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ゼロバレット  作者: 水猫
ーー集合と選択 ― アシュレイ加入編ーー
26/74

026話 静寂の境界 ― Prototype-03/SILENCE

『ゼロバレット』の世界観やキャラ画像はこちら ↓


作者X(Twitter)で公開中!


https://x.com/MizunekoZeroB

――アルディナ拠点・戦術情報室。


 無機質なホログラムの光が、薄暗い部屋を淡く照らしていた。

 映し出されているのは、灰の街での戦闘記録。

 ノアとアシュレイが《Prototype-02/WRATH》を沈黙させた映像だ。


 ネオンは無言のまま、光のデータを指先で弾いた。


「……戦闘時間、わずか三分四十二秒。想定の半分以下ね。」


 リリスが隣で画面を覗き込みながら呟く。


「それだけ短時間で終わるの、普通じゃないわ。」


「普通じゃないのよ。」


 ネオンは軽くため息を吐き、データを拡大する。


「ノアは“揺らぎ”を読む。空間の歪みや熱流、風圧の偏差を感じ取って動く。

 アシュレイは“時間”を読む。引き金を引く瞬間を、相手の呼吸に重ねるの。

 ――つまり、二人でひとつの秤を作ってるってわけ。」


 リリスが感心したように微笑んだ。


「まるで動く天秤ね。」


「そう。ゼロバレットの名は、伊達じゃないわ。」


 ネオンが頷く。

 短い沈黙のあと、警報が鳴り響いた。


 ――ウゥゥゥゥン。


「地中熱源反応、上昇中。港湾区第七埠頭……!」


 ネオンの指が走る。


「《Prototype-03/SILENCE》、活動再開よ。」


「また実験兵器……。」


「しかもこいつ、過去の戦地では“音を消す”兵器として記録されてる。」


 ホログラムに三つの古い映像が浮かんだ。

 ヴァルハラ橋事件、ロスティア紛争、ナラク暴動鎮圧――

 どの映像も、全てが“無音”だった。


「……この世界の“音”を食べる機械。

 風も、声も、呼吸すら奪う。

 でも、完璧な静寂を作ると自分も消える――そういう矛盾した兵器よ。」


 ネオンは歯を噛みしめた。


「行かせるしかないわね。あの二人しか、あの領域には入れない。」


 リリスは小さく頷いた。


「ノア、アシュレイ……。生きて戻ってきて。」


 ――


 港湾区第七埠頭。

 霧が海と街を呑み、音がひとつ、またひとつと消えていく。


 ノアは足を止め、耳を押さえた。

 鼓膜が軋み、世界が遠のいていく。


 アシュレイが手信号で合図を送る。


(――通信、全遮断。ここからは呼吸で合わせる。)


 ノアは頷く。

 二人は同時に、深く息を吸い、吐いた。


 音が消えた。

 風も、波も、足音すら――ない。


 それでも、何かが「動いている」ことだけは分かる。


 霧の奥。

 輪郭のない人影が五つ。

 光と影の境界がゆらめき、まるで世界の端が“削り取られる”ようだった。


 《Prototype-03/SILENCE》。


 ――静寂を、司る者。


 ノアは刃を抜く。

 鋼の音は鳴らない。代わりに、冷気が肌を裂いた。


(距離、四十。……風がない。熱で読む。)


 アシュレイがスコープを覗く。

 だが、焦点が合わない。

 視界の中で、敵の形が“揺れて”いる。


(……空気の屈折。距離が測れねぇ。)


 ノアは足を滑らせ、床の温度を感じ取る。

 足裏から伝わる熱の波――敵の呼吸のように脈打つ。


(この空間そのものが、生きてる。)


 《SILENCE》が腕を振り上げた。

 瞬間、ノアの体が横に弾かれる。

 爆風はない。ただ、空気そのものが“掴まれた”ようだった。


 アシュレイが膝をつき、即座に銃を構える。

 引き金にかけた指が止まる。

 呼吸音が、ない。


(……音がなければ、タイミングもねぇか。)

(いいや――“心臓”で合わせろ。)


 ノアが視線で合図する。

 互いの胸が、同じリズムで打つ。


 トン、トン、――トン。


 ノアが走る。

 足音のない世界で、刃が“空気”を裂く。

 かすかな光の層が剥がれ、霧が波紋のように広がった。


 その瞬間、アシュレイが撃つ。


 ――パァンッ!


 音が、戻った。


 弾丸が霧を貫き、敵の胸部を砕く。

 ノアが続けざまに斬撃を放ち、残る個体を切り裂く。


 世界が震え、波の音が一斉に押し寄せた。

 霧が裂け、鉄骨が軋む。


 アシュレイが銃を下ろし、息をつく。


「……帰ってきたな、音。」


 ノアは刃を収め、崩れ落ちる機体を見つめる。


「完全な静寂は、続かない。矛盾のまま、崩壊する。」


 港の向こう、黒い雲の中で光が集まり始めた。

 白と黒、二つの翼を持つ紋章――“天秤”が浮かび上がる。


 ネオンの通信が入る。


『二人とも、強すぎる。でも……悪いニュースよ。

 空の異常波形、検出。Prototype-04――《JUDGMENT》が起動したわ。』


 アシュレイが苦笑する。


「怒りの次は静寂、その次は“裁き”か。順番めちゃくちゃだな。」


 ノアが空を見上げた。


「順番が狂うのは、神が未完成だからだ。」


 アシュレイが銃を肩に担ぐ。


「じゃあ、終わらせようぜ。――未完成の神様を。」


 灰の港に、波音が戻った。

 しかしその下では、“裁き”の光がゆっくりと息づき始めていた。




――次回更新:明日17:30公開予定


ブクマ・評価・感想が励みになります。


『ゼロバレット』続編、027話「断罪の天 ― Prototype-04/JUDGMENT」――


をお楽しみに!



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