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ゼロバレット  作者: 水猫
ーー集合と選択 ― アシュレイ加入編ーー
25/74

025話 憤怒の残響 ― Prototype-02/WRATH

『ゼロバレット』の世界観やキャラ画像はこちら ↓


作者X(Twitter)で公開中!


https://x.com/MizunekoZeroB

――アルディナ拠点・戦術情報室。


ホログラムの光が淡く室内を照らしていた。

映し出されているのは、灰の街での記録映像。

ノアとアシュレイが《Prototype-01/ORDER》を相手に戦ったときのログだった。


ネオンは腕を組み、淡々と再生データを解析する。

隣でリリスが画面を覗き込む。


「……二人とも、あの距離で誤差ゼロ。ほとんど反射レベルね。」

「反射じゃない。」

ネオンは目を細める。

「ノアは空間の“揺らぎ”を読む。アシュレイはそれに時間を合わせる。

 計算じゃなく、戦場の“呼吸”で噛み合ってる。」


「まるで……動く秤ね。」

リリスが呟いた。


ネオンは軽く笑う。

「ゼロバレットって名前は、伊達じゃないわ。

 “ゼロ”の状態で戦う。感情も雑念も排除して、ただ秤のように動く。

 でも、それが人間にどれほど負荷か――本人たちも分かってるのかしらね。」


リリスが静かに息を吐く。

「それでも、彼らは前に出る。……それがノアであり、アシュレイよ。」


ネオンが再び画面を操作する。

ノアの背中に見える刻印――天秤の紋章を指差した。

「この印が能力でも加護でもなく、“誓い”であることを、全員が理解してる。

 力じゃなく、責任。――それがゼロバレットの本質よ。」


その瞬間、警報が鳴った。

赤い光が室内を満たす。

ネオンの表情が引き締まる。


「地中熱源反応――急上昇。旧リスボニア動力区。

 Prototype-02が活動開始。」


「また一人で行かせるの?」

リリスが問う。


ネオンは首を横に振る。

「今度はアシュレイと一緒。……あの二人以外、あの領域には入れない。」


――


地下五階・旧動力区


空気が重い。

熱のせいではない。

“怒り”のような振動が、金属の壁の奥から滲み出ている。


ノアは遮断された通路を進みながら、足音を殺した。

背後ではアシュレイが銃を構えてついてくる。


「……感情の匂いがする。」

「“憤怒”を模倣した機体だ。周囲の神経反応を検知して出力を変える。

 怒れば怒るほど、奴の力は増す。」


アシュレイは苦笑した。

「じゃあ、今日は無表情大会だな。」


奥の空洞に着くと、床一面が焼け焦げていた。

そこに二つの影――ラザロとダリオが倒れている。


ノアが駆け寄る。

「生きてる……けど意識がない。」

アシュレイがラザロの傷を確認し、顔をしかめた。

「この傷、俺の弾痕だ。……任務のときのままか。」


ノアが静かに言う。

「早く救助しなきゃ。」


そのとき、地面が低く唸った。

照明が明滅し、鉄の床が盛り上がる。


「……来る。」


熱風が吹き抜けた。

赤黒い装甲の巨体が、溶けた金属を踏みしめながら姿を現す。


《Prototype-02/WRATH》。


無数のケーブルのような神経が胴体を這い、内部で赤い光が脈動していた。

頭部は存在せず、代わりに光の孔がひとつ。

そこから、まるで心臓の鼓動のように低周波が響く。


アシュレイがスコープを覗きながら呟く。

「……熱源、上限突破。もう戦車砲レベルの出力だぞ。」

ノアが冷静に言う。

「感情波で過熱してる。理性がない分、行動も読めない。」


《WRATH》が腕を振り上げる。

同時に、空気が爆ぜた。

衝撃波が鉄骨を折り、コンクリートを粉砕する。


ノアが跳び、アシュレイが銃を撃つ。

だが着弾の瞬間、弾丸が溶けた。


「くそっ……熱で弾道が歪む!」

「熱じゃない、“怒り”そのものだ。」

ノアが叫ぶ。

「弾が“拒絶”されてる。」


アシュレイが目を細め、呼吸を整える。

「なるほど、そういうことか。」


彼は一瞬で姿勢を変え、伏射姿勢から最小限の動作でスコープを覗いた。

「怒りが燃料なら、無感情で撃てばいい。」


ノアが頷き、刃を構える。

「無に還せ。」


アシュレイの指がトリガーに触れる。

呼吸ゼロ。心拍ゼロ。

引き金を引いた瞬間、銀の閃光が一直線に走る。


同時にノアが踏み込んだ。

《WRATH》の正面をとり、重心をずらすように斬り上げる。


赤と銀が交差した。


巨体が一瞬静止し、内部の光が爆ぜる。

耳をつんざく衝撃音――そして、沈黙。


ノアが刃を収める。

「出力停止。中枢、沈黙。」

アシュレイが煙草をくわえながら言った。

「このサイズで、実験体か。ザラキエルってやつ、どんな神様気取りだ。」


ノアがふと、倒れた機体の胸に目をやる。


「……“秩序の継承”。」

「どういう意味だ?」

「秩序を超えた怒りは、次の感情を呼ぶ。……静寂だ。」


アシュレイが鼻で笑う。

「怒りの次が静寂。バランスの取り方、狂ってるな。」


ノアが微かに笑った。

「ああ、狂っている。」


その背後で、ラザロがゆっくりと意識を取り戻す。

「……おい、アシュレイ……お前が助けたのか。」

「撃ったのも俺だ。……まぁ、帳消しだな。」


ダリオが端末を叩き、かすれ声で言う。

「ノア、上層から通信だ。ネオンが言ってる――熱源がもうひとつある。」


ノアが顔を上げる。

「“静寂”か。」


アシュレイがライフルを担ぎ直す。

「行くぞ。怒りの次は沈黙だ。

 ……今度は、耳が壊れる前に終わらせよう。」


ノアはうなずき、静かに歩き出した。

背後では、崩れた《WRATH》の残骸が微かに光を放つ。

その光はまるで、まだ“感情”を探しているようだった。


――地下に、再び静寂が落ちる。

だが、それは終わりではなかった。


遠く、港湾区の方向で“音の消える波”が、静かに拡がり始めていた。

――次回更新:明日17:30公開予定


ブクマ・評価・感想が励みになります。


『ゼロバレット』続編、026話「静寂の境界 ― Prototype-03/SILENCE」――


をお楽しみに!


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