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ゼロバレット  作者: 水猫
ーー交錯する意志と取引ーー
23/74

023話 共鳴 ― 音のない心臓

『ゼロバレット』の世界観やキャラ画像はこちら ↓


作者X(Twitter)で公開中!


https://x.com/MizunekoZeroB

――風が、死んでいた。


砂でもなく、灰でもなく、

それは焼け落ちた街の残骸そのものだった。


かつて“リスボニア都市圏”と呼ばれたこの場所は、

十年前に“秩序の実験場”として地図から消えた。

誰も近づかない。誰も帰らない。

それでも、ノアは歩いていた。


灰の空。ひび割れたアスファルト。

地平線まで沈黙に支配された街。


――音が、ない。

風の流れすら感じられない。

まるでこの世界だけ、呼吸をやめたようだった。


ノアは立ち止まり、膝をつく。

掌を地面に当て、静かに目を閉じる。


鼓動を――聴く。


彼の感覚は、空気の震えすら数値として読める。

微細な砂の摩擦、遠くの電磁ノイズ、

そして……“欠落した音の形”。


「……吸い込まれてるな。」

小さく呟いた声さえ、すぐに空に溶けた。


背後から、軽い靴音。

「ノア、ここ……本当に“現場”なの?」


カリナが肩に銃を掛けたまま、顔をしかめる。

黒く焼けた建物の残骸が、煙のように立ち昇っていた。


ノアは頷く。

「ここで通信が切れた。ラザロとダリオがいたはずだ。」


「通信妨害か?」

「いや……“音そのもの”が封じられてる。通信波も音波も全部消える。」


カリナの表情が曇る。

「……そんなの、どうやって戦うのよ。」


「“見えない音”を読む。」

ノアは淡々と答えた。


彼の胸の刻印――《蒼白の天秤》が、微かに脈動を始める。

空気が震え、静寂の中に“重さ”が生まれた。


――トクン。

まるで、世界がノアの鼓動に合わせて動き出すかのように。


その瞬間、彼は“異物”を感じた。


瓦礫の壁に穿たれた、奇妙な弾痕。

円形ではなく、螺旋状に削り取られたコンクリート。

中心には、熱も摩擦も残っていない。


ノアが指を滑らせた。

「……消滅弾痕。音速の五倍以上。摩擦熱も音波も跡形がない。」


カリナが目を細める。

「そんな弾、誰が撃てるの?」


ノアはわずかに間を置いて答えた。

「――“銀弾の狩人(Silver Bullet)”。アシュレイ・ケイン。」


その名を口にした瞬間、胸の天秤が強く打った。

まるで遠くの何かと呼応するように。


カリナが息を飲む。

「まさか……あの世界ランカーの?」

「奴が使ってる狙撃術、“弾速共鳴(Resonant Ballistics)”。

 音のない弾を撃つ。衝撃だけを残して。」


ノアの目が細まる。

「……この静寂、奴の射界だ。」


灰が揺れた。

空気がねじれ、空間が一瞬だけ歪む。


「カリナ、下がれ。」

ノアの声が、低く鋭く響いた。


――次の瞬間。


“世界”が一度だけ震えた。

音はない。ただ衝撃だけが身体を打つ。

ノアが瞬時に身を沈め、鉄骨の影へ滑り込む。

カリナは反対側に転がり込み、地面のひび割れに体を伏せた。


――ズンッ。


壁の一部が音もなく消える。

まるでそこだけ世界が“削除”されたように。


ノアは息を殺し、目を閉じた。

聴覚を切り、代わりに“振動”を読む。


(……北西、高台、距離680メートル。風速はゼロ。撃ち下ろし角……7時方向。)


ノアは息を吸い込み、カリナに手信号を送る。

――離脱。単独行動。


カリナは眉を寄せるが、ノアの瞳を見て頷いた。

(行くつもりね……ひとりで。)


ノアは灰の中を歩き出した。

音のない世界を、まるで水の中を泳ぐように進む。

灰が舞うたび、光が反射する。


その“静寂の反射”の中に、

――光が一瞬、走った。


丘の上。

崩れた通信塔の残骸の中で、スコープが銀色に閃く。


そこに立つ男――アシュレイ・ケイン。


灰色の瞳が冷ややかに細められる。

「……丸腰で来るか。」


彼は息を整え、銃口をわずかに下げた。

引き金に指をかけたまま、視線だけでノアを“測る”。


(白銀の髪……蒼の刻印……)

(……まさか、あの夜の“呼吸”の奴か。)


アシュレイは、ゆっくりとスコープを外した。

銃口を地面に向け、一発撃つ。


――乾いた衝撃波が砂を裂き、ノアの横を通り抜けた。


ノアは立ち止まり、動かない。

“その撃ち方”を知っていた。

敵意ではなく――確認の合図。


ノアの口角がわずかに上がる。

「……やっぱり、お前か。」


胸に手を当てる。

《蒼白の天秤》が淡く光った。


アシュレイの瞳がそれに呼応するように揺れる。

「……“無音の夜”。ガリレア砂漠戦線。

 お前……あの時、俺の照準を導いた奴だな。」


ノアが静かに頷いた。

「お互い、顔は知らなかったが――呼吸でわかった。」


アシュレイは苦笑し、銃を背負った。

「まったく……あの夜以来だ。」

「奇遇だな。今度は、同じ敵だ。」


二人が視線を交わしたその瞬間――


地面の下から、振動。

通信機がノイズを吐く。


『ノア、聞こえる!?』ネオンの声。

『地下深層から異常熱反応! 五つの同一波形――

 識別コード“Prototype/ORDER群”起動確認!』


ノアが空を仰ぐ。

「……やはり、この静寂は“神の実験場”だったか。」


アシュレイが銃を構える。

「未完成の兵器か、それとも――処刑装置か。」


足元の亀裂から、白い光が滲み出す。

鉄骨が浮き上がり、瓦礫が逆流する。


――地の底から、白銀の影。


人型。

だが、あまりに滑らかで、人ではない。

“天秤”の紋章が胸に刻まれている。


刻印:Prototype-01/ORDER。

“秩序の剣”――ザラキエルの複製実験体。


ノアとアシュレイが同時に構える。

灰が舞い、空が裂ける。


音が、戻った。


その瞬間、二人の鼓動が――完全に重なった。


共鳴。

蒼と銀の波動が、戦場に走る。

神の欠片が目を覚まし、

“ゼロバレット”の物語が、静かに動き出した。

――次回更新:明日17:30公開予定


ブクマ・評価・感想が励みになります。


『ゼロバレット』続編、024話「灰の秤 ― Prototype-01/ORDER」――


をお楽しみに!


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