械の息”が残っていた。


 ノアは崩れた防波堤に腰を下ろし、腕の擦り傷を確認する。

 金属片が肌に刺さり、うっすらと血がにじんでいた。

 風が冷たく、潮の匂いがしみた。


 アシュレイは近くのコンテナに腰を預け、ライフルを分解していた。

 火薬の残り香とオイルの匂いが、戦場の余韻をまだ離さない。


「……静かだな。」

「静かすぎる。」


 ノアの返答に、アシュレイは乾いた笑いを漏らした。

「“静寂”の複製体を壊したあとだからな。音が戻るまで時間がかかるんだろ。」


 桟橋の先、海面にはまだ光の粒が浮かんでいた。

 《Prototype-03/SILENCE》の残骸。

 機械でありながら、まるで呼吸するように波と共に揺れていた。


「……終わったと思っても、こうして残る。

 秩序ってやつは、しつこいな。」

 アシュレイが煙草に火をつけ、風下へ煙を吐いた。


 ノアは立ち上がり、灰の海を見つめた。

 波の向こうに、ぼんやりと“人の形”をした影が見えた。

 崩れた機体の一部。

 その胸には、かすかに赤い紋章――天秤のマーク。


「……まだ動いてる。」

「残留反応か?」


 ノアが小石を拾い、軽く投げた。

 波が弾け、影が沈む。

 完全に消える直前、微かに赤い光が海中に吸い込まれていった。


「……この“赤光”は、怒りの残滓じゃない。」

 ノアが低く言う。

「感情じゃなく、“命令”の信号だ。」


「命令?」

「上位機――つまり、ザラキエルからの指令だ。」


 アシュレイが煙草を投げ捨て、ブーツで踏み消した。

「まだ、繋がってるってことか。」


 その時、通信機が鳴った。

 ノアが応答する。


『――こちらアルディナ。聞こえる?』

 ネオンの声が混線気味に響く。

『三体の戦闘ログを解析した結果が出た。全部、同じ“基幹設計”を持ってる。』


「基幹設計……つまり、共通の中枢か?」

『ええ。でも問題はそこじゃない。

 制御コアの一部に、“人間の脳波パターン”が使われてたの。』


「脳波?」

 アシュレイが顔をしかめる。

「人工AIじゃなくて、人の……記録ってことか。」


『おそらく、ザラキエルのプロジェクトには実験体――つまり“人間の素材”が関与してる。

 それも、旧リスボニア研究区の……“秩序適応実験”系列。』


 ノアは静かに目を閉じた。

 かつて自分が歩いた戦場の光景がよぎる。

 無数の実験体、名もない兵士たち。

 その全てが、“神の秩序”という名の下で使い捨てにされていった。


「……つまり、あの機械たちは、“人の記憶”を継いで動いているってことか。」

『正確に言えば、“感情の残響”よ。

 怒り、静寂、断罪――全部、人が抱いた感情を複製したプログラム。』


 ノアは低く呟いた。

「人が神を模倣し、神が人の感情を模倣する……。」

 アシュレイが小さく笑った。

「結局、どっちも同じ穴のむじなってことだな。」


『ただ――一つ問題がある。』

 ネオンの声が少し沈む。

『複製体は四体で終わりじゃなかった。

 データベース上では、“Prototype-05”が存在してる。

 でも、戦闘記録も配置座標も一切残ってない。』


「つまり、まだ“生まれていない”。」

 ノアが言う。

「そう。だけど、その設計ファイルの最下層に“アクティブ・コード”があったの。

 ――昨日の戦闘後、わずかに“応答”した。」


 アシュレイが顔をしかめた。

「……応答? 誰に?」

『不明。ただ、場所は――あなたたちのいる港湾区の地下二十層。

 封鎖されていた“実験炉”の奥から。』


 ノアが立ち上がる。

 海風が、灰を巻き上げた。


「……行くしかないな。」

「休ませてくれねぇな、神様も。」

 アシュレイがライフルを担ぐ。

「地下の残骸か、それとも次の試作品か。どっちにしても“静寂”よりマシだろ。」


 ノアは短く笑い、歩き出した。

 背後の空で、雲がゆっくりと蠢いていた。

 まるで、何かを見下ろしているように。


 ――海の下、かすかな光が灯る。

 それは小さな赤い脈動。

 まるで“心臓”の鼓動のように、ゆっくりと――生まれ始めていた。

――次回更新:明日17:30公開予定


ブクマ・評価・感想が励みになります。


『ゼロバレット』続編、029話「灰の階層 ― 封鎖区潜入」――


をお楽しみに!


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