027話 断罪の天 ― Prototype-04/JUDGMENT
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――港湾区沖。
灰の海を裂くように、天から光が降り注いだ。
だがそれは希望ではなかった。
神が下す“裁き”の光だった。
ノアとアシュレイは桟橋の端に立ち、
静まり返った海を見据えていた。
波が止まり、霧が割れる。
海面の奥――泡が逆巻き、白銀の巨体が浮上する。
その姿は、天秤の冠を戴く天使。
だが、片翼は黒く、片翼は白い。
人の形をしているのに、どこか“機械”とは思えぬ気配があった。
《Prototype-04/JUDGMENT》。
――秩序を裁く、第四の未完成体。
『――均衡の逸脱、確認。対象:人類。』
脳の奥を叩くような声が響いた瞬間、
潮の匂いも、風の音も、空気の流れも変わった。
重く、冷たい。
まるで世界そのものが“判決”を待っている。
アシュレイがライフルを構えた。
「話し合いはナシ、ってことか。」
ノアは答えず、ただ刃を抜いた。
銀の光が曇天の下で淡く反射する。
呼吸を整え、視線で合図する。
(――合わせろ。)
アシュレイが小さく頷いた。
距離、約三百。風速ゼロ。重力偏差――異常値。
《JUDGMENT》が腕を開く。
白い翼から光が、黒い翼からは重力波が同時に放たれた。
世界が反転する。
海が浮かび、空が沈む。
アシュレイが鉄骨の影に身を伏せ、ノアは地を蹴った。
光が通った場所が、一瞬で焼き切れる。
「光と重力、二系統同時……!」
アシュレイが息を呑む。
スコープ越しに、視界が上下に歪んだ。
「距離が……測れねぇ。空間そのものがねじれてる。」
「なら、感覚で行け。」
ノアの声が低く響く。
「お前の心拍と俺の歩幅――一拍ずらして撃て。」
「了解。」
ノアが前へ出る。
白い閃光の隙間を縫いながら、ブランク・リッジを構える。
地面を蹴るたび、足元のコンクリートが波打った。
重力が左右から押し潰してくる。
膝の角度を変えるだけで、身体が“沈む”――まるで地そのものが吸い込もうとしていた。
(重力線、二十五度傾斜……今だ。)
ノアが刃を横薙ぎに振る。
風が裂け、周囲の重力の向きを“切り替えた”。
ほんの一瞬、白と黒の境界が緩む。
その“狭間”を、アシュレイが撃ち抜いた。
――パァン!
銀弾が軌道を描く。
弾丸は空気を滑り、ノアの刃の残光をかすめて《JUDGMENT》の肩部を貫いた。
金属ではなく、光のような液体が弾けた。
『秩序の侵害。抵抗、無意味。』
巨体が咆哮する。
白翼が光を放ち、黒翼が沈み――世界の上下が再びねじれる。
ノアが身を沈め、鉄骨を蹴って跳ぶ。
アシュレイが後方から声を飛ばす。
「重力が右に偏ってる! 角度修正、二時方向だ!」
ノアが刃を構え、傾いた空間を斜めに駆け上がる。
まるで壁を走るような軌道だった。
刃先が熱を帯び、白い翼の根元を掠める。
火花ではなく、重力の“ひずみ”が弾けた。
アシュレイはその間も照準を微調整する。
弾道のブレが、風でも重力でもない――
“神の意志”のように、わずかに揺れていた。
「なら――読めばいいだけだ。」
彼は息を止める。
心拍が、ノアの動きと重なった。
トン、トン、――トン。
二人の鼓動がひとつに重なる。
ノアが低く滑り込み、刃を下から振り上げる。
アシュレイが同時に撃つ。
刃と弾丸が、同じ時間軸を走った。
蒼と銀が交差し、閃光が走る。
《JUDGMENT》の片翼が裂けた。
だが、次の瞬間、空が震える。
割れた翼の断面から、無数の光線が弧を描いて広がる。
『――断罪、開始。』
上空に浮かぶ天秤が回転する。
そこから降り注ぐのは、数え切れぬほどの光の槍。
ひとつ落ちるたび、海が沸き、街が焼ける。
「ノア、下がれっ!」
アシュレイが叫ぶ。
だがノアは動かない。
代わりに、一歩前へ出た。
「……裁く側に、裁かせない。」
刃を構え、全身の力を解いた。
怒りでも、恐れでもなく、ただ“静けさ”だけを残す。
光の雨が迫る。
アシュレイがトリガーを引く。
ノアが同時に踏み込む。
光の槍が二人を飲み込もうとした、その瞬間――
蒼い閃光が海を切り裂いた。
空間が“鳴った”。
耳ではなく、骨が震える音。
ノアの刃が、降り注ぐ光の角度を“ずらす”。
弾丸がその線上を走り、全ての光を“押し返した”。
――爆光。
世界が一瞬だけ白く染まり、そして崩れる。
海が戻り、重力が静止する。
《JUDGMENT》の仮面に、深い亀裂が走った。
光がこぼれ、形が崩れ、やがて灰へと変わっていく。
ノアが息を吐き、刃を下ろす。
アシュレイがゆっくりと立ち上がった。
「……終わったか?」
「ああ。」
ノアは空を見上げた。
黒い雲の向こうで、天秤の紋章がゆっくりと崩れていく。
「未完成の神が、“裁き”を果たせるわけがない。」
アシュレイはライフルを背負い、苦笑する。
「秩序がどうとか、もう飽きたな。
人間が人間を裁く。それで十分だ。」
ノアが小さく笑った。
「同感だ。」
二人の背後で、灰の風が吹いた。
海面に漂う《JUDGMENT》の残骸が、波に溶けて消える。
その中心に、わずかに輝く粒子――
それは、最後の“秩序”の欠片のように見えた。
――その時、ネオンの通信が入る。
『二人とも、データを確認。第四複製体の反応、消失。
でも……同時に“何か”が動き始めた。』
「何か?」
アシュレイが眉をひそめる。
『上層圏。雲の上よ。重力観測衛星が反応してる。
――第五複製体、《Prototype-05/END》。
ザラキエルの“中核”が目を覚ました。』
ノアは無言で海を見つめた。
遠くで稲光が走る。
雷ではない。
空そのものが、形を変えていた。
「いよいよ、だな。」
アシュレイが呟く。
ノアは静かに刃を握り直す。
「終わらせよう。――この秩序を。」
灰の港に波音が戻る。
だがその下では、世界の“最終審判”が、静かに目を覚ましつつあった。
――次回更新:明日17:30公開予定
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『ゼロバレット』続編、028話「灰の静寂 ― その兆し」――
をお楽しみに!




