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ゼロバレット  作者: 水猫
ーー集合と選択 ― アシュレイ加入編ーー
27/74

027話 断罪の天 ― Prototype-04/JUDGMENT

『ゼロバレット』の世界観やキャラ画像はこちら ↓


作者X(Twitter)で公開中!


https://x.com/MizunekoZeroB

――港湾区沖。


 灰の海を裂くように、天から光が降り注いだ。

 だがそれは希望ではなかった。

 神が下す“裁き”の光だった。


 ノアとアシュレイは桟橋の端に立ち、

 静まり返った海を見据えていた。


 波が止まり、霧が割れる。

 海面の奥――泡が逆巻き、白銀の巨体が浮上する。


 その姿は、天秤の冠を戴く天使。

 だが、片翼は黒く、片翼は白い。

 人の形をしているのに、どこか“機械”とは思えぬ気配があった。


 《Prototype-04/JUDGMENT》。

 ――秩序を裁く、第四の未完成体。


『――均衡の逸脱、確認。対象:人類。』


 脳の奥を叩くような声が響いた瞬間、

 潮の匂いも、風の音も、空気の流れも変わった。

 重く、冷たい。

 まるで世界そのものが“判決”を待っている。


 アシュレイがライフルを構えた。

「話し合いはナシ、ってことか。」


 ノアは答えず、ただ刃を抜いた。

 銀の光が曇天の下で淡く反射する。

 呼吸を整え、視線で合図する。


(――合わせろ。)


 アシュレイが小さく頷いた。

 距離、約三百。風速ゼロ。重力偏差――異常値。


 《JUDGMENT》が腕を開く。

 白い翼から光が、黒い翼からは重力波が同時に放たれた。


 世界が反転する。

 海が浮かび、空が沈む。

 アシュレイが鉄骨の影に身を伏せ、ノアは地を蹴った。

 光が通った場所が、一瞬で焼き切れる。


「光と重力、二系統同時……!」

 アシュレイが息を呑む。

 スコープ越しに、視界が上下に歪んだ。


「距離が……測れねぇ。空間そのものがねじれてる。」


「なら、感覚で行け。」

 ノアの声が低く響く。

「お前の心拍と俺の歩幅――一拍ずらして撃て。」


「了解。」


 ノアが前へ出る。

 白い閃光の隙間を縫いながら、ブランク・リッジを構える。

 地面を蹴るたび、足元のコンクリートが波打った。

 重力が左右から押し潰してくる。

 膝の角度を変えるだけで、身体が“沈む”――まるで地そのものが吸い込もうとしていた。


(重力線、二十五度傾斜……今だ。)


 ノアが刃を横薙ぎに振る。

 風が裂け、周囲の重力の向きを“切り替えた”。

 ほんの一瞬、白と黒の境界が緩む。

 その“狭間”を、アシュレイが撃ち抜いた。


 ――パァン!


 銀弾が軌道を描く。

 弾丸は空気を滑り、ノアの刃の残光をかすめて《JUDGMENT》の肩部を貫いた。

 金属ではなく、光のような液体が弾けた。


『秩序の侵害。抵抗、無意味。』


 巨体が咆哮する。

 白翼が光を放ち、黒翼が沈み――世界の上下が再びねじれる。

 ノアが身を沈め、鉄骨を蹴って跳ぶ。

 アシュレイが後方から声を飛ばす。


「重力が右に偏ってる! 角度修正、二時方向だ!」


 ノアが刃を構え、傾いた空間を斜めに駆け上がる。

 まるで壁を走るような軌道だった。

 刃先が熱を帯び、白い翼の根元を掠める。

 火花ではなく、重力の“ひずみ”が弾けた。


 アシュレイはその間も照準を微調整する。

 弾道のブレが、風でも重力でもない――

 “神の意志”のように、わずかに揺れていた。


「なら――読めばいいだけだ。」


 彼は息を止める。

 心拍が、ノアの動きと重なった。


 トン、トン、――トン。


 二人の鼓動がひとつに重なる。


 ノアが低く滑り込み、刃を下から振り上げる。

 アシュレイが同時に撃つ。

 刃と弾丸が、同じ時間軸を走った。

 蒼と銀が交差し、閃光が走る。


 《JUDGMENT》の片翼が裂けた。

 だが、次の瞬間、空が震える。

 割れた翼の断面から、無数の光線が弧を描いて広がる。


『――断罪、開始。』


 上空に浮かぶ天秤が回転する。

 そこから降り注ぐのは、数え切れぬほどの光の槍。

 ひとつ落ちるたび、海が沸き、街が焼ける。


「ノア、下がれっ!」

 アシュレイが叫ぶ。

 だがノアは動かない。

 代わりに、一歩前へ出た。


「……裁く側に、裁かせない。」


 刃を構え、全身の力を解いた。

 怒りでも、恐れでもなく、ただ“静けさ”だけを残す。


 光の雨が迫る。

 アシュレイがトリガーを引く。

 ノアが同時に踏み込む。


 光の槍が二人を飲み込もうとした、その瞬間――

 蒼い閃光が海を切り裂いた。


 空間が“鳴った”。

 耳ではなく、骨が震える音。

 ノアの刃が、降り注ぐ光の角度を“ずらす”。

 弾丸がその線上を走り、全ての光を“押し返した”。


 ――爆光。


 世界が一瞬だけ白く染まり、そして崩れる。

 海が戻り、重力が静止する。

 《JUDGMENT》の仮面に、深い亀裂が走った。

 光がこぼれ、形が崩れ、やがて灰へと変わっていく。


 ノアが息を吐き、刃を下ろす。

 アシュレイがゆっくりと立ち上がった。


「……終わったか?」


「ああ。」

 ノアは空を見上げた。

 黒い雲の向こうで、天秤の紋章がゆっくりと崩れていく。


「未完成の神が、“裁き”を果たせるわけがない。」


 アシュレイはライフルを背負い、苦笑する。

「秩序がどうとか、もう飽きたな。

 人間が人間を裁く。それで十分だ。」


 ノアが小さく笑った。

「同感だ。」


 二人の背後で、灰の風が吹いた。

 海面に漂う《JUDGMENT》の残骸が、波に溶けて消える。

 その中心に、わずかに輝く粒子――

 それは、最後の“秩序”の欠片のように見えた。


 ――その時、ネオンの通信が入る。


『二人とも、データを確認。第四複製体の反応、消失。

 でも……同時に“何か”が動き始めた。』


「何か?」

 アシュレイが眉をひそめる。


『上層圏。雲の上よ。重力観測衛星が反応してる。

 ――第五複製体、《Prototype-05/END》。

 ザラキエルの“中核”が目を覚ました。』


 ノアは無言で海を見つめた。

 遠くで稲光が走る。

 雷ではない。

 空そのものが、形を変えていた。


「いよいよ、だな。」

 アシュレイが呟く。

 ノアは静かに刃を握り直す。


「終わらせよう。――この秩序を。」


 灰の港に波音が戻る。

 だがその下では、世界の“最終審判”が、静かに目を覚ましつつあった。


――次回更新:明日17:30公開予定


ブクマ・評価・感想が励みになります。


『ゼロバレット』続編、028話「灰の静寂 ― その兆し」――


をお楽しみに!


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