022話 無音の弾丸 ― 0.02秒の死
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――世界が止まった。
灰の空が一瞬、光を裂いた。
爆音も衝撃もない。
ただ、ノアの瞳の中で、空気が歪んだ。
「……来る。」
ノアの声が低く落ちた。
次の瞬間、地面が消えた。
灰が弾け、鉄骨が吹き飛ぶ。
カリナが咄嗟にノアを引き寄せる――が、
彼女の腕が一瞬で裂けた。
「――っ!?」
鮮血が舞い、音もなく空気に溶けていく。
「カリナ!」
ノアが彼女を抱きかかえ、瓦礫の影へ滑り込む。
呼吸の音すら聞こえない。
世界が、吸われている。
ノアは瞳を閉じ、集中する。
視覚ではない。聴覚でもない。
ただ、“空気の揺らぎ”そのものを感じ取る。
――風速:0。気圧:変動なし。
だが、何かが「空を押して」いる。
ノアが呟く。
「……0.02秒後に、弾が来る。」
カリナが息を荒げながら顔を上げる。
「見えてるの……?」
「見えてない。……“感じてる”。」
ノアは《ヴェイルライン》を構える。
トリガーに指をかけるその瞬間、
彼の胸の“蒼白の天秤”が微かに脈打った。
蒼い光が、灰の中で薄く浮かぶ。
それは共鳴。
彼の感覚が、誰かの“殺気”と重なった瞬間。
ノアは呟く。
「……お前、どこで撃ってる?」
その声に、遠くの丘の上――
答えるように風が返った。
――シュン。
0.02秒。
弾丸が、世界の間を貫く。
ノアは腰を落とし、刃で受け流した。
キィィン――!
音のない音が、空を裂いた。
銀の火花が散り、灰が反転する。
カリナが目を見開いた。
「……今、弾を……斬ったの?」
ノアは息を吐く。
「まだだ。次が本命だ。」
風が止まる。
灰が逆流する。
ノアの視界に、一瞬だけ見えた。
光を纏う狙撃銃。
そして、その後ろに――
冷たい瞳の男。
「……“銀弾の狩人”。」
ノアが呟いた瞬間、再び世界が閃光に包まれる。
――ドン。
音はない。
しかし、衝撃だけが確かに存在した。
ノアの肩をかすめ、壁がえぐれ、
灰が炎のように舞い上がる。
「……やっぱり、見えてるのか。」
遠く、丘の上。
アシュレイ・ケインがゆっくりと立ち上がった。
銀の髪が揺れ、灰色の外套がはためく。
その眼差しは、獣のように鋭くも、どこか静かだった。
彼はライフルを下ろし、
風の中で小さく呟く。
「お前だけだな。俺の弾を“視た”のは。」
ノアは銃を構え直し、薄く笑う。
「……なら、俺が初めての例外だ。」
二人の間に、殺意と敬意が同居する沈黙が走った。
そして、ノアが初めて感じた――
この狙撃手は“敵”ではない。
どこか、自分と同じ“空白”を抱えている。
蒼白と銀。
二つの色が、灰の戦場で共鳴した。
――この瞬間が、“出会い”だった。
――次回更新:明日17:30公開予定
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『ゼロバレット』続編、023話「共鳴 ― 音のない心臓」――
をお楽しみに!




