025話 憤怒の残響 ― Prototype-02/WRATH
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――アルディナ拠点・戦術情報室。
ホログラムの光が淡く室内を照らしていた。
映し出されているのは、灰の街での記録映像。
ノアとアシュレイが《Prototype-01/ORDER》を相手に戦ったときのログだった。
ネオンは腕を組み、淡々と再生データを解析する。
隣でリリスが画面を覗き込む。
「……二人とも、あの距離で誤差ゼロ。ほとんど反射レベルね。」
「反射じゃない。」
ネオンは目を細める。
「ノアは空間の“揺らぎ”を読む。アシュレイはそれに時間を合わせる。
計算じゃなく、戦場の“呼吸”で噛み合ってる。」
「まるで……動く秤ね。」
リリスが呟いた。
ネオンは軽く笑う。
「ゼロバレットって名前は、伊達じゃないわ。
“ゼロ”の状態で戦う。感情も雑念も排除して、ただ秤のように動く。
でも、それが人間にどれほど負荷か――本人たちも分かってるのかしらね。」
リリスが静かに息を吐く。
「それでも、彼らは前に出る。……それがノアであり、アシュレイよ。」
ネオンが再び画面を操作する。
ノアの背中に見える刻印――天秤の紋章を指差した。
「この印が能力でも加護でもなく、“誓い”であることを、全員が理解してる。
力じゃなく、責任。――それがゼロバレットの本質よ。」
その瞬間、警報が鳴った。
赤い光が室内を満たす。
ネオンの表情が引き締まる。
「地中熱源反応――急上昇。旧リスボニア動力区。
Prototype-02が活動開始。」
「また一人で行かせるの?」
リリスが問う。
ネオンは首を横に振る。
「今度はアシュレイと一緒。……あの二人以外、あの領域には入れない。」
――
地下五階・旧動力区
空気が重い。
熱のせいではない。
“怒り”のような振動が、金属の壁の奥から滲み出ている。
ノアは遮断された通路を進みながら、足音を殺した。
背後ではアシュレイが銃を構えてついてくる。
「……感情の匂いがする。」
「“憤怒”を模倣した機体だ。周囲の神経反応を検知して出力を変える。
怒れば怒るほど、奴の力は増す。」
アシュレイは苦笑した。
「じゃあ、今日は無表情大会だな。」
奥の空洞に着くと、床一面が焼け焦げていた。
そこに二つの影――ラザロとダリオが倒れている。
ノアが駆け寄る。
「生きてる……けど意識がない。」
アシュレイがラザロの傷を確認し、顔をしかめた。
「この傷、俺の弾痕だ。……任務のときのままか。」
ノアが静かに言う。
「早く救助しなきゃ。」
そのとき、地面が低く唸った。
照明が明滅し、鉄の床が盛り上がる。
「……来る。」
熱風が吹き抜けた。
赤黒い装甲の巨体が、溶けた金属を踏みしめながら姿を現す。
《Prototype-02/WRATH》。
無数のケーブルのような神経が胴体を這い、内部で赤い光が脈動していた。
頭部は存在せず、代わりに光の孔がひとつ。
そこから、まるで心臓の鼓動のように低周波が響く。
アシュレイがスコープを覗きながら呟く。
「……熱源、上限突破。もう戦車砲レベルの出力だぞ。」
ノアが冷静に言う。
「感情波で過熱してる。理性がない分、行動も読めない。」
《WRATH》が腕を振り上げる。
同時に、空気が爆ぜた。
衝撃波が鉄骨を折り、コンクリートを粉砕する。
ノアが跳び、アシュレイが銃を撃つ。
だが着弾の瞬間、弾丸が溶けた。
「くそっ……熱で弾道が歪む!」
「熱じゃない、“怒り”そのものだ。」
ノアが叫ぶ。
「弾が“拒絶”されてる。」
アシュレイが目を細め、呼吸を整える。
「なるほど、そういうことか。」
彼は一瞬で姿勢を変え、伏射姿勢から最小限の動作でスコープを覗いた。
「怒りが燃料なら、無感情で撃てばいい。」
ノアが頷き、刃を構える。
「無に還せ。」
アシュレイの指がトリガーに触れる。
呼吸ゼロ。心拍ゼロ。
引き金を引いた瞬間、銀の閃光が一直線に走る。
同時にノアが踏み込んだ。
《WRATH》の正面をとり、重心をずらすように斬り上げる。
赤と銀が交差した。
巨体が一瞬静止し、内部の光が爆ぜる。
耳をつんざく衝撃音――そして、沈黙。
ノアが刃を収める。
「出力停止。中枢、沈黙。」
アシュレイが煙草をくわえながら言った。
「このサイズで、実験体か。ザラキエルってやつ、どんな神様気取りだ。」
ノアがふと、倒れた機体の胸に目をやる。
「……“秩序の継承”。」
「どういう意味だ?」
「秩序を超えた怒りは、次の感情を呼ぶ。……静寂だ。」
アシュレイが鼻で笑う。
「怒りの次が静寂。バランスの取り方、狂ってるな。」
ノアが微かに笑った。
「ああ、狂っている。」
その背後で、ラザロがゆっくりと意識を取り戻す。
「……おい、アシュレイ……お前が助けたのか。」
「撃ったのも俺だ。……まぁ、帳消しだな。」
ダリオが端末を叩き、かすれ声で言う。
「ノア、上層から通信だ。ネオンが言ってる――熱源がもうひとつある。」
ノアが顔を上げる。
「“静寂”か。」
アシュレイがライフルを担ぎ直す。
「行くぞ。怒りの次は沈黙だ。
……今度は、耳が壊れる前に終わらせよう。」
ノアはうなずき、静かに歩き出した。
背後では、崩れた《WRATH》の残骸が微かに光を放つ。
その光はまるで、まだ“感情”を探しているようだった。
――地下に、再び静寂が落ちる。
だが、それは終わりではなかった。
遠く、港湾区の方向で“音の消える波”が、静かに拡がり始めていた。
――次回更新:明日17:30公開予定
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『ゼロバレット』続編、026話「静寂の境界 ― Prototype-03/SILENCE」――
をお楽しみに!




